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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第29話 神崎誠一が研究室に来た。二人のおじさん、ダンジョンの秘密に迫る

 三日後の午前、インターフォンが鳴った。


 「田中さん、神崎です」


 「どうぞ」


 神崎誠一が入ってきた。


 背中に大きなリュックを背負っていた。両手にも紙袋を持っていた。


 「……多いですね」


 「五年分の資料ですからね」


 「五年分?」


 「向こうで書き溜めたものを、全部持ってきました。田中さんの記憶と照合したくて」


 「わかりました。とりあえず入ってください」


 神崎誠一が六畳一間に入った。


 部屋を見回した。


 「……質素ですね」


 「普通だと思いますが?」


 「いえ、異世界の王の自宅としては…」


 「田中武志の自宅なもので」


 「それはそうですね」


 神崎誠一が紙袋をテーブルに置いた。


 「コーヒーはありますか?」


 「インスタントなら」


 「それで十分です。五年間コーヒーを飲んでいなかったので」


 「向こうにはコーヒーがなかったですか?」


 「コーヒーに似た飲み物はありました。でも違う。やっぱり日本のコーヒーが飲みたかったんです」


 「薄いですよ?」


 「構いません」


 俺はコーヒーを二つ作った。


 二人でテーブルを挟んで座った。


 神崎誠一がコーヒーを一口飲んだ。


 「……薄いですね」


 「言いましたよ?」


 「でも美味しい。日本の味だ…!」


 神崎誠一が目を細めた。


 「……これが飲みたかったんです」


 俺はそれを聞いて、少し思った。


 薄いコーヒーが恋しい人もいるのか、と。



 資料を広げ始めた。


 神崎誠一のノートが、まず三冊出てきた。


 ぎっしりと書いてある。図も多い。


 「向こうで書いたんですか?」


 「書き続けました。田中さんが帰ってきたときに役に立てると思って…」


 「五年間、ずっと?」


 「研究者ですから。手を動かしていないと落ち着かない」


 「リオさんに似ていますね」


 「逆です。リオが私に似ているんですよ?」


 「確かに、そうですね」


 神崎誠一がノートを開いた。


 「まず確認させてください。田中さんは、渋谷ダンジョンを自分が設計したという記憶がありますか?」


 「ありますね」


 「全てのダンジョンを?」


 「全てかどうかはわかりませんが、少なくとも渋谷と新宿のダンジョンは、俺が設計に関わった記憶があります」


 神崎誠一がノートに書き込んだ。


 「設計の目的は?」


 「二つの世界を繋ぐ通路を作ること。そして、帰ってきたときに、自分が帰ってきたとわかるようにすること」


 「自分のために作った、と?」


 「半分は。残り半分は、向こうからこちらへの通路としても使えるように」


 「向こうからこちらへ?」


 「双方向にしたかったんです。俺が向こうへ行けるだけでなく、向こうの人がこちらへ来られる可能性も作りたかった」


 神崎誠一が手を止めた。


 「……それは、まだ実現していませんね」


 「そうです。扉を開けるには帰還者の力が必要なので、今のところ俺しか開けられないので」


 「向こうの人間が、こちらに来る方法はあると思いますか?」


 俺は少し考えた。


 「……あるかもしれません。記憶を探ると、その方法を設計しようとしていた記憶がある気がします。でも、まだはっきりしない」


 「どんな方法か、わかりますか?」


 「今は、まだなんとも」


 神崎誠一がノートに何かを書いた。


 「……田中さん、これがダンジョンの核心になると思います」


 「ダンジョンの?」


 「ダンジョンの歴史の、という意味です」


 「研究者らしい言い方ですね」


 「ありがとうございます」



 昼になった。


 外に出て、近所のうどん屋に行った。


 神崎誠一が五年ぶりのうどんを食べながら目を細めていた。


 「……うどんが食べたかった」


 「向こうにもうどんに似たものはありましたか?」


 「ありました。でも違う。出汁の香りが違う」


 「そうですか」


 「田中さんは、向こうで何が食べたかったですか?」


 「向こうの記憶がなかったので、何かが恋しいという感覚はなかったです。ただ今思うと、向こうのパンは美味しかったです」


 「向こうのパンは美味しいですね。私も好きでした」


 「こちらのパンとどちらが好きですか?」


 「……どちらも好きです」


 「俺も両方好きです」


 「我々は両方を知っている人間ですからね」


 「そうなりますね」


 神崎誠一がうどんをすすりながら言った。


 「田中さん、一つ個人的なことを聞いてもいいですか?」


 「どうぞ」


 「リオのことを、これからも見ていてもらえますか?」


 「見ていますよ?」


 「私は研究者だから、ついつい仕事優先になる。五年間向こうにいたのも、半分は研究のためだったと正直言うと」


 「半分は?」


 「……もう半分は、田中さんを待つためです。でも、それをリオに言い訳にはしたくない。父親として、失格だったと思っています」


 俺は少し間を置いた。


 「リオさんは、お父様のことを信じていましたよ。ずっと」


 「……会ったとき、泣いていましたか?」


 「泣いていました」


 「……そうですか」


 神崎誠一がうどんを一口食べた。


 「泣いてくれるということは、待っていてくれたということですから。それが、とてもありがたかった」


 「そうですね」


 「田中さんも、待っていてくれた人がいましたね」


 「何人も」


 「よかったですね」


 「よかったです」


 二人で、しばらくうどんを食べた。


 昼の食堂は賑やかだった。


 俺たちの会話は、その中にさりげなく溶け込んでいた。


 異世界を知っている二人のおじさんが、日本のうどん屋で出汁の香りを楽しんでいた。


 それが、当たり前のように、良かった。



 午後、研究を再開した。


 神崎誠一が資料を一枚出した。


 「これを見てください」


 向こうで書いた図だった。


 ダンジョンの断面図に似ていたが、違う部分があった。


 第十一層の下に、さらに空間が書いてあった。


 「……これは?」


 「向こうの文献を調べていたら、ダンジョンには第十二層がある可能性が示唆されていました。ただ、誰も行ったことがない」


 「第十二層?」


 「はい。そして…」


 神崎誠一が指で図の一点を示した。


 「第十二層に、こちらの世界からも向こうの世界からも開けられる扉がある可能性があります」


 俺は図を見た。


 記憶の中を探った。


 「……そうかもしれません」


 「田中さんの記憶にも、何かありますか」


 「第十二層、という言葉は出てきませんが、もう一つ深い場所を作ろうとしていた気がします。両方向から開けられる場所を」


 「それが第十二層だと思います」


 「到達するには?」


 「第十一層を通る必要があります。今の扉のさらに奥に、入口があるはずです」


 「……行ってみる必要がありますね」


 「そう思います。ただし…」


 神崎誠一が眼鏡を直した。


 「田中さん、第十二層は完成していないかもしれません。設計途中で、田中さんがこちらに来てしまった可能性がある」


 「完成していない扉、ということですか?」


 「はい。完成させるには、田中さんの力が必要だと思います」


 俺は少し考えた。


 「……それが完成すれば、向こうの人がこちらに来られる、と?」


 「そうです」


 「シルヴィアが来られる」


 「……そういうことになります」


 俺は右手を見た。


 光っていなかった。


 だが、温かかった。


 「……やってみます」


 「いつ行きますか?」


 「次の配信のときにでも」


 「配信しながら行くんですか?」


 「透明性のためです」


 神崎誠一が少し笑った。


 「政府との取り決めらしい言葉ですね」


 「先日覚えました」


この日の内容は後日サクラが配信で公開 — 再生数:28,441,882

ガチ勢777:第十二層の存在が明らかになった!! しかも両方向から開けられる扉がある

エトウ:シルヴィアちゃんがこちらに来られる可能性が出てきた ヒナちゃん大丈夫か

匿名A:神崎誠一が薄いコーヒーを「美味しい、日本だ」って言ったので好きになった

プロ冒険者X:スーツのおじさんと研究者のおじさんが六畳一間で資料広げてるの最強のツーショット

リオ推し:神崎誠一が「リオの泣いた顔がありがたかった」って言ったの……父と娘の話が全部繋がった

ヒナ推し最前線:「第十二層完成したらシルヴィアが来られる」 ヒナちゃんに言わないとな

キリソウ実況:次の配信で第十二層に行くのか 準備しとく

匿名B:うどん屋で世界の秘密を話してるおじさん二人 この絵面が好き



 夕方、神崎誠一が帰り支度を始めたとき、ドアがノックされた。


 リオだった。


 「……お父さん、まだいたんだ」


 「遅くなってしまった。田中さんとの話が、思ったより弾んでしまってね」


 「弾んだ?」


 「研究の話になると、止まらなくなってしまって。田中さんも話してくれるから」


 リオが俺を見た。


 「田中さん、お父さんの相手をありがとうございました!」


 「こちらこそ。勉強になりましたよ?」


 「勉強になりましたって……田中さんの方が知ってることの方が多いでしょう?」


 「俺は記憶が断片的ですが、神崎さんは五年間の記録がある。補い合えます」


 神崎誠一がリュックを背負いながら言った。


 「田中さん、また来てもいいですか?」


 「いつでも」


 「コーヒーはインスタントのままで構いません」


 「いや、それしかないので」


 「それでいいです」


 リオが父を見た。


 「お父さん、また田中さんの家に来るの?」


 「来る。研究の続きがあるからね」


 「……私も来ていいですか?」


 「もちろんです」


 と、俺は言った。


 「田中さんの家に三人で来るの、なんか変な感じですね」


 リオが言った。


 「研究会みたいな」


 「そうなりますね」


 「うちは記録係をやります」


 「サクラさんと競合しますね」


 「……サクラには負けません」


 神崎誠一が二人のやり取りを見て、静かに笑っていた。


 「……リオ」


 「なに?」


 「いい仲間ができたな」


 リオが少し間を置いた。


 「……うん」


 短く、でも確かに答えた。



 二人が帰ったあと、俺は一人でテーブルの前に座った。


 資料が積まれていた。


 神崎誠一が置いていったノートが三冊。


 俺の記憶と、五年間の研究が、このテーブルの上で交差した。


 第十二層。


 両方向から開けられる扉。


 完成させれば、向こうの人がこちらに来られる。


 シルヴィアがここに来られる。


 ガルドが来られる。ゼナが来られる。


 そう思った瞬間、岩田局長の顔が浮かんだ。


 向こうにいるかもしれない岩田陸。


 もし彼が向こうで生きているなら、戻ってくる手段ができる。


 扉を完成させることで、こちらへ帰れる人間が増えるかもしれない。


 「……やることが増えたな」


 思わず口から出た。


 やることが増えた分だけ、必要とされているということだ。


 スマホを見た。


 ヒナからメッセージが来ていた。


 《今日、神崎誠一さんと話してたって聞きました。どうでしたか?》


 《良かったですよ。第十二層という場所の話が出ました》


 《第十二層? また新しい場所が出てきたっ!》


 《次の配信で行きたいと思っています》


 《行きます。当然!》


 《ありがとうございます》


 《それより、今日の発見、サクラが後で全部まとめて配信に出すって言ってましたよ?》


 《知っています。許可しましたから》


 《田中さんの六畳一間、世界に公開されますよ》


 《……そうなりますね》


 《恥ずかしくないですか?》


 《特には》


 《田中さんはそういう人ですよね》


 《そういう人ですね》


 《よし》


 また「よし」だった。


 今回の意味は、そのままでいい、だと思った。


 俺は資料を少し整理してから、コーヒーをもう一杯作った。


 やっぱり薄かった。


 でも、二杯目も悪くなかった。


 今日は薄いコーヒーが恋しい人の話を聞いたからかもしれなかった。



【感想】二人のおじさんが六畳一間で世界の秘密を解き明かした件 神回すぎた

1 名無しさん : 神崎誠一が「薄いコーヒーが美味しい、日本だ」って言ったのが今話で一番好きなシーン 五年間の重みが全部入ってた


2 名無しさん : 第十二層の存在が判明 向こうの人がこちらに来られる扉を完成させる話 シルヴィアちゃんがこっちに来る可能性が出てきた


3 名無しさん : 「完成させたら岩田陸が帰ってこられる可能性がある」という気づきを田中さんが一人で繋げたのが熱い


4 名無しさん : 「いい仲間ができたな」「うん」の父と娘の会話が短すぎてそれが全て


5 名無しさん : うどん屋でダンジョンの秘密を話すおじさん二人 日常の中に世界の話が溶け込んでる


6 名無しさん : 田中さんの六畳一間が世界に公開されるの「特に恥ずかしくない」で全部言ってる


7 名無しさん : 「やることが増えた、でも悪くなかった」 田中さんの人生観が全部入ってる


8 名無しさん : 登録者2380万突破 これから第十二層に行くのか 楽しみすぎて眠れない

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