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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第25話 おじさん「帰ってきた。向こうの世界に、ただいま」

 光の扉の前に、七人で立った。


 俺、ヒナ、サクラ、リオ、キリソウ、早川、神崎誠一。


 後ろには番人がいた。


 来たときと同じように、頭を下げていた。


 「……戻ります」


 俺は扉に右手を当てた。


 今度は「開ける」ではなく「戻る」と意識した。


 扉が光った。


 今度は一瞬だった。


 来たときは時間がかかった。今回は、ためらいがなかったからかもしれない。


 光の中を抜けた。


 第十層だった。


 空中の足場に星のない暗い空間。


 番人がいた。


 こちらの番人も、頭を下げていた。


 「……」


 石畳が足の下にあった。


 革靴で、感触を確かめた。


 「なんとか、帰ってこれましたか。」


 ヒナが言った。


 「帰ってきましたね、日本」


 「まだダンジョンの中ですが」


 「それでも日本ですよ?」


 後ろで神崎誠一が立っていた。


 第十層の暗い空間を、しばらく見ていた。


 「……五年ぶりだ…!」


 「どうですか?」


 「足が、震えていますよ…!」


 「嬉しいから?」


 「それもあります。緊張もしています。向こうの世界で五年、日本が恋しかった」


 「何が一番恋しかったですか?」


 神崎誠一が少し考えた。


 「……娘の声です」


 リオが父の手を握った。


 「帰ってきたよ、お父さん!」


 「……ああっ…!」


 神崎誠一の目から、また涙が出た。


 今度は止めなかった。


 ぽろぽろと、静かに出てきた。


 「リオ……本当に大きくなったな…!」


 「五年ですよ。当たり前ですっ!」


 「そうだよなっ!」


 「心配しましたよ!」


 「ごめんな…!」


 「謝らなくていいです。わかってるから…。」


 「わかってくれるか…?」


 「手紙を読んだので…!」


 「……そうか」


 二人がそのまま立っていた。


 俺は前を向いた。


 第九層への穴が見えた。


 「行きましょうか」


 「…はいっ!」


 全員で、階段を上った。



 地上に出た。


 渋谷だった。


 朝の渋谷。人が歩いていた。車が走っていた。コンビニが見える。


 神崎誠一が空を見た。


 青い空だった。


 向こうの紫がかった空とは違う。俺たちには見慣れた空。神崎誠一にとっては、五年ぶりの日本の空。


 「……青いな」


 「そうですね」


 「向こうの空の色も好きになりましたが、やはり、こちらの空が好きです」


 「どちらも好きになれます」


 「そうですね。陛下は……田中さんはそれができますね」


 「両方が俺なので」


 「うらやましい限りですね」


 「そうですか?」


 「……いや、私にも娘がいる。こちらにいる娘が。それで十分です」


 リオが父の腕を取った。


 「行きましょう。家に帰りましょう」


 「家……」


 「五年前のまま、ちゃんとあります」


 「……そうか」


 神崎誠一の声が、かすかに震えた。


 二人で歩いていった。


 その後ろ姿を、全員で見送った。


 黒沢が俺の隣に来た。


 「……田中さん、お帰りなさい」


 「ただいま戻りました。黒沢さん」


 「無事で何よりです」


 「心配をかけましたか?」


 「四日間、ほとんど眠れませんでしたよ」


 「それは申し訳なかったです」


 「いいえ。……戻ってきてくれれば、それで十分です」


 黒沢がため息をついた。


 今日は違うため息だった。


 長い、深い、安堵のため息。


 「……田中さん、篠原室長が一度話したいと言っています。次の渡航について」


 「次の渡航、すでに話がありますか?」


 「向こうとの行き来が確立したとなれば、政府としても動かないわけにはいきません」


 「わかりました。また断るかもしれませんが」


 「ま、また断るんですか?」


 「条件次第です」


 黒沢がまたため息をついた。


 「……田中さんは変わりませんね」


 「変わりませんよ」


 「それが、良いことだと思っています」


 「そうですか?」


 「はい」


 黒沢が俺を見た。


 「……本当に、おかえりなさい」


 今度は、静かな声だった。


帰還配信 — 同接:7,114,882 — 歴代最多更新

全員:帰ってきた!!!!!おかえり!!!!!!田中さん!!!!!!

ガチ勢777:神崎誠一さんが五年ぶりに日本の空を見た「青いな」で泣いた

エトウ:黒沢さんが「本当に」っていう静かな声でおかえりって言ったのが一番刺さった

匿名A:また断るかもしれないって言って黒沢さんがため息つくの変わらない日常感がある

プロ冒険者X:同接711万 帰還シーンで歴代最多更新

リオ推し:リオちゃんが「家がちゃんとあります」って言ったの ずっと守ってたんだ

ヒナ推し最前線:「帰ってきた」「帰ってきましたね」「日本」「まだダンジョンですが」の会話が全部好き

キリソウ実況:帰ってきた。全部終わった気がするけど終わってない。これからが楽しみすぎる。

海外勢:WELCOME BACK TO JAPAN TANAKA!!! WELCOME BACK!!!

 その夜、自宅に帰った。


 六畳一間の賃貸。染みのついた白い天井。変わっていない部屋。


 スーツを脱いで、ハンガーにかけた。


 革靴を揃えて置いた。


 台所に行った。


 インスタントコーヒーを作った。


 飲んだ。


 やっぱり薄かった。


 「……ただいま」


 部屋に向かって言った。


 誰もいなかった。


 でも、悪く思わなかった。


 むしろ、良かった。


 向こうでのパンが美味しかった。こちらのコーヒーは薄い。でも両方が俺の場所だ。


 そう思った。


 スマホを見た。


 登録者数:21,882,004


 二千百万を超えていた。


 「……ふーん」


 俺は言った。


 コーヒーを飲み終えて、布団に入った。


 目を閉じた。


 夢を見なかった。


 ただ、眠った。深く、静かに。


 それが、とても久しぶりに感じた。



 翌朝、スマホにメッセージが来ていた。


 ヒナから:

 《帰ったら言うって言ってましたよね?》


 《そう言っていましたね》


 《今日、会えますか?》


 俺は少し考えた。


 《どこへでも》


 《渋谷で。午後三時。ダンジョンの入口じゃない方で》


 《ダンジョンじゃない場所を、ですか?》


 《普通の渋谷で会いたいです。田中武志さんと、うち白川ヒナで》


 俺はその文面を読んだ。


 「田中武志さんと、うち白川ヒナで」


 《わかりました》


 《約束ですよ!》


 《約束です》


 《コーヒーが薄くないお店に行きましょう》


 《それは嬉しいです》


 《知ってますよ、田中さんがコーヒー薄いの嫌いなの》


 《ありがとうございます》


 《……どういたしまして》


 俺はスマホを置いた。


 窓の外が明るかった。


 朝の光。日本の、いつもの朝の光。


 コーヒーをもう一杯作った。


 今日も薄かった。


 だが、今日は、少し美味しかった。


 午後三時が、楽しみだった。



【完結】田中武志、7人から2188万人へ。そして次の約束へ

1 名無しさん : 「薄かった。だが今日は少し美味しかった」 コーヒーの薄さが幸福度計だった これが全話通したバロメーター


2 名無しさん : 「田中武志さんと、うち白川ヒナで会いたい」 この一文がヒナちゃんの全ての気持ちを表してる


3 名無しさん : 「コーヒーが薄くないお店に行きましょう」で田中さんのことを知ってる人が連れて行ってくれる それが全てじゃないか


4 名無しさん : 神崎誠一が「青いな」って言った場面が今話で一番泣いた


5 名無しさん : 黒沢さんの「本当に、おかえりなさい」静かな声が四日間眠れなかった人の言葉


6 名無しさん : 「どこへでも」って返せるようになった田中さん 最初の頃からどれだけ変わったんだ


7 名無しさん : 帰ってから深く静かに眠れたの ずっと眠れてなかった人がようやく休めた


8 名無しさん : 午後三時、渋谷、普通の場所でヒナちゃんの「帰ったら言う」が来る。準備する。

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