第24話 帰る日が来た、おじさん
四日目の朝。
テーブルに全員が集まった。
こちら側の七人。あちら側の三人。神崎誠一。
「……今日、帰ります」
俺が言った。
テーブルが静かになった。
シルヴィアが頷いた。
「…わかっています。向こうの世界との均衡を保つためには、陛下が行き来する必要がある。無理に引き止めません」
「また来ます」
「…約束ですか?」
「約束です」
ガルドが静かに言った。
「……陛下、戻り方は確認できましたか?」
「ゼナから聞きました。来たときと同じ扉から、意識するだけで戻れると」
「そうです」
ゼナが続けた。
「陛下の器が今や完全に満ちています。来るときと逆の意識——戻ると決めた瞬間に、扉は開きます。向こうからでも同じです」
「つまり、いつでも来られる」
「いつでも。陛下が決めれば」
ヒナが小さく息をついた。
「……いつでも来られるなら、また来てくれるんですね?」
「来ます。みなさんを連れて」
「うちたちも一緒に?」
「来るたびに連れてきます。来たい人は」
キリソウが即答した。
「来ます。絶対来ます」
早川が少し迷った顔をして、言った。
「……次回は有給を取ります」
「有給で異世界に来る政府の人間」
サクラがメモしている。
「記録します」
「記録しなくていいです」とヒナが言った。
「重要な記録ですよ?」とサクラが言った。
◇
出発の前に、一人ずつ話した。
ガルドが城門の前で待っていた。
「……陛下」
「ガルド?」
「次来るときも、スーツで来てください」
「なぜですか?」
「陛下らしくて好きです。最初見たとき、なんだこれはと思いましたが…」
「最初はそう思いましたか?」
「思いました。でも今は、スーツが陛下だと思っています」
「わかりました。スーツで来ます」
「剣の稽古、次来たときにまたやりますか?」
「やります」
「記憶が戻ったなら、腕も戻っているはずだ」
「どうでしょうか。体育三でしたから」
「それは向こうの話だ」
「そうですね」
ガルドが俺の肩に手を置いた。
「……お帰りなさい、アルディス陛下。また来い」
「また来ます。ガルド」
ガルドが肩から手を離した。
目が、かすかに光っていた。
今日も泣かなかった。
だが、俺にはわかったいた。
◇
ゼナが俺の前に来た。
「陛下、一つお願いがあります」
「なんですか?」
「向こうの世界で続けている配信を私も、いつか見てみたいと思っています」
「こちらから見られるんですか?」
「……工夫次第で、できるかもしれません。冥界石を使えば、映像信号の受信が可能かもしれない」
「それができたら、向こうの視聴者が増えますね」
「増えます。ただし、コメントは異世界語になります」
「それはそれで面白いかもしれませんよ?」
ゼナが小さく笑った。
「……陛下のことは、ずっと観察してきました。石台に名前を刻んでからも、扉のそばで」
「それは知りませんでした」
「二十年間、何度か声を届けようとしましたが、届いていましたか?」
「……たぶん、届いていました。夢の中で聞こえていたものは、あなた方の声だったかもしれません」
「そうでしたか…」
ゼナが深く頭を下げた。
「陛下、またいつでも来てください。魔族評議会は、陛下を歓迎します」
「ありがとうございます、ゼナ」
「……名前で呼んでいただけるのは、嬉しいことです」
「そうですか?」
「陛下に名前で呼ばれた魔族は、私くらいだと思います」
「それはどういう意味ですか?」
「特別、ということです」
ゼナがまた笑った。
今日で何度目かわからなかった。
◇
最後に、シルヴィアが来た。
城門の前。草原の風が吹いていた。
「……アルディス」
「…シルヴィア」
「また来ると言いましたね?」
「言いました」
「いつ来ますか?」
「早ければ一ヶ月以内に」
「……一ヶ月」
「長いですか?」
「長くないです。二十年に比べれば」
「そうですね」
シルヴィアが手を伸ばした。
俺はその手を握った。
「…ただいまと言ってくれてありがとうございました」
「こちらこそ、待っていてくれてありがとうございます」
「……向こうで、大事にしてもらっていましたか?」
「大事にしてもらっていました」
「それは良かった」
「向こうに帰っても、大事にしてもらえると思います」
「わかっています。見てきたので」
シルヴィアが手を離した。
「……アルディス、一つだけ」
「はい」
「向こうの世界で、ちゃんと幸せでいてください」
「幸せですよ」
「今も?」
「今も」
シルヴィアが微笑んだ。
「……よし」
「よし?」
「ヒナさんから覚えました!」
俺は少し驚いた。
「シルヴィアも使うんですか?」
「嬉しいときに言うんでしょう?ヒナさんから教わりました」
「そうです」
「なら、よし」
シルヴィアが笑っていた。
今度は泣いていなかった。
ただ笑っていた。
出発前配信 — 同接:5,882,004
ガチ勢777:早川さんの「有給で来ます」で笑った後シルヴィアちゃんの「よし」で泣いた
エトウ:シルヴィアが「よし」を覚えてヒナの言葉を使ってる 二人が繋がってる
匿名A:ガルドが「スーツが陛下だ」って言ったの最高すぎる
プロ冒険者X:ゼナちゃんが「私くらいだ」って言ったの 魔族の照れ方可愛すぎる
ヒナ推し最前線:シルヴィアがヒナから「よし」を教わってたの いつの間に仲良くなってたんだ
匿名B:「向こうで幸せでいてください」「今も幸せです」で終わるの完璧な別れのシーン
キリソウ実況:「有給で来ます」即答しました正直に言います
新規大量:異世界から帰る場面が楽しみでもあり悲しくもある
◇
【感想】シルヴィアが「よし」を覚えてた件 ヒナとシルヴィアが本当の意味で繋がった
1 名無しさん : 「今も幸せです」が今話最高の一言。ここに来るまでの全話を肯定してる
2 名無しさん : シルヴィアが「よし」をヒナから教わってたのはいつだよ 配信外で仲良くなってたんだ
3 名無しさん : ガルドの「スーツで来い」「スーツが陛下だ」で笑いながら泣いた
4 名無しさん : ゼナちゃんが「名前で呼ばれた魔族は私くらい」って言ったの照れ隠しで可愛すぎた
5 名無しさん : 「有給で異世界」を政府の人間が言う日が来るとは
6 名無しさん : いつでも行き来できる設定になったのが良かった 永遠の別れじゃない
7 名無しさん : 登録者2100万 帰ってきたら何万になってるんだ
8 名無しさん : もう終わりそうだよ…最終回にならないでほしい まだまだ続いてほしい
面白いと思ったら、コメント、フォロー、評価をお願いいたします!
とても、励みになります!




