表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/47

第23話 記憶が、戻ってきたおじさん

 三日目の夜、眠れなかった。


 城に与えられた部屋は広かった。石造りのベッド。天井が高い。壁に灯りが灯っていた。


 寝返りを打って、天井を見た。


 知っている天井だった。


 ——ああ、ここだ。


 という感覚が、静かに来た。


 叫ぶような感覚ではなかった。


 川が流れるように、静かに来た。


 俺は起き上がって、外に出た。



 草原に出た。


 夜の草原は、昼とは違う匂いがした。


 湿った土の匂い。夜露の匂い。知っている匂いだった。


 俺は草の上に座った。


 空を見た。


 星が多かった。青い星、金の星、白い星。昼間はかすかにしか見えなかった青い星が、今は強く輝いていた。


 見ていると——来た。


 フラッシュバックではなかった。


 痛みではなかった。


 ただ、静かに。


 シルヴィアと走った草原。

 子供だった。二人とも。

 銀髪が風に揺れていた。

 「追いつけるものなら追いついてみろ!」と言いながら、シルヴィアは笑っていた。

 俺は全力で走った。だけど、追いつけなかった。


 ガルドに剣を教わった午後。

 無口だったが、手は丁寧だった。

 「力ではなく、重心だ」と何度も言った。

 俺が下手なのに、怒らなかった。


 ゼナと初めて会った日。

 魔族評議会の使者として来た、無表情の女。

 「よろしく」とだけ言って、それ以上何も言わなかった。

 でも帰り際、一度だけ振り返って——また来ます、と言った。


 三族がまとまっていく過程。

 長い年月。喧嘩も、誤解も、和解も。

 全部あった。

 それでも続けた。


 乱が起きたとき。

 俺は思った。

 ——自分がいなくなれば、争う理由がなくなる。

 記憶を封じて、門をくぐった。

 向こうの世界で目が覚めたとき、何も覚えていなかった。


 田中武志として、生きた。

 十五年間、経理をした。

 クビになった。

 コーヒーが薄かった。

 ダンジョンに入った。

 ヒナと会った。サクラと会った。リオと会った。キリソウと会った。早川と会った。


 それが——今の俺だ。

 アルディスでもあり、田中武志でもある。

 両方が、今の俺だ。

 全部、戻ってきた。


 涙は出なかった。


 ただ、静かだった。


 星を見ながら、しばらくそのままでいた。


 足音が後ろから来た。


 「田中さん」


 ヒナだった。


 「どうしてここに?」


 「サクラが教えてくれました。一人で出て行ったって。心配しましたよ」


 「大丈夫ですよ」


 ヒナが俺の隣に来た。


 草の上に座った。昼と同じ場所に、同じように。


 「…もしかして、戻りましたか?」


 「……全部」


 ヒナが俺を見た。


 「全部?」


 「ええ。シルヴィアのこと。ガルドのこと。ゼナのこと。三族のこと。二十年前のこと。全部」


 「……どうですか?」


 「どう、というのは?」


 「全部思い出して、気持ちが…」


 俺は少し考えた。


 「思ったより、穏やかですね」


 「穏やか?」


 「激しい感情が来ると思っていましたが、そうはならなかった。静かに、戻ってきた感じです」


 「泣かなかったんですか?」


 「泣かなかったですね」


 「……田中さんらしい」


 ヒナが空を見た。


 「変わりますか。全部戻って」


 「変わりません」


 「アルディスになりますか?」


 「アルディスでもあります。田中武志でもあります。両方です。どちらかではない」


 ヒナが少し間を置いた。


 「両方でいてください。ずっと」


 「そのつもりです」


 「約束ですよ?」


 「約束です」


 二人で星を見た。


 青い星が、静かに瞬いていた。


 「……ヒナさん」


 「はい」


 「帰ったら言うと言っていましたね」


 ヒナが固まった。


 「……言いましたよ、帰ってからって」


 「まだここですが、聞きたくなりました」


 「まだここですよ?」


 「そうですね」


 ヒナが俺を見た。


 「……田中さんって、たまに意地悪ですね」


 「意地悪ではなく、楽しみにしているだけです」


 「……楽しみにしてるんですか?」


 「していますよ?」


 ヒナが前を向いた。


 耳が赤かった。


 「……じゃあ、もうちょっとだけ待っておいてください」


 「わかりました」


 「帰ったら、ちゃんと言いますから」


 「はい」


 「……絶対ですよ?」


 「絶対ですね」


 ヒナが草の上に膝を抱えた。


 「……記憶が全部戻った夜に、うちと星を見てるの、変じゃないですか?」


 「変じゃないですよ?」


 「なんでですか?」


 「ここにいたかったので」


 ヒナが止まった。


 しばらく黙って、それから小さく言った。


 「……よし」


 今回の意味も、わかった。


 嬉しい、という意味だった。


 俺はそれを聞きながら、空を見た。


 青い星が、ゆっくりと動いていた。


 動いているのか、それとも俺が動いているのか、しばらくわからなかった。


 でも——どちらでも、良かった。


草原 — 配信なし(サクラの記録のみ・後日公開)

後日公開コメント:

ガチ勢777:「田中武志でもある、アルディスでもある、両方だ」 これがこれまでのテーマだった

エトウ:記憶が全部戻った夜に一人じゃなくてヒナちゃんと星を見てたのが全て

匿名A:「楽しみにしてますよ」 田中さんが帰ったら言うを待ってるって言えた これ成長じゃん

ヒナ推し最前線:「ここにいたかったので」で「よし」が来た 田中さんがヒナちゃんのそばを選んでる

プロ冒険者X:涙も叫びもなく静かに全部戻ってくるのが田中さんらしい

シルヴィア推し:記憶の中でシルヴィアが笑いながら走ってたの可愛すぎた



【感想】記憶全回収の夜に選んだのはヒナちゃんの隣だった件

1 名無しさん : 「アルディスでも田中武志でも、両方が今の俺」 最初の頃から続いてきたテーマがここで完成した


2 名無しさん : 記憶の中に「コーヒーが薄かった」が入ってたの泣いた 田中武志の二十年が全部大事


3 名無しさん : 「楽しみにしています」って田中さんが言えた ヒナちゃんの「帰ったら言う」を待ってるって示せた


4 名無しさん : 「ここにいたかったので」の「よし」が全シリーズ通してベストの「よし」だった


5 名無しさん : 涙なしで全部戻ってくる田中さん 静かな方が深いと思った


6 名無しさん : 登録者2050万 2000万超えてから加速してる


7 名無しさん : これから帰る準備が始まるはず シルヴィアとの別れが辛い


8 名無しさん : ガルドとゼナと別れる場面も見たい 絶対泣く

面白いと思ったら、コメント、フォロー、評価をお願いいたします!

とても、励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ