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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第2話 謎のおっさん、正体不明のまま登録者100万人を突破してしまう件

 目が覚めたとき、通知が止まっていなかった。


 スマホ画面が光り続けている。


 登録者数:1,024,381


 「…………」


 俺は天井を見た。六畳一間の賃貸、染みのついた白い天井。

十五年前から変わっていない。


 昨日の朝まで俺は無名のおじさんだった。


 今日の朝、俺は百万人に知られているらしかった。


 人生とは不思議なものだ。


 とりあえずトイレに行って、顔を洗って、インスタントコーヒーを飲んだ。


 コーヒーの味は昨日と同じだった。少し薄い。


 ヒナからのメッセージは朝六時に届いていた。


 《今日のコラボ、十時に渋谷ダンジョン第一層入口で待ってます。絶対来てください。来なかったら行方不明として警察に届けますから》


 脅しだった。


 俺は「わかりました」と返すしかなかった。



 待ち合わせ場所に着くと、ヒナはすでにいた。

金髪ツインテール、制服ではなく今日はアウトドア系の動きやすい格好。両手にリングライト付きのスマホスタンドを持っていた。完全に配信の装備だった。


 そして、俺を見た瞬間、真顔になった。


 「……その格好で来たんですか?」


 「格好?」


 「スーツ。しかも、また革靴です」


 「普段着なので」


 「ダンジョン入るのにですか?」


 「昨日も入れましたよ?」


 ヒナは三秒俺を見て、スマホを持ち上げた。


 「……配信始めます。お願いします」


 「はあ…?」


配信開始直後 — 同接:23,441


ヒナ推し最前線:今日もスーツで来てるの草

匿名A:おじさんキャラ固定されてるじゃんw

ガチ勢777:昨日の動画見たけどマジであれ何だったの?

エトウ:ヒナちゃんが若干ドン引きしてて笑う

匿名B:革靴でダンジョン入るおじさんなんか嫌いになれない



 第一層は観光地みたいなものだ。

整備された石畳の通路、要所要所に案内板、売店まである。出てくる魔物も《コモンスライム》と《ウィークゴブリン》程度。入門者向けのエリアだ。


 ヒナが配信しながら歩いていた。俺はその後ろを黙ってついていった。


 「今日は田中さんという方とコラボです。昨日の配信見てた人はわかると思うけど、あの……」


 ヒナが言葉を選んだ。


 「…………助けてくれた人です。」


 「どうも」


 「自己紹介とかないんですか?」


 「田中武志、四十二歳、元経理です。先週クビになりましたので。」


 ヒナが小声で「もう少し盛れっ!」と言った。


 「盛り方がわかりません」


同接:41,882


全員:先週クビになりましたは笑う

匿名C:盛り方わかりませんは優しさなのかボケなのか?

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんの顔が死んでるwww

ガチ勢777:このおじさん絶対天然だろ!

エトウ:田中武志でX検索したら何も出てこなくてワロタ 本当に無名じゃん!

匿名D:登録者100万人なのに本人は全然気にしてなさそうで逆に好きだわwww



 第二層への階段を下りたとき、空気が変わった。


 ひんやり、というより……重い。


 第一層はどこか観光地的な軽さがある。整備されていて、照明もある。だが第二層は違かった。光苔の青白い光だけが頼りで、通路は広くなり、天井は高くなる。


 そして、何かがいる気配がした。


 「田中さん、ここから《シャドウウルフ》の縄張りなので気をつけて——」


 ヒナが言い終わる前に、影が動いた。


 通路の左壁、暗がりから三体が同時に飛び出してきた。《シャドウウルフ》。全身が暗灰色の毛に覆われた、狼型の魔物。体長は成人男性より少し大きい。素早く、群れで行動し、初心者が一体でも侮ると死ぬ相手だ。


 ヒナが武器を構えた。


 だが俺は既に前に出ていた。


 一体目。左手で首を掴んで壁に叩きつけた。


 二体目。跳んできた軌道をそのまま受け止めて、地面に押さえ込んだ。


 三体目。俺の顔を見て、止まった。


 魔物が、怯んだ。


 俺を見て、一歩下がった。


 「……あっ」


 ヒナの声だった。


 三体目のシャドウウルフは、そのまま踵を返して走って消えた。


 俺は手を払った。スーツの袖が少し汚れていた。


 「ドライクリーニング出さないといけないな…」


 ヒナは口を開けたまま俺を見ていた。


 「……今、魔物が逃げましたよっ!?」


 「そうですね」


 「田中さんから逃げましたよっ!?」


 「気のせいじゃないですか?」


 「気のせいじゃないですっっっ!!」


同接:89,004 — コメント速度:限界


全員:魔物が逃げた??????

ガチ勢777:シャドウウルフって第二層のボス格だぞ!?それが逃げたのか!?

エトウ:おじさんのオーラが魔物に伝わってるの草

匿名E:ドライクリーニングを心配してるおじさんとビビってるヒナちゃんの温度差www

プロ冒険者X:このおじさん……Sランクどころじゃないって。魔物が本能で逃げるって人間じゃありえないぞ!

匿名F:誰なんだよ田中武志って 情報0すぎる…

新規リスナー:今流れてきて見てるけど面白すぎてサブチャン登録した



 配信を続けながら、俺たちは第二層を歩いた。


 道中、ヒナは俺にちょこちょこ話しかけてきた。


 「ダンジョンって今まで来たことあったんですか?」


 「今週が初めてですね」


 「田中さんの強さの理由とかわかりますか?」


 「わかりません」


 「……昔から強かったんですか?」


 「普通でしたよ?体育は三でしたし」


 ヒナが歩きながら俺の横顔を見た。


 「嘘つかないでください!」


 「本当のことしか言ってないですよ?」


 俺は本当にわからなかった。


 なぜ強いのか。


 昨日から何度か考えたが、答えが出ない。

ただ、体が動く。ただ、考えるより先に動いている。ただ、それだけだ。


 そして、この空気。


 第二層に下りてから、ずっとその感覚があった。


 懐かしい。


 どこかで嗅いだことがある空気。どこかで歩いたことがある感触。


 あの夢の話を、ヒナにしようか一瞬思ったが、やめた。


 変な人だと思われるかもしれない。


 というか、もう思われているかもしれないが。


 「田中さん、あそこ——」


 ヒナが通路の奥を指した。


 薄暗い分岐路の向こう、壁に何かが刻まれていた。


 俺は目を細めた。


 文字だった。


 石壁に、深く刻まれた文字。日本語でも英語でもない。

見たことがない字体だ。だが——


 「……読める」


 思わず口から出た。


 ヒナが振り返った。


 「えっ?」


 「あ、いや、なんでもないです」


 俺は目を逸らした。


 壁の文字の意味が、頭の中で静かに浮かんでいた。


 ——《帰還者よ、門はまだ開いている》


 意味がわからなかった。


 なのに、胸のどこかが、ざわついた。


同接:134,290


エトウ:今「読める」って言いかけたよな?

ガチ勢777:あの壁の文字、ダンジョン研究者でも解読できてないやつじゃん

匿名G:なんでもないですで流すな!!!

プロ冒険者X:読めるのか…!?なんで!?

新規多数:このおじさん何者なんだよ本当に

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんも気づいてるよね 絶対聞いて



 配信終了後、ヒナが黙って隣に立った。


 「田中さん」


 「はい?」


 「あの壁の文字、読めたんですか?」


 俺は少し間を置いた。


 「……気のせいだと思います」


 「気のせいじゃないでしょっ!」


 ヒナの目が真剣だった。


 今どきの女子高生の目ではなく、ちゃんと何かを見ようとしている目だった。


 俺はため息をついた。


 「……帰還者よ、門はまだ開いている、と書いてありました」


 ヒナが息をのんだ。


 「……帰還者って、なんですか?」


 「俺に聞かれても…」


 「田中さんのことじゃないんですか?」


 俺は答えなかった。


 わからない、とは言えなかった。


 なぜか。


 ——心当たりが、あった。


 ただ、まだ思い出せないだけで。



【考察】田中武志の正体、マジでヤバい説が出てきた【渋谷ダンジョン配信】


1 名無しさん : 「帰還者よ門はまだ開いている」 あの碑文の解読に成功したの田中武志が初めてじゃん


2 名無しさん : 研究機関が五年間解けなかった文字をおじさんが読める理由、誰か説明してくれ


3 名無しさん : 帰還者ってことはつまり一回あっち行ったことある人間ってこと?


4 名無しさん : 魔物に怯まれる、素手で第二層クリア、異世界文字が読める……これ一般人じゃないだろどう見ても


5 名無しさん : でも本人は本当に何も知らなそうなのが逆に怖い


6 名無しさん : 登録者今見たら142万になってた。昨日の朝まで7人だったのに


7 名無しさん : ヒナちゃんが完全に田中のこと気になってるのバレバレで草


8 名無しさん : 次の配信絶対見る。田中武志の正体が明かされる回が来たらネットが崩壊する

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プロ冒険者X:帰還者……? あの碑文、D研究機関も解析できてないはず この文章主人公が読む前に入って居ておかしい
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