第18話 おじさんが異世界の仲間と再会した。
草原の風の中で、三人と向き合った。
名前を、まだ聞いていなかった。
記憶の中に、あった気はする。
だが、まだぼんやりしていた。
俺は正直に言った。
「…名前を聞かせてもらえますか?記憶がまだはっきりしていないので」
三人が顔を見合わせた。
銀髪のエルフが、静かに言った。
「……当然です。無理に思い出そうとしなくていいです」
そして、頭を下げた。
「エルフ族第三家の長女、シルヴィア・エレナと申します。陛下の幼馴染です」
◼️シルヴィア・エレナ
エルフ族第三家の長女。銀髪・翡翠色の目。アルディスの幼馴染。ずっと帰りを待っていた。泣きながら笑える人。
虎の獣人が、一歩前に出た。
「獣人族・虎の一族長、ガルド・ライオスと申します。陛下の剣友であり、元親衛隊長です」
◼️ガルド・ライオス
獣人族・虎の一族長。金色の目。アルディスの剣友。元親衛隊長。我慢強く、泣かない男。でも今日は目が細かった。
魔族の女が、静かに頭を下げた。
「魔族評議会の使者、ゼナ・ヴォルクと申します。陛下には以前、大変お世話になりました」
◼️ゼナ・ヴォルク
魔族評議会の使者。黒いローブ、赤い目、二本の角。表情が静かで読みづらい。でも、一番最初に石台に名前を刻むことを提案した人。
三人の名前を聞いた。
記憶の中の何かが、かすかに動いた。
シルヴィア。ガルド。ゼナ。
当たり前のように、知っていた。
「……シルヴィア、ガルド、ゼナ」
俺が名前を呼んだ。
三人が止まった。
シルヴィアの目がまた揺れた。
「……名前で呼んでいただけるとはっ!?」
「呼んではいけませんか?」
「いいえ。陛下はいつもそうでしたから!」
ガルドが低い声で言った。
「……陛下、変わっていません。本当にっ…!」
「そうですか…」
「礼儀を気にしない。名前で呼ぶ。跪かれるのが嫌い。記憶がなくても、そういうところは変わらないんですね」
「生まれつきなのかもしれません」
ゼナが静かに笑った。
表情が動くのを初めて見た。
「……陛下のそういうところが、三族をまとめられた理由の一つです」
異世界配信 — 同接:5,114,882
ガチ勢777:シルヴィア・ガルド・ゼナ 三人の名前が出た!
エトウ:「名前で呼ぶ、跪かれるのが嫌い」が記憶なくても変わってないの田中さんらしい
匿名A:ゼナちゃんが笑った! 表情が動いた!
プロ冒険者X:「三族をまとめた理由」 アルディスがどんな王だったかが少しわかってきた
シルヴィア推し:もう推しが決まった シルヴィアちゃん一生応援する
ヒナ推し最前線:ヒナちゃんがシルヴィアちゃんを見てる目が複雑で笑えない
◇
歩きながら、シルヴィアが話してくれた。
草原の向こうに、王城がある。歩いて一時間ほど。
「陛下がいなくなってから、どのくらい経ちましたか?」
俺が聞いた。
シルヴィアが少し間を置いた。
「……こちらの時間で、二十年です」
俺は止まった。
「二十年?」
「はい」
「俺がいなくなってから、二十年ですか…」
「そうです」
俺は計算した。
俺の年齢は四十二歳。
二十年前は二十二歳。
「……俺がこちらにいたのは、二十二歳のときまで?」
「陛下がいなくなった日、こちらでは二十二の春でした」
「そこから二十年、待っていた、と」
「……はい」
シルヴィアの声が、少し揺れた。
「待っていました。ずっと…」
俺は何も言えなかった。
二十年。
その間、何もかも忘れ、俺は日本で経理をして、クビになって、ただインスタントコーヒーを飲んでいた。
「……申し訳なかったです」
「陛下のせいではありません」
「それでも…」
「陛下は向こうの世界で、ちゃんと生きていた。それが、私たちには一番大事なことでした!」
ガルドが前を向いたまま言った。
「生きて戻れば、それでいい。最初からそう思っていた」
ゼナが静かに続けた。
「我々が心配していたのは、陛下が向こうで一人だということでした。孤独でないかと」
俺は後ろを振り返った。
ヒナ、サクラ、リオ、キリソウ、早川が歩いてきていた。
「孤独ではなかったです」
「……そのようですね」
ゼナが、後ろの五人を見て、また小さく笑った。
同接:4,882,004
ガチ勢777:二十年待ってたの 二十年!?
エトウ:「向こうで孤独でないか心配していた」 その心配が解消された瞬間がさっきの「ただいま」だったんだ
匿名B:田中さんがクビになってコーヒー飲んでた間、向こうでは二十年待ってたって考えると泣ける
プロ冒険者X:「孤独ではなかったです」で後ろ振り返る田中さん 全部言わなくていい
ヒナ推し最前線:田中さんが「孤独じゃなかった」って言いながらヒナちゃんたちを振り返ったの 泣く
キリソウ実況:また泣いてます。隠しません。
◇
歩きながら、ヒナが俺の隣に来た。
「田中さん、シルヴィアさんって」
「幼馴染だそうです」
「二十年待ってたんですよね?」
「そうです」
「……どう思いますか?」
「どう思うというのは?」
ヒナが少し間を置いた。
「……なんでもないです」
「なんでもないことはないでしょう?」
「…うるさい」
俺はヒナを見た。
ヒナは前を向いていた。
耳が赤かった。
「……シルヴィアは大切な人です。二十年待っていてくれた。でも——」
俺は少し考えた。
「ヒナさんも、大切な人です」
「……同列に言わないでくださいっ!」
「同列ではありません。それぞれ、大切です」
「それはそれで複雑なんですが!?」
「すみません、うまく言えなくて」
ヒナが俺を見た。
…しばらく見ていた。
「……田中さんって、こういうとき正直すぎて逆に傷つかないんですよね」
「そうですか?」
「そうです。憎めない…。」
ヒナが前を向いた。
「……でも、まあ、いいかっ」
「何がいいんですか?」
「田中さんが田中さんのままだから、いいです!」
俺は何も言わなかった。
ただ、隣を歩いた。
今はそれで、十分だった。
◇
後ろでは、サクラがシルヴィアに話しかけていた。
「シルヴィアさん、少し聞いてもいいですか。記録のために」
「……記録?」
「私はこのパーティーの記録係です。田中さんのことを初日から記録しています」
シルヴィアが俺を見た。
「陛下は向こうの世界でも、記録される立場だったんですね」
「配信者なので」
「はいしんしゃ?」
「映像で記録して、大勢に見せる仕事みたいなものです」
「大勢というのはどのくらいですか?」
サクラが言った。
「今この瞬間、五百万人くらいが見ています」
シルヴィアが固まった。
「……五百万!?」
「はい」
「五百万人が今、ココヲミテイル?」
「見ています。こんにちは、と言えば届きますよ?」
シルヴィアがカメラを見た。
少し間を置いて——
「……こんにちは」
と言った。
同接:5,882,441 — 急上昇
全員:シルヴィアちゃんがカメラに「こんにちは」言った!!!!
ガチ勢777:異世界エルフが日本語で挨拶してる 現実の出来事じゃない
エトウ:「こんにちは」のたった一言なのに同接が跳ね上がったの笑う
シルヴィア推し急増:尊い 配信者デビューさせてほしい
匿名C:ヒナちゃんと田中さんの会話も聞こえてたけど「憎めない」って言葉が全てだった
プロ冒険者X:五百万人にこんにちはできるエルフ メンタル強い
ヒナ推し最前線:ヒナちゃんが「まあいいか」って言えたの成長だよな 田中さんを信じてる
◇
歩いていると、リオとゼナが並んで話していた。
「……神崎誠一は、今どのような状態ですか?」
リオが聞いた。
ゼナが静かに答えた。
「お体は健康です。王城の客室に滞在されています。こちらの言葉も、すっかり習得されましたし」
「向こうに戻りたいとは言っていませんでしたか?」
「……言っていましたよ。ずっと…。」
リオが止まった。
「でも、扉が開く方法が、陛下が戻ることしかなかった。戻れるまで、こちらで待つと言っていました」
「父が……ずっと帰りたがっていたっ…!」
「はい。ただ、こちらでも研究を続け、多くのことを教えてくださいました。感謝しています」
リオが深呼吸をした。
「…もうすぐ会えますか?」
「王城に着けば、すぐにでも」
リオが前を向いた。
足が、少し速くなった。
◇
ガルドが俺の隣を歩いていた。
無口な男だった。記憶の中でも無口だった気がした。
「ガルド」
「はい」
「二十年、…ありがとうございました」
ガルドが止まった。
「……礼には及びません」
「及びます」
「陛下——」
「待っていてくれた。それがただただ嬉しい。ただそれだけです」
ガルドが前を向いた。
長い沈黙があった。
「……お帰りなさい」
低い、静かな声だった。
「ただいま」
俺はもう一度言った。
ガルドが目を細めた。
泣いていなかった。
でも、目が少し光っていた気がした。
同接:4,441,008
ガチ勢777:ガルドの「お帰りなさい」で二度目の「ただいま」が来た やめてくれ
エトウ:ガルドが目を細めて光ってたのに泣かなかったのが逆に泣ける
匿名D:神崎誠一も帰りたかった でも田中さんが来るまで待ってたって話に泣いた
リオ推し:リオちゃんの足が速くなったの早く父に会わせてあげてほしい
プロ冒険者X:田中さんが「ありがとう」を先に言うの 王様っぽくないけど一番王様らしい気がする
匿名E:キリソウと早川さんが無言で全部吸収してる顔してるの好き
◇
草原を歩いて、丘を越えた。
丘の向こうに——王城が見えた。
白い石造りの城。高い塔が何本も立っている。旗が風に揺れていた。
旗の紋章は、石台に刻まれていた紋章と、同じだった。
アルディスの紋章。
「……」
俺は立ち止まった。
見た瞬間に——わかった。
ここだ。
知っている場所だ。
何度も、帰ってきた場所だ。
体が、知っていた。
ヒナが隣に来た。
「……すごい」
「そうですね」
「田中さんのお城、ですよね?」
「……そうみたいですね」
「ピンとこないですか?」
「…今回は、少し」
「少し、ですか?」
「体が知っていました。ここだと」
ヒナが城を見た。
「……田中さんって、本当にすごい人だったんですね」
「今も田中武志ですよ?」
「わかってます。でも、すごい人だったんだなって、今実感しました!」
少し間があった。
「……うちが一番近くにいたのに、今さら実感するのって、なんか変ですね…アハハ、ハ、ハ、はは。」
「変じゃないと思います」
「な、なんで?」
「近くにいるから、見えなかっただけです。遠くから見てわかることもある」
ヒナが俺を見た。
「……今、すごいこと言いましたよ?」
「そうですか?」
「記憶が戻ってきてる気がします」
「そうかもしれませんね」
城門が開いていた。
中から、大勢の人が出てきていた。
エルフ、獣人、魔族。三つの種族が混ざって、こちらを見ていた。
俺を見ていた。
誰も声を出さなかった。
静かだった。
そして——その中の一人が、声を出した。
年配のエルフの男だった。白髪。深いしわ。目が金色。
「——陛下」
その一言で、全員が声を出した。
歓声だった。
草原に、王城に、空に、響いた。
右手が光った。
白く、強く。
体が、震えた。
感情ではなかった、と思いたかったが、たぶん感情なんだろうな。
「……皆、ただいま」
三度目を言った。
今度は、全員に向かって。
同接:8,114,004 — 人類史上最多更新
全員:「ただいま」三回目!!!!!!全員に向かって!!!!!!!!
ガチ勢777:三族全員の歓声に「ただいま」で返すおじさん これが王だよ
エトウ:「感情ではなかったと思いたかったが、たぶん感情だった」の自己分析が田中さんすぎる
匿名F:同接811万 この数字が今の人類の気持ち
シルヴィア推し:シルヴィアちゃんの表情が一番穏やかになってた
ヒナ推し最前線:ヒナちゃんが「近くにいると見えない」って言われて静かに受け取ってた 田中さんがヒナちゃんをちゃんと見てる証拠
リオ推し:お父さんはどこだ まだ出てきてない
キリソウ実況:三回目の「ただいま」で完全に崩れました。報告します。
海外勢:WELCOME HOME, ALDIS!!!!!!
◇
城の中に入った。
廊下が広かった。天井が高かった。壁に絵が描いてあった。
歩きながら、俺は絵を見た。
知っている場面が描いてあった。
三族が揃って、誰かを中心に集まっている絵。
中心の人物が——俺だった。
若い俺だった。二十二歳くらいの。
俺は絵の前で立ち止まった。
「……これを描いたのは?」
シルヴィアが答えた。
「陛下がいなくなってから、描きました。忘れないように、と」
「二十年間、飾っていたんですか?」
「はい」
俺は絵の中の若い自分を見た。
笑っていた。
今の俺より、ずっと無邪気な顔をしていた。
「……若いですね」
「若かったです。でも、今の陛下の方が、好きです」
シルヴィアが静かに言った。
「向こうで生きた分だけ、重さがある。それが、今の陛下だと思います」
俺は何も言えなかった。
ヒナが俺の隣で絵を見ていた。
「……田中さんって、若い頃からこんな顔してたんですね」
「そうみたいですね」
「なんか、ほっとしました!」
「なんでですか?」
「田中さんが田中さんに見えるから?」
俺はその言葉の意味を、少し考えた。
わかった気がした。
「……ありがとうございます」
ヒナが少し驚いた顔をした。
「珍しいですね。田中さんがありがとうって言うの!」
「言っていませんでしたか?」
「あまり」
「これからは言いますね」
「……よし!」
またよしと言った。
今回も、意味がわかった。
嬉しい、という意味なんだろうな。
◇
【感想】「近くにいるから見えない」「今の陛下の方が好き」で全員やられた件
1 名無しさん : シルヴィアの「若い頃より今の方が好き、向こうで生きた分の重さがある」 これを言える人が二十年待ってたの
2 名無しさん : 「感情ではなかったと思いたかったが、たぶん感情だった」 田中さんの自己分析が一番田中さんらしい
3 名無しさん : ガルドの「お帰りなさい」に「ただいま」、歓声に「ただいま」 三回全部文脈が違うのに全部泣ける
4 名無しさん : シルヴィアが「こんにちは」って言った瞬間の同接上昇が人類の可愛さ
5 名無しさん : リオちゃんのお父さんまだ出てきてない 次話で確定で出るはず 泣く準備してる
6 名無しさん : 田中さんが「ありがとう」を言い始めたの 少しずつ、変わっていってる。でも田中さんのまま
7 名無しさん : ヒナちゃんの「よし」の意味を田中さんが全部わかるようになってきてるの成長すぎる
8 名無しさん : 登録者1700万突破 異世界から配信してる間もずっと増えてる
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