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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第12話 知らない間に、おじさんの登録者1000万人になっていた。

 夜中の二時に、スマホが光った。


 通知だった。


 目を開けて画面を見た。


『登録者数:10,000,441人 —— おめでとうございます』


 「……ふーん」


 俺は画面を置いて、目を閉じた。


 眠れなかった。


 眠れなかったのは1000万人のせいではなく、第七層の扉の前で聞こえた声のせいだった。


 ——陛下。


 その一言が、頭から離れなかった。


 言葉の意味はわかる。だが、自分に向けられているという実感が、まだない。


 田中武志、四十二歳。元経理で現無職。


 …。それが今日も変わらない事実だった。


 ただ、今日から登録者1000万人の、それになった。


 コーヒーを飲もうと思って台所に立ったら、インスタントがなかった。


 …買いに行かないといけないな。


 登録者が1000万人になっても、コーヒーは自分で買いに行かなければならなかった。



 朝、スマホが鳴り続けた。


 ヒナ:《田中さん!!!1000万!!!!おめでとうございます!!!!》

 サクラ:《おめでとうございます。記録的速度です。データをまとめました》

 リオ:《おめでとうございます》

 キリソウ:《おめでとうございます。俺の倍以上になりましたね……精進します!》

 黒沢:《田中さん、登録者1000万突破おめでとうございます。それと昨夜の異世界映像の件で、緊急の協議が必要なのですが》


 最後の一件でいつもの現実に引き戻された。


 俺は全員に返信した。


 ヒナへ:《ありがとうございます》

サクラへ:《ありがとうございます》

 リオへ:《ありがとうございます》

キリソウへ:《ありがとうございます。あなたも十分すごいです》

 黒沢へ:《今日の午後三時以降ならいいです》


 ヒナからすぐ返ってきた。


 《全員に同じ返し方してませんか?》

 《してません》

 《絶対してますよね?》


 …していた。なぜ分かるのだろうか?


1000万突破記念配信 — 同接:892,004


全員:1000万おめでとう!!!!!!!!

ガチ勢777:一週間ちょっとで7人→1000万 記録どころか伝説じゃん

エトウ:「ふーんと言いそう」って書いたら「言いました」って本人が配信で言ってるの草

匿名A:コーヒー買いに行く話で笑った 1000万になっても生活は変わらないおじさん

プロ冒険者X:昨夜の異世界映像、世界中で再生されて累計2億回超えてるらしい

海外勢:Congratulations!! We are watching from overseas!!

新規大量:昨日の映像見て登録した 続きが気になりすぎる



 午後三時。内閣府の会議室。


 今日は黒沢と早川に加えて、見知らぬ男が一人いた。


 五十代くらい。白髪混じりで軍人のような背筋。名刺を出した。


《内閣府ダンジョン対策室 室長 篠原義隆》


 上司が出てきた。


 「田中さん、初めまして。篠原と申します。」


 「…どうも」


 「昨夜の映像の件で、緊急招集をかけました。単刀直入に言います」


 篠原が俺を見た。


 「昨夜の映像は全世界で二億回再生されました。各国政府から問い合わせが来ています。田中さんの存在は、もはや国内だけの問題ではありません」


 「そうなんですか?」


 「そうですか、で済む話では——」


 「どうしろと言われても、俺にできることは限られているので」


 篠原が止まった。


 早川が小声で篠原に言った。


 「……室長、この方はそういう方です」


 「…そういう方とは?」


 「…国家規模の話を、個人の日常と同列に置く方です」


 篠原が俺を見てきた。


 そして、長い沈黙があった。


 「……黒沢から聞いてはいましたが、実物を前にすると」


 「…何かご不満がありますか?」


 「不満ではなく、…その…羨ましいと思いました」


 意外な言葉だった。


 「羨ましい?」


 「国際問題になっても動じない人間を、私は初めて見ました」


 篠原がため息をついた。


 「……協力してもらえますか。強制はしません。条件も田中さんが決めて貰って構いません。」


 俺は少し考えた。


 「一つだけ確認させてください」


 「…何でも」


 「神崎誠一さんの生存可能性について、持っている情報を全部開示してもらえますか?」


 篠原が目を細めた。


 「……神崎リオさんのことを、考えての条件ですか?」


 「そうです」


 黒沢が早川を見て、早川が何かをメモしていた。


 篠原がゆっくりと頷いた。


 「わかりました。開示します」



 会議室を出て、廊下でリオに会った。


 今日はヒナとサクラも来ていた。三人で廊下のベンチに座っていた。


 「…どうでしたか?」


 リオが立ち上がった。


 「お父さんの情報を出してもらうことにしました」


 リオが止まった。


 「……田中さんが、そう交渉したんですか?」


 「ええ」


 「なんで?」


 「リオさんのためです」


 リオがしばらく俺を見た。


 目が、揺れていた。


 今度はしっかりと、揺れていた。


 「……田中さん」


 「はい」


 「なんで、そんな——」


 言葉が途切れた。


 リオが俯き肩が、かすかに震えていた。


 俺は何も言わなかった。


 いや、何を言えばいいかわからなかった。


 ただ、待った。


 ヒナがリオの隣に行って、そっと肩に手を置いた。


 リオが顔を上げないまま、小さく言った。


 「……ありがとうございます」


 「どういたしまして」


 それだけだった。


 サクラが俺の隣に来て、小声で言った。


 「田中さん、やっぱりずるいですよ…」


 「ヒナさんもそう言いますが、意味がわかりません」


 「わかってた方が問題なので、それでいいです!」



 夜、配信を始めた。


 1000万人記念の配信、とヒナが提案したので、珍しく全員揃って自宅……ではなく、近所のファミレスからだった。


 テーブルに五人。ドリンクバー。


 キリソウがコーラを飲みながら言った。


 「田中さん、1000万人になった感想は?」


 「コーヒーが薄いことに変わりはないですね」


 「それ感想じゃないですよ」


 「…正直一週間前まで7人だったので、1000万人と言われても数字の重さが体感できていません」


 「正直すぎるっ!?」


 ヒナが俺を見た。


 「田中さんにとって、この一週間どうでしたか?」


 俺は少し考えた。


 「……疲れました」


 全員が笑った。


 「でも…」


 俺は続けた。


 「その…悪くなかったです」


 「悪くなかった、だけですか?」


 ヒナが少し不満そうに言った。


 「……楽しかったです」


 「言えるじゃないですか?」


 「そういうことを言い慣れていないので…」


 ヒナが笑った。


 小さく、でも嬉しそうに。


 リオがコーヒーを一口飲んで、静かに言った。


 「私も、楽しかったです」


 サクラが手帳にメモした。


 「田中さん初めて楽しかったと言った日:記録しました」


 「いつから記録してるんですか?」


 「初日からですが?」


 キリソウが苦笑した。


 「本当に個性が強いっ!」


1000万記念ファミレス配信 — 同接:1,102,334


ガチ勢777:1000万記念がファミレスのドリンクバーなのが最高すぎる

エトウ:「疲れました」から「楽しかったです」まで引き出したヒナちゃん有能

匿名A:田中さんが「楽しかった」って言えたの泣いた この一週間の話だよな

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんの嬉しそうな顔が尊い

匿名B:リオちゃんも「楽しかった」って言ってくれた 廊下で泣いてたのに強い子だ

プロ冒険者X:サクラちゃんが初日から記録してるの、これ絶対後で重要な資料になる

キリソウ実況:俺も楽しかった。正直言うと田中さんのパーティーに入れて良かったと思ってる

新規大量:このパーティー、全員好き



 ファミレスを出て、夜の歩道を歩いた。


 五人でぞろぞろと歩いた。


 キリソウとサクラが少し前を歩いていて、リオがその後ろ、ヒナが俺の隣だった。


 「田中さん」


 ヒナが言った。


 「はい」


 「扉、開けますよね。第十一層まで行きますよね?」


 「そのつもりです」


 「うちも、行きますから!」


 「知っていますよ」


 「止めませんか?」


 「止める理由がないので」


 ヒナが少し間を置いた。


 「…危ないですよ?」


 「そうですね」


 「怖くないですか、うちが一緒に来ることが」


 「怖い、とは?」


 「…うちが怪我したら、嫌じゃないですか?」


 俺は少し考えた。


 正直に答えた。


 「…嫌です」


 ヒナが止まった。


 「……え」


 「怪我してほしくないです。あなたも、全員」


 「全員……?」


 「だから守ります。できる限り」


 ヒナがしばらく俺を見た。


 夜の歩道の街灯の下で、ヒナの顔が少し赤かった。


 「……なんで、そんなに自然に言えるんですか?」


 「本当のことだからです」


 ヒナが前を向いた。


 「……田中さんって」


 「はい?」


 「ずっとずるいですよ?」


 「…最近よく言われますね」


 後ろでリオが静かに歩いていた。


 その横顔は、夜の街灯の下でも、どこか遠くを見ていた。


 父親のことを、考えているのだろうと思った。


 俺は前を向いて歩いた。


 革靴の音が、夜の歩道に静かに響いた。


 右手が、かすかに温かかった。


 第八層が、待っている。



【総括】田中武志、1000万人到達までを振り返るスレ


1 名無しさん : 7人→1000万を一週間ちょっとでやり遂げたおじさん 歴史に残る


2 名無しさん : 「嫌です」って即答したの 全員の怪我が嫌って言い方がずるすぎる


3 名無しさん : リオちゃんへの交渉が今話一番の神シーン 自分のことより他人を先に動く人間


4 名無しさん : 篠原室長が「羨ましい」って言ったの国家官僚としてちょっと面白すぎた


5 名無しさん : 1000万記念がファミレスのドリンクバーで「楽しかったです」「疲れました」で終わるの田中さんらしすぎる


6 名無しさん : リオちゃんが遠くを見てた場面 お父さんのことだよな 早く情報出てきてほしい


7 名無しさん : サクラちゃんが初日から記録してた事実が後々ものすごい意味を持ちそう


8 名無しさん : 第八層 次は何が出てくるんだ 第七層の扉が開きかけてたし加速しそう

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