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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第13話 第八層で、おじさんの名前が判明した

篠原室長が約束通り、神崎誠一の資料を送ってきたのは翌朝だった。


 分厚いファイルだった。PDFで百七十ページ。


 俺はそれをリオに転送した。


 返信が来るまで、三十分かかった。


 《……読みました。少し、時間をください》


 それだけだった。


 俺は「わかりました」と返して、スマホを置いた。


 百七十ページの中に、何が書いてあったのかは聞かなかった。


 聞く必要があるときが来たら、リオが話してくれるだろうと思ったから。



 昼過ぎ、ヒナから連絡が来た。


 《今日の配信、リオさんも来るって言ってました。第八層、行きますか?》

 《行きます》

 《田中さんって返事早いですね、こういうときだけ…》

 《こういうとき、というのは?》

 《ダンジョン関係のとき》

 《他のときは何が遅いですか?》

 《誕生日とか記念日とか……いや忘れてください》


 何を言いかけたのかよくわからなかった。


 とりあえず「わかりました」と返した。



 渋谷ダンジョン入口に、五人が集まった。


 リオは普段通りに見えた。


 目が少し赤かったが、立ち方は変わっていなかった。背筋が伸びていた。


 俺と目が合った。


 「……来ました」


 「はい」


 「資料、ありがとうございました…っ!」


 「役に立ちましたか?」


 「……父は生きています。向こうで…っ!」


 リオが静かに言った。


 「資料に、第十層深部での最後の通信記録がありました。父は向こうに渡ることを選んだんです。戻り方がわからなくなったのではなく、自分で行くことを決めたみたいです。」


 「そうでしたか…。」


 「……それがわかって、少しだけ、楽になりました」


 リオが前を向いた。


 「だから、私も行きます。田中さんと一緒に、向こうへ!」


 「…わかりました」


 ヒナがリオの隣に立った。


 「うちも行きます。当然!」


 サクラが手帳を開いた。


 「記録します。全員の意思確認完了、っと。」


 キリソウが苦笑した。


 「……俺も、もちろん」


 俺は四人を見た。


 断る理由が、どこにもなかった。


配信開始 — 同接:744,882


ガチ勢777:リオちゃんの「父は生きています」で泣いた

エトウ:自分で向こうに行くことを選んだ父親 どんな人なんだ

匿名A:全員の意思確認完了をサクラちゃんがメモするの笑うんだけど泣きそうでもある

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんがリオちゃんの隣に行ったの ライバル視してたのに仲良くなってる

プロ冒険者X:第八層 行くのか 到達者数がさらに少ないはず

キリソウ実況:「断る理由がどこにもなかった」が田中さんらしいと思いながら俺も同じ気持ち



 第八層への階段は、今までで一番長かった。


 下りながら、空気の密度が変わっていくのがわかった。


 重くなるのではなく、濃くなる感じ。


 魔力というものがあるとしたら、こういう感触なのかもしれない、と思った。


 右手が、これまでで一番強く光っていた。


 「……田中さんの手、ずっと光ってますっ!」


 キリソウが言った。


 「ええ」


 「止める方法は?」


 「わかりませんね」


 「試したことは?」


 「ないですね」


 「試してみますか?」


 「…別に困っていないので」


 キリソウが小声でヒナに言った。


 「……田中さんって、もっと自分の能力を気にしませんか?」


 「気にしない人なんだよ~」とヒナが返した。


 「何でですか?」


 「わからない。でもそれが田中さんだから!」


 ヒナが当たり前のように言った。


 それを聞きながら、俺は階段を下りた。



 第八層は、今までと全く違った。


 壁も床も天井も——全部、冥界石だった。


 第七層では壁の一部に冥界石が混じっていたが、ここは違う。構造物の全てが黒みがかった金色の石で出来ていた。


 光が、層全体から発されていた。


 柔らかい金色の光。


 「……綺麗」


 ヒナが呟いた。


 確かに綺麗だった。


 洞窟というより、建築物だった。丸天井にアーチ型の通路。柱に複雑な彫刻が施されている。


 「…ここは人が作ったものですね」


 リオが言った。


 「自然の洞窟じゃない。設計されています…」


 「…誰が?」


 「……異世界側の人間だと思います。ダンジョンは自然発生したものではなく、意図的に作られた構造物という説が父の資料にありました」


 「…目的は?」


 「繋ぐため、と書いてありました。二つの世界を」


 俺は天井を見上げた。


 アーチの頂点にも、文字が刻まれていた。


 読める。


 「…何と書いてありますか?」


 サクラがカメラを向けながら聞いた。


 俺は少し間を置いた。


 「《王の寝室》」


 全員が止まった。


 「……寝室?」


 ヒナが思わず言った。


 「…そう書いてあります」


 「王の寝室が第八層にあるんですか?」


 「…書いてある以上、そうなのでしょう」


 「なんで寝室がダンジョンの地下八層に?」


 「わかりません」


 キリソウが天井を見上げた。


 「……王の回廊、王の寝室。第九層は何でしょう?」


 「行けばわかりますよ」


 「田中さんって怖くないんですか本当に」


 「…あまり?」


同接:891,003


ガチ勢777:王の寝室wwwwww急に生活感が出た

エトウ:ダンジョンが二つの世界を繋ぐために作られた構造物説 伏線回収の匂いがする

匿名B:全部冥界石なの画面越しでも綺麗なのわかる

プロ冒険者X:王の回廊→王の寝室ときたら次は王の何だ

匿名C:「行けばわかります」が毎回怖いもの知らずすぎて好き

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんが「なんで寝室がダンジョンの地下八層に」ってツッコんでるの代弁してくれてる



 寝室、と呼ばれる空間は、思っていたより広かった。


 中央に、巨大な石台があった。


 ベッドの形をしていた。石で出来た、しかし確かにベッドの形。


 その石台の表面に——文字が刻まれていた。


 俺は近づいた。


 右手が、強く光った。


 石台に触れた瞬間——


 頭に、何かが走った。


 第七層より強い。


 第五層の扉の比ではない。


 俺は立ったままだった。膝はつかなかった。


 ただ、目の前が——別の場所になった。



 石台の上に、誰かが寝ていた。

 俺だった。

 今の俺ではない。金色の衣を着た、若い俺が、静かに目を閉じていた。

 周囲に人がいた。

 銀髪のエルフの女性。

 それは、第七層で見た顔だった。

 その隣に、背の高い獣人の男おり、虎の耳と尾。

 そして、鎧を着ている。

 さらに奥に、黒いローブの魔族らしき女。

 角が二本。目が赤い。

 三人が石台を囲んで、立っていた。

 誰も喋らなかった。

 銀髪のエルフが俯いていた。

 獣人の男が、低い声で言った。

 「陛下は必ず戻る。そう仰っていただろ?」

 「……わかっている」

 エルフが答えた。

 「わかっているが——」

 声が、途切れた。

 魔族の女が静かに言った。

 「待ちましょう。陛下のお名前を、ここに刻んで。それが灯台になる」

 エルフが顔を上げた。

 「……ええ」

 三人が石台に手を当てた。

 文字が、光りながら刻まれていった。

 


 意識が戻った。


 立っていた、今回は膝をつかなかった。


 右手が石台に触れたままだった。


 光が、石台から右手に、右手から腕に、腕から全身に広がっている。


 「田中さん!」


 リオが声をかけた。


 「大丈夫です」


 「…また、見えましたか?」


 「……ええ。三人が、この石台に何かを刻んでいました。エルフと、獣人と、魔族」


 リオが息をのんだ。


 「……三種族が揃っていた?」


 「そうです」


 「それは、異世界の三大種族です。彼らが一堂に揃うことは、普通はありえない…。」


 「…揃っていました。俺のために、何かを刻んでいたみたいです。」


 俺は石台の表面を見た。


 文字が刻まれていた。


 読める。


 全部、読める。


 だが、その中の一文字だけ、他と違う輝きを持っていた。


 金色ではなく、白。


 純粋な白い光が、一文字だけそこにあった。


 俺はその文字を読んだ。


 そして、声に出た。…いや、出てしまった。


 「——《アルディス》」


 右手の光が、爆発するように広がった。


 第八層全体が、一瞬だけ昼間のように明るくなった。


 そして、静かになった。


 ヒナが息を整えながら言った。


 「……今のは、何ですか?」


 「…名前です」


 「名前?」


 「…俺の。向こうでの」


 沈黙。


 全員が、俺を見た。


 俺は石台から手を離した。


 右手の光が、ゆっくりと収まっていった。


 「…アルディス、というらしいです」


 「……アルディス。」


 キリソウが繰り返した。


 「……田中武志とアルディスが同一人物、ということですか?」


 「そうなるみたいですね」


 「か、感想は?」


 「……ピンとこないです」


 キリソウが脱力した。


 「そう言うと思いました…。」


同接:1,782,004 — 世界同時トレンド


全員:アルディス!!!!!!!!!!!!!

ガチ勢777:名前が判明した!! 田中武志=アルディス確定!!

エトウ:三大種族が一堂に揃って王の名前を刻んだって話がデカすぎる

プロ冒険者X:名前を言った瞬間に第八層全体が光ったの ダンジョンが反応した

匿名D:「ピンとこないです」で全員の緊張が吹き飛んだの笑う

海外勢:ALDIS!!! THE KING'S NAME IS ALDIS!!!

匿名E:銀髪エルフと獣人と魔族 三人それぞれキャラが見えてきた 全員好きになりそう

ヒナ推し最前線:ヒナちゃんが「アルディス……」って呟いたとき複雑そうな顔してたの気になった

新規大量:世界中から同接来てる 歴史的な配信になってる



 帰り道、ヒナが俺の隣を歩きながら静かに言った。


 「田中さん」


 「はい」


 「…その、アルディスって呼んだ方がいいですか?」


 「田中でいいですよ」


 「でも向こうでの名前は——」


 「ここではまだ田中武志です。それは変わらないと言いました」


 ヒナが少し間を置いた。


 「……よかったです」


 「よかった?」


 「…田中さんが田中さんのままで」


 俺は前を向いたまま歩いた。


 何も言わなかった。


 言葉が見つからなかったから。


 ただ、悪くないと思った。


 革靴の音が、第八層の金色の通路に静かに響いた。


 アルディス、か。


 どんな男だったのか。


 どんな王だったのか。


 まだ今の俺には、わからない。


 だけど、三種族が揃って、名前を刻んで、待っていてくれた。


 その事実だけは、確かだった。



【速報】田中武志の別世界での名前が「アルディス」と判明 三大種族が刻んだ名前


1 名無しさん : アルディス王 元経理 無職 登録者1000万 この肩書きの並びがおかしすぎる


2 名無しさん : 三大種族(エルフ・獣人・魔族)が揃って名前を刻んだって、それだけでどれだけ愛されてたか伝わる


3 名無しさん : 「ピンとこないです」には笑ったけど「田中でいいです」でヒナちゃんが「よかった」って言ったの泣いた


4 名無しさん : 第七層:王の回廊 第八層:王の寝室 第九層は何だ 王の何だ


5 名無しさん : 銀髪エルフちゃん名前まだないけど絶対異世界ヒロインじゃん ヒナ推しとして複雑


6 名無しさん : リオちゃんのお父さんも向こうに行ったってことはアルディスのことを知ってた可能性ある


7 名無しさん : 世界同時トレンドになってた もはや国際問題どころか人類の問題になってきた


8 名無しさん : 登録者1100万突破してた 止まる気がしない

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