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クビになった冴えないおじさんがダンジョン配信を始めたら、なぜか登録者100万人超えてしまった件〜俺、実は最強だったらしい〜  作者: あっかんべー
第1章:異世界と配信とおじさん

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第11話 第七層で、おじさんの記憶が動いた

朝、ヒナからメッセージが来た。


 《キリソウさんから連絡きました。次の配信に参加したいって。どうしますか?》


 俺は「どうぞ」と返した。


 《え、もうちょっと考えてから返事してください!》


 《考えましたよ?》


 《何秒ですか?》


 《三秒くらいですかね?》


 しばらくして、《田中さんって本当に……》とだけ返ってきた。


 文末の「……」が何を意味するのかはわからなかったが、たぶん呆れているのだろうと思った。



 渋谷ダンジョン入口。


 今日のメンバーは五人になっていた。


 ヒナ、サクラ、リオ、そしてキリソウ。


 キリソウは昨日と打って変わって、静かだった。

俺の隣に並ぼうとして、ヒナに一歩先に入られて、結果的にリオの隣に立っていた。


 「よろしくお願いします、桐島さん」


 リオが言った。


 「あ、はい。よろしくお願いします……神崎さんって、登録者八十万の…」


 「はい、そうですね」


 「すごいですね」


 「田中さんの前ではみんな同じですよ…」


 キリソウがそれを聞いて、小さく笑った。


 「……確かに」


 サクラがカメラを構えながら俺に小声で言った。


 「田中さん、今日の目標は?」


 「第七層を見てくることです」


 「見てくる、という目標設定が緩い気がします!」


 「行けるところまで行くということです」


 「わかりました。記録します」


サクラは何でもメモするな。いつかこのメモ書きが本にでもなるのだろうか?、と思った。


配信開始 — 同接:621,004


ガチ勢777:キリソウくん参戦じゃん!

エトウ:昨日の今日でもう来てるの行動力あるな

匿名A:ヒナちゃんがキリソウの隣を阻止したの絶対意識してるw

キリソウファン:推しが田中さんパーティーに入った 複雑だけど嬉しい

プロ冒険者X:第七層か ここから先は国内でも到達者が片手で数えられる

匿名B:「見てくること」を目標にするおじさん 緩すぎて好き



 第七層への階段を下りた瞬間、空気が変わった。


 今までとは違う変わり方だった。


 重い、とか、熱い、とかではない。


 ——静かだった。


 異様なほど静かだった。


 光苔もなかった。冥界石の淡い金色の光だけが壁を照らしている。天井が高く通路は広い。…まるで、何かの……そう、廊下のような造りだった。


 キリソウが息をのんだ。


 「……ここ、来たことある人間が国内に五人しかいないんですよね?」


 「そうらしいですね」


 「怖くないですか?」


 「怖い、という感覚があまりなくて…」


 「……羨ましいような、怖いような…?」


 ヒナが通路の壁を見た。


 「…壁の文様が、第六層までと違いますね」


 確かに違った。


 第六層までの壁は石を積み上げた自然な造りだったが、第七層の壁には規則的な文様が刻まれていた。幾何学的な模様と、俺が読める文字が交互に並んでいる。


 「読めますか?」


 リオが俺に聞いた。


 「……読めますね」


 「何と?」


 俺は壁を見た。


 「《王の回廊》、と書いてあります」


 沈黙が落ちた。


 「……王の回廊」


 キリソウが繰り返した。


 「ここが王の回廊なら、第七層は——」


 「王が歩いた道、ということかもしれませんね」


 俺は歩き始めた。


 右手が、温かかった。


 歩くたびに、少しずつ光が強くなっていく。


同接:788,441


ガチ勢777:王の回廊! 設定が深すぎる

エトウ:王が歩いた道を元経理が歩いてるの、つまり同一人物では

匿名C:壁の文様が美しすぎて画像保存した

プロ冒険者X:到達者五人の誰も壁の文字を読めなかったんだよな 田中さんが来るのを待ってた場所みたいで鳥肌

キリソウ実況:俺の同接も田中さんの配信に吸われてる気がするけどこれは仕方ない

匿名D:田中さんが歩くたびに手が光るの見てる



 回廊を進んで五分ほどで、異変が起きた。


 俺の頭の中に、何かが走った。


 痛みではない。


光の感覚が走り、第五層の扉の前で見た映像と同じ種類のものが、今度はもっとはっきりと浮かんでくる。


 俺は立ち止まった。


 「田中さん?」


 ヒナの声が、遠くなった。



 広い。

 空がとても広い。

 青ではない、紫がかった、深い色の空。

 俺は——誰かと並んで立っていた。

 長い銀髪の、女性だった。耳が、少し尖っていた。

 エルフ、と俺は思った。

 まるで当たり前のことのように。


 「陛下」


 その声は、俺に向かっていた。


 「もうすぐ、始まりますよ?」

 「……わかっている」


 自分の声だった。今より低い。


 「帰ってきてください。必ず!」


 銀髪の女が俺を見ていた。

 その目が、とても泣きそうに見えた。

 意識が戻った。



 また、膝をついていた。


 ヒナが俺の肩を掴んでいた。


 「田中さん!また倒れたっ!?」


 「…倒れていません。膝をついただけです」


 「同じだって!毎回言ってます!」


 リオが俺の前にしゃがんだ。


 「また、見えましたか?」


 「……ええ」


 「何が?」


 俺はしばらく考えた。


 「空の色が違う場所で銀髪の女性がいて、耳が尖っていました…。」


 リオの目が細くなった。


 「エルフですか?」


 「多分」


 「その人は何と?」


 「……帰ってきてください、とだけ…。」


 静寂。


 キリソウが小声で言った。


 「……陛下って呼ばれてましたよね。配信に乗ってました」


 全員が止まった。


 俺も止まった。


 「……映像が、配信に乗りましたか?」


 「はい。田中さんが止まった瞬間から、カメラに映像が入り込んできて…」


 サクラが静かに言った。


 「おそらく、全部、視聴者に見えていました」


同接:1,441,882 — 国内トレンド全席、海外拡散開始


全員:陛下!!!!!!!!!!!!!!

ガチ勢777:映像が配信に乗ってきた これ何が起きてるんだ

エトウ:銀髪エルフが「帰ってきてください」って言ったの 向こう側から呼んでる

プロ冒険者X:異世界の映像がリアルタイム配信に混入するって物理的にどういうことだよ

匿名E:エルフちゃんの目が泣きそうだったのが忘れられない

海外勢:What just happened??? Is this real???

匿名F:田中武志を待ってる人間が向こうにいる 「帰ってきて」って言ってる 泣く

キリソウ実況:俺も見てた あれは夢とか錯覚じゃなかった 確かに映ってた



 配信を一時停止した。


 五人で通路に立ったまま、しばらく何も言わなかった。


 最初に口を開いたのはサクラだった。


 「田中さん、配信に異世界の映像が乗ったのは、たぶんここが《王の回廊》だからだと思います」


 「根拠は?」


 「冥界石の密度が高い場所では、異次元エネルギーの透過率が上がります。田中さんの中の記憶が強く動いたとき、そのエネルギーが冥界石を介してカメラの映像信号に干渉した可能性があります」


 「サクラちゃん、どこでそれ調べたの?」


 ヒナが言った。


 「黒沢さんの資料です。少し拝借しました」


 「拝借って…?」


 「ご本人の許可は取っていませんが、後で報告します」


 キリソウが苦笑した。


 「……このパーティー、個性が強すぎる…っ!」


 誰も否定しなかった。


 リオが俺を見てきた。


 「…田中さん、続けますか?」


 俺は右手を見た。


 まだ光っていた。


 「続けます」


 「体は?」


 「問題ないです」


 「嘘をついていませんか?」


 「……少し頭が痺れていますが、動くので問題ないです」


 リオが小さくため息をついた。


 「……正直に言ってくれてありがとうございます」


 「…嘘をつく理由がないので」


 ヒナが俺の腕をそっと引いた。


 「田中さん、無理だったら言ってください。うちたちがいるから!」


 声が、少し真剣だった。


 いつもの砕けた口調の下に、本気のものがあった。


 「……わかりました」


 俺は素直に頷いた。


 後ろでキリソウがサクラに小声で言った。


 「ヒナさん、田中さんのことまさか、本気で——」


 「観察眼ありますね~」


 「そうじゃなくて!」


 「…続きはあとで」



 回廊の奥に、また扉があった。


 第五層のアーチとは違う。


 もっと大きく、もっと古い。


 高さは十メートルを超えているかもしれない。石造りの巨大な扉があり、左右に柱。柱の上から下まで、びっしりと文字が刻まれていた。


 俺は読んだ。…全部読めた。


 「……何と書いてありますか?」


 リオが聞いた。


 俺は少し間を置いた。


 「左の柱には——《我が王よ、長い旅だった》」


 誰も声を出さなかった。


 「右の柱には——《我らは、ずっと待っていた》」


 静寂。


 王の回廊の金色の光が、静かに脈動していた。


 ヒナが俺の隣に立った。


 何も言わなかった。


 ただ、立っていた。


 俺には、それで十分だった。


 俺は扉に右手を当てた。


 光が走り扉が、かすかに震えた。


 開かなかった。


 また、開かなかった。


 だが、扉の向こうから、声がした。


 言葉ではなかった。


 音だった。


 遠く、かすかに——誰かが、何かを言おうとしている音。


 俺は目を閉じた。


 聞こえた。


 たった一言、はっきりと。


 ——《陛下》


 右手の光が、一瞬だけ強くなった。


 そして消えた。



【震え】第七層の扉に書いてあった言葉が全人類に刺さりすぎた件


1 名無しさん : 「我が王よ、長い旅だった」「我らは、ずっと待っていた」 この二行で泣いた人間↓


2 名無しさん : ↑泣いた。クビになって無職になったおじさんが「長い旅だった」「ずっと待っていた」って言われてるのが全部繋がって


3 名無しさん : 異世界の映像が配信に乗り込んできたのが前代未聞すぎて世界中のメディアが取り上げ始めた


4 名無しさん : 扉の向こうから「陛下」って声が聞こえたの田中さんだけ聞こえたってこと?


5 名無しさん : ヒナちゃんが何も言わずに隣に立ったの それが一番刺さった


6 名無しさん : サクラちゃんが政府の資料を「拝借」してるの後で怒られそうだけど笑う


7 名無しさん : キリソウくんがパーティーの個性の強さに若干引いてるの新鮮な視点で好き


8 名無しさん : 登録者960万、もうすぐ1000万 歴史的な瞬間が近い

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