友人たちとの昼食
そして、朝の訓練やらゲーム知識との齟齬は無いかなどの確認やらを行っていると一週間はすぐに過ぎた。
(蒼桜にはとっくの昔に話は通してあるし、早く集合場所に向かうか)
流風と遊ぶ日が決まってそうそうに蒼桜には連絡を入れており、参加の意思は聞いている。その時のどこか緊張した様子はきっと気のせいではないだろう。
こちらでできる限りのフォローはしてあげないとな、と思いながら魔力を活用しつつ主な動力は電気が担ってるという電車に乗って、西区を目指す。本来なら平日の今日は昼間であっても人は少なく余裕を持って椅子に座ることができた。
かと言ってこのままぼっーと過ごすわけでもなく、3人で回れそうなお店を探してみる。昼食に関しては目星をつけているため何も心配はいらない。
(あの二人が喜ぶような場所の方がいいよな)
ゲームでの知識を元に二人が好きそうなものをスクロールしながら確認していると、窓から見える背の高い建物やら交通量の多さから西区に着いたことに気づいた。
待ち合わせに設定した場所は中央改札口付近だ。というのも俺も西区の定番の待ち合わせ場所なんて知らないし、ここに来たばかりの流風も知るはずがないためである。このことは蒼桜との電話の中で決まったため、寮に電話して流風に繋いでもらうことで情報を共有した。
(流風はケータイ持ってないらしいし、今日買いに行ってもいいな)
構内に貼ってある広告を見ながらそんなことを考えていると後ろから声がかかる。
「蓮」
「お、来たか」
現れた蒼桜は白のロングスカートにベージュのカーディガンを合わせた少し落ち着いた服装で、彼女の銀髪ともよく合っていた。この世界に来たばかりの時は色々考えることが多すぎてきちんと理解出来ていなかったが、蒼桜や流風はギャルゲーのヒロインなのだ。
今更だが、何かアイドルにあったような変な気持ちになる。しかし、アイドルのような手が届かない存在ではなく自分の友人であるということに少し胸が高なった。
(いや何考えてんだ。記憶が無いにしても仕事に行こうとしてたなら俺は確実に年上だろう。ライン引きはちゃんとしないとな。そうだ、彼女たちには主人公がいるんだから変なことは考えるな)
自分に言い聞かせながらも蒼桜をじっと見ていると、
「···おかしかった?」
「えーと、何が?」
「友達と遊びに行くの初めてだから。何着ていけばいいか分からなくて···。だから、変な格好だったらごめん」
どうやら変な勘違いをさせてしまったらしい。蒼桜は下を向いて謝罪の言葉を述べた。それを見て、やらかしたなと思いつつ口を開く。
「あー、蒼桜逆だよ逆」
「···逆?」
「あんまりにも似合いすぎてて驚いたんだよ。前の和服もよかったけど、今日の洋服もよく似合ってる」
俺の言葉に少し驚いた蒼桜は僅かに口元を綻ばせて、
「良かった」
そう言った。
何とか乗り切ったと安堵している俺の肩を誰かが叩く。咄嗟のことで警戒せず振り向いたところ、
ぷに
誰かの人差し指が俺の頬に当たる。
「···何してんの、流風?」
「あいさつじゃ」
「どこで習ったんだ?」
「サウスで流行ってたぞ」
「そっか、今度俺もやるから」
「ふっ、妾は強いぞ。先にお主の頬を人差し指で触れてやる」
「いやいや、これってそんな勝ち負けがあるゲームじゃないでしょ」
俺の知ってるのとは全く異なるものに動揺を隠せないでいると、
「この子が言ってた子?」
「ああ」
蒼桜が俺に声をかける。流風も蒼桜に気づいたようで、お互いを認識し合った。まず口を開いたのは案の定流風だった。
「妾は草薙流風じゃ、よろしく頼む」
「ん、神水流蒼桜。よろしく」
「蒼桜と呼んでもいいか?妾のことも呼び捨てで舞わん」
「わかった」
「そうか、なら蒼桜は確か既に学園に通ってるそうじゃな」
「うん」
「学園には強い剣士はおるのか!?」
目をキラキラさせて蒼桜はそんな質問をする。その圧に少し押されながらも蒼桜は、
「詳しくないけど、剣術の授業では強い先生がいるらしい」
「ほう!そうかそうか、俄然楽しみになってきおった!」
「流風は剣が好きなの?」
「剣というか太刀じゃが、それこそ妾にとって信じられる唯一のものじゃからの」
含みのある言い方に蒼桜は首を傾げたが、俺は二人の会話をさえぎって声をかける。
「とりあえず、お腹減ったしお店に行こうか」
「「うん(む)」」
二人も同じ気持ちだったらしくすぐに返事は返ってきた。構内は人が多く二人とはぐれないよう気を配りながらあてをつけていたレストランへと向かった。
迷うなんてことも無く向かう途中も会話を重ねながら二人の仲を取り持つように話題を振る。
そうしてたどり着いたお店のオシャレな扉を開くと、中の店員から声をかけられた。
「いらっしゃいませー、何名様ですか?」
「三人で」
「かしこまりました、ではこちらにどうぞー」
流れるような店員の案内を受け、四人がけの席に着く。メニューは机の上に置かれていたのでそれを見つつ、決まった者からタッチパネルで注文することにした。
「んー、俺はこのスパゲッティにしようかな。ついでにパンでもつけて」
先にこのレストランを調べた時に美味しそうだなと思っていた料理を注文することに決める。すると、すかさず流風が声を上げた。
「色々種類が多くて分からんから妾は蓮と同じにしようかの」
決めたと言わんばかりにタッチパネルに触り出す流風。
「···本当にいいの?俺と一緒で」
「大丈夫大丈夫じゃ。お主が選んだのであればきっと美味しいに決まっておる」
「そっか」
帰るつもりの無い様子の彼女を見て俺は何も言わないことにする。
(やっぱりか···)
心でそうつぶやいた後、俺が何か言うべきではないだろうと、まだ選んでる蒼桜に意識を向ける。
「蒼桜はどうするの?」
「迷ってたけど、オムライスにする」
そう言いつつ黙々とタッチパネルに入力し始めた。
「終わった。この後どうすればいい?」
「この注文確定を押せばキッチンに届くから」
「分かった」
言われるがままボタンを押すとキッチンの方で『注文入りましたー』という元気な声が聞こえたことで蒼桜も安心したようだ。
「さて、少し落ち着いたところで改めて二人ともこれからよろしく」
「うむ、よろしく頼むぞ」
「よろしく。学園は私が案内する」
「楽しみにしてるよ」
「まかせて」
ゲームで全体図は分かっていたが、実際に学内を歩こうとしたら迷うほど広いので案内というありがたい提案を受け入れる。
「本当にあの学園は広いからのう。妾も蓮と別れた後、しばらくあの学園を彷徨ったわ」
「無事にたどり着けたの?」
「何とかの。途中、学園に務める教員に出会わなければ妾は今も彷徨っておったかもしれぬ···」
「さすがに言い過ぎでしょ」
「案外冗談じゃない」
蒼桜が少し真面目な顔で言う。
「最新の設備を取り入れるためにいくつも建物が増設されてる。そのせいで学内の地図もすぐに変わるから新しいデータをダウンロードしてないとどこにいるか分からなくなる。それで、行方知れずになった生徒がいるって噂を聞いたことがある」
「何それこわ」
「······」
尾ひれのついた噂話だと思うが、普段無表情の蒼桜が語るとそれとなく雰囲気が出て本当のように聞こえる。それに本気で怯えているのが一人。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…
「もし、あの時誰にも見つからなければ···」
恐らく学園で彷徨う自分の姿でも想像しているのだろう。そんな彼女に声をかける。
「流風、正気に戻りなって。だから、そういう時のためにケータイ買いに行こうよ」
「流風はケータイ持ってない?」
「···はっ、悪い夢を見ておったようじゃ。で、何の話をしておるんじゃ?」
本当に話を聞いていない様子の彼女に流れを説明する。
「そうか、ケータイがあれば助かるのか」
「地元にケータイを売ってるお店がなかったらしい。だから、わざわざ寮に電話してたんだよ」
「そうなんだ。買った方が便利。今日買いに行こう」
「じゃが、せっかく遊びに来たのに妾の用に付き合わせるのは申し訳ないのじゃ」
「気にしない気にしない。これから何度でも遊びに来れるわけだし」
「うん、そうすればすぐに遊びの予定も立てられる」
「お主ら···。分かった、厚意に甘えて買いに行かせてもらおうかの。じゃが、どれがいいか分からんから手伝って貰っても良いか?」
「了解」
「ん」
次の予定も立てられたことで、俺は席を立つ。
「水を入れてくるからちょっと待っててよ」
「手伝うぞ?」
「大丈夫、すぐそこだし」
コップに氷を入れて水を注いでいると、元の席から話し声が聞こえてくる。
(上手くやってるようでよかった)
こぼさないようにコップを運び終わったタイミングで料理が届き始めた。
「蓮、礼を言うぞ」
「ありがと」
「どういたしまして。さぁ、食べようか」
三人で手を合わせて昼食を食べ始めた。
読んでくださりありがとうございます!
感想や評価をくださると嬉しいです。
登場の仕方的に書きたくても書けなかった流風の服装は白パーカーにグレーのハーフパンツです。この理由に関しても後々出てくると思います。
やっとここまで来ました。次から話が進んでいくと思います。




