別れの後悔
「うむ、美味かった!妾は満足じゃ!」
「評判通りいい店だったね」
「また行きたい」
そんな店の味を十分に堪能した俺たちが向かうのはケータイショップだ。人通りが多い駅付近にいくつか店舗があり、俺たちから一番近くの所へと地図を見ながら進む。
「ここは曲がればすぐのはずだけど」
「あった」
十字路を曲がるとお目当ての店があった。
店内には様々な種類のケータイがあり、あまりこの世界の事情に詳しくはない俺は流風のことは蒼桜に任せることにした。
「じゃあ、俺は店内にいるけど流風のことは任せるよ」
「一緒に回らんのか?」
「あんまりぞろぞろ歩いても邪魔になるだろうし、二人で見てきたら?」
「分かったのじゃ、蒼桜頼んだぞ!」
「この前買い換えるためにいろいろ調べたから任せて」
彼女たちは最新の機種が売ってる方へと向かった。
俺は自分のケータイの電源を入れる。
(俺がこの世界に来る前から使ってたものだから何か蓮について分かることがあるんじゃないかと思ったけど、ほとんど痕跡がないんだよな)
写真も数枚程度、メッセージアプリについても登録してる相手は少なく会話についても終わる度に消してるのか残ってはなかった。
(考えてもしょうがないし、俺もこの世界のケータイでも見てみるか)
とは言っても、大きな違いはなくいくつか機能が増えている程度だ。次に、いい料金プランはないかとパンフレットを見ていると、
「のう、蓮」
「うぉっ!びっくりした···。な、何か用?」
ひょこりとパンフレットの向こう側に顔を出してきた流風に驚くが急いで体裁を整えて用を聞く。
「蒼桜と話しておすすめの機種を買うことにしたんじゃが、どの色にするか迷っての。どれがいいと思う?」
「···自分で選んだ方がいいんじゃない?流風のお金で買うものなんだし」
俺は様子見でそう提言するが、
「妾はその···センスが無いからのう。お主に決めてもらいたいんじゃ。それならきっと後悔はせんと思うし!」
いつもとは違うどこか痛々しい笑顔でそう言う。
昼食の時から思っていたが、やっぱり俺が知っている流風と生い立ちが同じようだ。それに対して俺は何も出来ない無力さと共に彼女をこんなふうにした奴らへの怒りを抱いた。
「どうかしたのか、蓮?」
「···何でもないよ。色の話だったよね?この中だったら、流風の髪色に似てる黄色でもいいんじゃない?」
「そうか、ならそれにしよう!蓮、礼を言うぞ!」
「気にしないで」
会話が終わると蒼桜の元へと向かう流風を見送り、拳の力を緩める。
(ふぅ、ちょっと外の空気を吸うか)
気分転換に外に出たところ、何故かこっちを見ている蓮と同年代くらいの青年が目に入る。なぜ、それに気づいたかと言えばその視線には負の感情がこもっているようだったからだ。
目が合ったことでその青年は踵を返して、路地裏に消えていく。
(何だったんだ?)
追いかけて聞く程でもないため、特に気にせず心を落ち着かせてから店内へと戻ると、
「どこに行っておったのじゃ。もう購入し終わったぞ」
不満げな流風がそこにいた。
「買ったのを蓮に見せるって探したけど、いなかったから拗ねてる」
「拗ねておらん!」
「笑顔で走っていって沈んだ顔で帰ってきたのに?」
「それは黙っておくべきじゃろ!」
「私のことを置いていった仕返し」
「それは謝るから、これ以上は言わんでくれぇ!」
「分かった。でも、蓮も一言残してから行くべきだったと思う」
「そうじゃよな!さすが蒼桜じゃ!」
「こんなに早く終わると思ってなかったんだよ、ごめんごめん」
「うむ、そこまで言うなら許してやろう」
「これで仲直り」
「別に喧嘩はしてなかったじゃろ?」
自然と話す二人を見て、今日はそれだけでも意味があったなと思う。
「大事な買い物も終わったし、次に行こうか」
「どこ行くの?」
「次は―」
こうして、その後はカラオケやボウリング、さらにはカフェにも行くなどして楽しい時間を過ごした。
いつの間にか影が伸び、昼間とは違った色の太陽が辺りを照らすようになった。
「楽しかったね」
「うむ、これほど楽しい気持ちになったのは久しぶりじゃ」
「また三人で来たい」
「いいね。その時にはもっと今どきの歌を勉強しておかないとね、流風」
「うぐっ」
カラオケに行ったものの流風は今流行りの歌を知らず、民謡や演歌を歌っていた。元々、声が綺麗なだけあって聞く方としても十分楽しめた。俺はこの一週間のうちに空いた時間でいくつか代表的な歌を調べておいたので何とか乗り切ることができた。
「でも、ボウリングは初めてとは思えないほど上手だった。私にもコツを教えて欲しい」
蒼桜の言う通り、初めてやるボウリングではまさかの才能を見せつけ、ストライクを量産した。
「いいぞ、その代わりに流行りの歌を教えてくれ!」
「分かった、交換条件」
そんな会話をしている内に改札まで来てしまっていた。
「じゃあ、今日は帰ろうか。確か、流風は途中まで同じ電車だよね?」
「うむ、ということは蒼桜とはここでお別れか」
「ケータイがあるからいつでも集まれる」
「そうじゃな、また遊びに行くぞ!」
「うん」
今回とは違って流風がケータイを持ったことで予定さえあれば集まるのは簡単だろう。
「話しやすいようにグループ作っておくから入ってね」
「分かった」
「どうやって入るんじゃ?電車の中で入り方を教えてもらっても構わんか?」
「いいよ、後で教える。じゃあ、蒼桜またね」
「またの!」
「うん、ばいばい」
こうして俺たちは別れた。
しかし、この時俺は蒼桜を送っていればと後悔することになる。
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