師匠と弟子
(さて、やるか)
そう言いながら片手に握った木刀の感触を確かめる。
この魔法を用いて戦う世界において使わなそうな近接武器であるが、蓮の戦闘スタイル的にこれは必須だ。
(これから何が起こるか分からないし、力を磨いておいて損は無いよな)
まずは軽く素振りから始めてみるが、体が覚えているのか初めから振り方が分かる。心地良い風を斬る音が耳に入る一方で俺の気分はそこまで良いものではなかった。
(何と言うか、ここまで頑張ったのは蓮なのに美味しいところ取りしてるみたいで気が引けるな)
とは言え、この力を使わないという選択肢は無いためそこはグッと飲み込み鍛錬を続けていると、
「あ!音がすると思ったら朝から頑張ってたのね!」
母さんが家から顔を出してそんなことを言う。木刀を振っていい場所なんて分からないため、庭で鍛錬を行っていた俺に母さんは続ける。
「私もやろうかしら」
「え?」
俺は細く刀など持ったことの無いような腕を見て驚きの声を上げる。
「あ、もしかしてお母さんのこと舐めてる?」
「いや···そんなことないけど」
「確かに、筋肉が付きにくい体質だし付いたとしても分からないけど結構強いんだから!」
フスフスと鼻息を荒らげながら腕を捲るがそこに強者の気配は感じられず、俺は苦笑いする。
しかし―
「じゃあ、これ借りるわね」
念の為持ってきていた別の木刀を手に取った瞬間、空気が変わったことが感じられた。その木刀を手に取り、正眼に構える動作にすら隙が見当たらなかったのだ。
俺は金縛りにあったかのように体が動かず、ただ見ていることしか出来ない。
そんなこと露知らず集中した母さんは片方の足を一歩前に出し、息を深く吸ったかと思えば短く息を吐き出しながらその木刀を振り下ろした。
「···は?」
「うん、悪くない」
母さんは何ともないように振りの感触を確かめているがこちらは今起こった現象に目をぱちくりとさせていた。
瞬きをしたでも、よそ見をしてたわけでも無い。それなのに、気づけば木刀が振られていた。音もなくただ静かに剣先は地面を向いていた。
(···速すぎでしょ)
あまりにも次元が違いすぎる実力に唖然としていると、もう一度刀を点に掲げ振り下ろす。それは先程の再現であり、動画を巻き戻して見ているかのような気分になった。
(たまたまでもない、か)
それを見ていた俺は一つの考えが思い浮かぶ。
「母さんってさ···」
「ん?なあに?」
あんな素振りなどと到底呼ぶことの出来ないことをしておいて何も無かったような涼し気な顔で応える。
「弟子とか取ったことある?」
「学生時代にちょこっとなら見てあげた子たちがいるわよ」
「いたんだ」
望んでいた答えだったのだが少しだけ意外に思いつつ頷くと、
「蓮ちゃん、今意外って思ったでしょ?失礼な!これでもしっかりと面倒見てあげたんだから!今は学園で剣術指導を行ってる子もいるのよ!」
聞き逃せぬ一言に俺は反応する。
「その人の名前は!?」
「確か惣次だったかしら」
「···まじか」
今度は想像以上の事実が発覚した。
国内でも特に優れた者しか通うことが出来ない学園で剣術を教えていることからその強さは分かる。その中でも叢雲惣次は飛び抜けてやばい。ゲームではどの授業を取るかは選ぶことができ、それによって伸ばせる能力が変わる。また当然のように試験もあり、試験では筆記や実技を行う事が多いのだが、剣術では担当の教員と戦い自分が倒されるまでに体力の何割かを削れば勝ちというもので最後まで育て上げた主人公をもってして7割削るのが限界だった。
そんな強者を育てた人が目の前にいる。
決心するには十分すぎる材料だった。
「俺に、剣を教えてください。手加減もいりません」
親子とはいえ、頼み込んでるのは俺の方。いつもの口調でなく、丁寧な言葉を使う。
「へぇ、手加減なしでいいの?自分で言うのもなんだけど私、結構厳しいから蓮ちゃんは大変な思いをすると思うよ?」
途端、空気が変わる。いつも息子に甘々な母さんはいつもとは考えられない鋭さを持った目つきで尋ねる。
それに少し気圧される。だが、死が近くにある俺にとって力は不可欠だ。さらに言うなれば、この世界では誰が魔法を使えるか分からない。すれ違う人間が銃を隠し持っているようなものだ。自衛の力は必要だろう。それに―
(大切な人を守る力が欲しい。もう二度と失わないために···)
そこまで考えて不思議に思う。
(二度とって何だ?俺は一度誰かを失ったのか?)
自然と頭に浮かんだ言葉が妙に心に残った。何か俺の無くした記憶に繋がる気がして。だが、今はそんなことを考えている場合ではないと意識を戻す。母さんから刀を学びたいという気持ちは嘘では無いのだから。そうして俺はそれを言葉にする。
「俺を弟子にしてください」
深く頭を下げた。
どんな返事が返ってくるか緊張して待つ俺に、
「いいわよ!」
響いたのはいつも通りの明るい母の声だった。
「実は自分の子供に刀を教えるのが夢だったの。前まで蓮ちゃんは興味持たなかったから無理かなーって思ってたんだけどやっぱり私の子供ね!」
さっきの威厳はどこにいったんだと思うがこれこそが蓮の母親なのだ。少し肩の力は抜けたが決心は揺るがない。
「よろしくお願いします」
なんだか閉まらないなと思いつつもう一度頭を下げた。
読んでくださりありがとうございます!めちゃくちゃ戦闘シーンを書きたいのですが、もう少しかかりそうなのでお付き合いください。また、ここまで読んで面白そうだなと思った方は感想や評価をしてくださると嬉しいです。




