初の友人
桜の木を十分に満足すると、
「私はこの桜が好き。蓮は何か好きなものある?」
「好きなものか」
蒼桜が会話を広げようと俺に質問を投げかける。
(好きなもの···俺に好きなものってあったっけ?あの時は確か、ゲームをしてた訳だから多分ゲームが好きなはず)
あやふやな記憶のせいで自分の好きだったものまで思い出せない。だから、僅かな記憶を元に自分が好きであろうものを予想する。
「あー、ゲームかな。ジャンルで言うとギャルゲーだと思う」
「女の子がいっぱい出てくるやつ?」
「まぁ、そういうイメージでいいよ」
「蓮は女の子が好き?」
「···あながち間違ってないけど、頷きづらい」
「大丈夫、男の子が女の子に興味を持つのは当然だから。私は気にしない」
「俺今、気使われてる?」
こっちの方が大人なのに変に気遣われて少しいたたまれなくなる。こんなことなら言うんじゃなかったと思う一方で、他に言いようが無かったに加え、せっかく話を広げようとした蒼桜のためにも答えない訳にはいかなかったのでこれでいいのだと自分を納得させる。
そんな会話を皮切りに色々な話を続けていると、いつの間にか話題は学園のことになった。
「そういえば、蒼桜は中等部から学園に通ってるんだよね?俺もこの春から高等部に編入するわけだけど、できたら仲良くしてほしいな」
自分の命のために軽く言いつつも心の底からのお願いを伝えると、蒼桜の表情は少し悪くなった。
「···うん」
「どうかした?」
さすがに何も聞かずにはいられず、問いかけるが彼女は首を振る。
「何も無い···」
(絶対何かあるだろ。でも、ゲームでは学校関係の悩みは特なかったはずだけどな)
思い当たる節のない俺は軽く頭を抱える。そんな俺に蒼桜は重たい口を開く。
「···蓮は学園でも仲良くしてくれる?」
理由は分からないが迷子の子供が親を探すような瞳でそんなことを言われたら頷く他ないだろう。というより―
「それをお願いするのは俺の方じゃない?蒼桜は中等部からいる訳だし」
「そうだけど···」
「分かった分かった、学園でも仲良くするよ。だから、そんな悲しい顔しないでくれ」
「うん」
無表情ながらも眉をひそめる蒼桜にそう言うと素直に頷いた。そうしてると、何故か懐かしい気持ちになり、蒼桜の頭に手を乗せる。
蒼桜は驚いたのか一瞬ビクッと肩を揺らすが特に嫌がることなくこちらが撫でやすいように顔を下げた。
そうしてると俺の胸には懐かしい気持ちだけでなく、どこか悲しい思いまでが広がる。
(何か俺の忘れてしまった記憶に関係あるのか?)
もしかしたらこのまま撫で続けてたら何か思い出すのではないかと思った瞬間、視線を感じて後ろを振り向く。
「···やめるの?」
残念そうな声が聞こえてくるが、俺の目には隠れきれていない三人の姿が写っていた。さすがにあの三人の前で続ける勇気は俺には無い。
「···また今度で」
「分かった」
そして、俺は未だにバレてないと思ってる大人三人に声をかける。
「で、そこで何してるんですか?」
それぞれの見えていた部分がビクリと跳ねる。さすがに観念したのか大人三人がお前がいけよと押し合いをした後に、秋水さんから申し訳なさそうな顔で出てきた。
「いやぁ、悪いと思ったんだけどね。二人が上手くやれてるか不安で見に来たんだよ」
次に出てきたのが水麗さん。いつも通り、にこにこ顔である。
「私は止めたんですけどねぇ」
最後に出てきたのが母さん。悪さをした子供のような表情だ。
「えーと、その···」
俺はにこにこ笑っているはずだが、圧を感じてか母さんは右に左にと視線を動かした後、
「···秋水さんが勝手に連れてきました」
秋水さんに全てを丸投げした。
「ちょっ!二人揃って僕のせいにするのかい!?二人だって乗り気だったじゃないか!」
「あら?そうでしたか?」
「何なら言い出しっぺは水麗じゃないか!」
「最近、物忘れが酷くて」
「······」
まさか売られるとは思わず慌てる秋水さんと完全にとぼける水麗さん、顔を合わせず横を見たまま汗を流す母さん。それらを見て、ため息をつく。
「初めも言いましたけど、自分の子供が心配なのはわかってるので別に怒ってませんよ」
その言葉を聞き、秋水さんは安堵の表情を浮かべる。
「それよりも―」
俺は先程から挙動不審な母さんと余裕綽々の水麗さんへと笑顔を向ける。
「まさか、いい大人が他の人に責任を擦り付けるわけないですよね?」
ちょっとした仕返しのつもりだったのだがさすがというべきか水麗さんは涼しい顔で、
「ふふふ、ちょっとした冗談ですよ。誘ったのは私ですから杏さんをあまり責めないであげてください」
「水麗さん···」
救世主でも見るかのような目で水麗さんを見る母さんだが、
「あ、母さんも共犯だから別に罪は軽くならないよ」
「がーん!」
神水流家にはそんな母さんの声が響いた。
このように大人陣も交えて話をしていると、
クイクイ
誰かに袖を引っ張られているようで、それをした本人がいる方へ振り向く。
「どうかした?」
「もう帰るの?」
「あー、そうだね」
西からさす太陽で赤く染まり出した空と大人たちの締めに入るような口振りから察したのだろう。
「何だかんだ長くいたみたいだし、そろそろ帰ると思う」
「そっか」
少ししょげた様子を見て、ファーストコンタクトは悪くなかったみたいだと安堵する。
「まだ入学までは日にちはあるからいつでも会えるんじゃない?」
「いいの?」
「もちろん蒼桜が嫌じゃなかったらだけど」
「嫌じゃない。また遊ぼ」
「なら良かった、楽しみにしてるよ」
そう言い、俺は少し笑うと僅かながら蒼桜の口角も上がったように見えた。
「僕達も歓迎するからいつでもおいでよ」
「えぇ、自分の家みたいに思ってもらっても大丈夫ですからね」
こちらの話が落ち着くと当主夫妻はそんなことを言ってくれた。秋水さんの言葉は有難くちょうだいしたが、水麗さんの言葉は少し含みがありそうで曖昧に頷く。
(悪い人ではないんだけど、心の内が読まれてそうで少し怖いな)
俺は母さんの隣へと並び、三人に改めて頭を下げる。
「今日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」
「三人とも仲良くしてね!後、今度は家に来てくれてもいいから!」
別にお互いの家は遠いという訳ではなく、会おうとすればいつでも会えるので挨拶はそこそこに神水流家に見送られながら帰路に着いた。
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