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五色玲瓏のフィリグラン  作者: るーく
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初・ヒロインとの出会い

母が運転する車に乗り、神水流(かみづる)家へと向かっている。乙黒家の家格の方が上だが、本家の方は忙しくそこでのお見合いをする訳にはいかず、かと言って母親と蓮のそれほど大きくない家でするわけにもいかない。という訳で神水流家でお見合いをすることになったのだ。


「ふふ、蒼桜(あお)ちゃんはいい子だから蓮ちゃんもきっと気に入ると思うの」

「へぇ、会ったことあるんだ」

「当日スムーズに話が進むように先に親同士で話そうってことになったんだけどその時にちょっとね」

「俺は行かなくて良かったの、それ?」

「元々は親だけの話だったからいいのいいの」


何でもないように母はそう言う。


「でもどうするかは蓮ちゃんが決めてね。私はそれを尊重するから」

「分かった」

「学校も始まるし、友達もいっぱい出来るといいね」

「どうなるか分からないけど、頑張ってはみるよ」


そのコロコロと変わる表情につられてこちらも口角が上がる。そんな和やかな雰囲気で車は走る。


そうこうしてるうちにどうやら神水流家に着いたらしい。古き良き日本の家だが、広々とした庭に植えられた松の木や桜の木、旅館のように大きい本邸からそれが名家であることを表してるようだった。


俺達が門をくぐるとそこで働いているであろう人達が出迎え、そのまま家の中へと案内される。こんな扱いは受けたことがないので少し緊張したがあたかも当然のように振舞った。


掃除が行き届いているのか美しいと感じる廊下を渡っていると案内をしていた人が突然こちらに振り返る。


「こちらでございます」

「ありがとうね」

「ありがとうございます」


案内してくれた相手にそう頭を下げ、示された部屋へと入る。


当主夫妻は穏やかな気性なようで俺達が部屋に入るとニコニコしながら、


「どうぞ座ってください」


そう言い座ることを促す。母は頭を下げ座布団に座り、俺も頭を下げ座布団へと座り込んだ。


―氷の彫刻のようだった。


顔を上げた先に神水流蒼桜が座っていたのだ。


異世界だからか日本人ではありえない白銀の髪を腰ほどまで伸ばし、透き通るような青い瞳は半分しか開いていないがその陶器のような白い肌や醸し出す高貴な雰囲気からどこか神秘さを感じる。ゲームで何度も見たとはいえ、実際に目にすると少し近寄りがたい。しかし、目が離せない美しさでもある。


俺が固まっていると蓮の母親は、


「蓮ちゃん、蒼桜ちゃんのことばっかり見てないで挨拶しないと」

「いや別にそう言う訳じゃ···」


図星だったがさすがにそれは恥ずかしいと誤魔化す。


そして、改めて神水流家全員に向き直り、


「乙黒蓮です。よろしくお願いします」


簡潔に自己紹介を行った。当主夫妻はニコニコしながらもどこかこちらを試すような目で見つめ、少しの緊張感がこの部屋を支配する。そして、それを破ったのはもちろんうちの母親だ。


「よーし!私は前に話したから知ってるよね!じゃあ、秋水(しゅうすい)さんと水麗(すみれ)さん、それと蒼桜ちゃんの自己紹介お願いしてもいいかしら?」


当主は僕から蓮の母親へと視線をずらして、ため息をついた。


「ふぅ、あの時で十分分かってたつもりだけど(あん)さんは本当に自由だね」

「ふふふ、でもそこが魅力的ではありませんか」

「確かに長所でもあるか」


大人三人が楽しそうに笑い、緊張感のあった空気はうってかわって穏やかなものになった。


(前に会った時、どんなことをしたのか少し気になるな。それと気にしてなかったけど母さんの名前は杏ていうんだ)


今更ながらに母親の名前を知った。そんな俺に当主夫妻は視線を向けていた。


「蓮君だったね、僕は神水流家現当主の秋水、隣が水麗、そして君の目の前に座ってるのが蒼桜、君のお見合い相手だね。さっきは少し試すような視線を向けていたのは悪かったよ。私たちとしても愛娘の婚約者となるかもしれない相手だから、どんな人物か見極めたかったんだ」

「気にしないでください。それくらい理解はあるつもりです」


僕はその言葉に秋水さんがわずかに目を見開いたのを見逃さなかった。やっぱり、事前に僕のことを調べていたのかもしれない。そして、それがあまり宜しくなかったであろうことは伺い知れる。だとしたら当然だろうと頷いていると、


「···どうやら噂は当てにならないようだね」

「噂通りの人だったらどうしようって昨夜もソワソワしてましたものね」

「それは言わないでくれよ」


少し照れたように笑う神水流家当主に、うちの母親が身を乗り出しながら尋ねる。


「どう?蓮ちゃんはいい子でしょ?」

「ああ、少なくとも噂通りでは無いようだね。安心したよ」

「あなたが納得したようなら、あまり私たちがここにいすぎてもお見合いは進みませんし後は若者だけで、ということにしますか?」

「賛成!私もせっかくだから二人と話したいしね」

「そうだね、じゃあ後は二人でゆっくりしてもらおうかな。蓮君、今回はお見合いというのがメインだから話はこれくらいにしておくよ。また、別の機会があればゆっくり話そう」

「はい、また機会があれば」

「まあ、これからいくらでも増えるだろうし。楽しみにしているよ」


秋水は最後にニッコリと微笑むと、二人の後について部屋から出ていった。


当然と言えば当然なのだが、今この部屋には神水流蒼桜と俺の二人しかいないためまた緊張してきた。それに、彼女自体無口な方であまり自分から喋らない。ここに来てから一言も話してないし、俺から話を振るべきだろうか。婚約者同士にならないとはいえ学校も同じなわけだし少しは話した方がいいか。返答次第で会話のきっかけを作れば、話は続くはずだ。その想いのもと話しかける。


「では、改めて乙黒蓮と言います」

「はい、神水流蒼桜です」


鈴の音のように透き通る声が耳に入る。ヒロインだけあって声もいいなと考えていると、


「そちらの方が家格が上ですので、敬語じゃなくて、いいです」


蒼桜はそんなことを言い出した。


「そっか、じゃあお言葉に甘えて。でも、お互い同い年なわけだしこれから同じ学校に通うんだからお互いタメ口にしよう」

「分かった、私もそっちの方が楽」


思った以上に順応が早くて笑ってしまう。


「お見合いという名目なわけだけど、勝手にうちの祖父が決めたことだから何も気にしなくていいよ。学校が始まる前に顔見知りを作るってくらいの感覚でいこうか」

「···何だか、思ってたのと違う」


俺の提案に対して蒼桜は意外そうに少し目を開いた。いや、元から意外そうな顔をしていた気がする。


「まぁ、色々あって···」

「色々?」

「あー、それはちょっと言えないかな」

「まだ、会ったばかりだから?」

「いや、多分今後誰にも言うつもりは無いかな」

「そっか」


無表情ながらも興味があるというのは伝わってくるがさすがに言うつもりは無い。ここで話を途切れさせると気まずい。俺は話題を変える。


「そう言えば、以前母さんと会ったらしいけど詳しく聞いていい?」

「ん、とても元気だった」

「···いつも通りってことか」

「賑やかだったよ」


出会ったのが昨日とは言え、何となく想像がついてしまう。神水流夫妻は落ち着いた感じだし、かなり一方的に話す様子が脳裏に浮かぶ。


「蓮のこといっぱい話してた。良いお母さんだね」


ふと、そんなことを蒼桜は言う。息子に甘すぎる気もしないでもないが、


「俺もそう思うよ。少し感情表現が激しすぎるけど」

「確かに」


少しだけ蒼桜の口角が上がった気がした。


それを皮切りに無難な会話を続けていると、


「ちょっと待って」


蒼桜が突然席をたち、部屋から出ていく。何か気に触ることでもしたかと悩むがすぐに蒼桜は帰ってきた。


「これ」


そう言い、差し出したのは肩にかけることが出来る半纏のようなものだった。


「これは···?」

「少し肌寒そうにしてたから」


春だからと少し涼やかな格好で来たのが悪かったのか確かに先程から肌寒かった。口には出ていないが蒼桜はそれを汲み取り、取ってきてくれたらしい。


「ありがとう、助かるよ」

「···どういたしまして」


感謝を伝える。


「そう言えば、家に入る時ここの庭が目に入ったんだけどとても綺麗に整えられてるよな」


入ってきた時のことを思い出してそう言う。


「うん。いつも庭師さんが頑張ってる」

「ちょっと見せてもらってもいいかな?」

「いいよ」


蒼桜は少し嬉しげ俺を先導するように縁側へと進んだ。


「あ、靴」


玄関に置きっぱなしである以上外には出られないことに気づいたが、


「パ···お父様の。使っていい」

「勝手に使ってもいいの?」

「大丈夫」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


借りた下駄を履いて外に出るとそこには先程以上に美しい庭が広がっていた。色鮮やかながらも下品さがない、まるで絵画のような庭であった。


「どう?」


そう言いながら小首を傾げて振り向く彼女は庭園の中でも色褪せることが無かった。


「···きれいだな」

「喜んでくれて良かった」


きっと彼女はこの庭園を心から誇りに思っていて、それを他人に褒められたことが嬉しいのだと何となく伝わった。


改めて見渡すと、見た事のある花から見た事の無い花までが適切な距離感で植えられており、お互いの輝きを損なうことは無いようだ。


(あんまり花とか意識してこなかったけど、こうしてみるといいものだな。俺もガーデニングとか始めようか)


恐らく芸術センスの無いだろう俺に同じことは無理だが、ちょっとした花を育てることくらいは大丈夫だろうと腕を組んで思案していると、


「こっち」


そんな声とともに左側の裾が引っ張られる。


「あ、あぁ」


突然の行動に戸惑いながらも大人しく連れられていく。縁側を沿って歩き、少しすると家の角に来たようで蒼桜に習って左に曲がると僅かに強い風が頬を撫でた。


つい閉じてしまった目を開くが、何やら頬に違和感がある手を伸ばして原因のものを手に取ってみる。


「···桜の花びら?」


そういえば、庭にいくらか桜の木があったな思いつつ顔を上げると、先程とは違い落ち着いた雰囲気の庭に悠然と大きな桜の木が立っていた。どこか優しさを感じる柔らかい桃色を携えた大木は、風に吹かれつつもその確かな土台からか揺らぐことなくそこにあった。


「お父様とお母様が私の生まれた日に植えたって言ってた」

「···これまた随分とでかくなったなぁ」

「うん、二人も予想してなかったらしい。でも、大は小を兼ねるって言うからこれでよし」

「桜にもそれが適用されるか分からないけど、これ見てるとそれでいい気がしてきた」


蒼桜の謎理論にも頷いてしまうほど、その桜の存在感は圧倒的だった。俺たちはそうしてしばらく風の音に耳をすませながら穏やかな時間を過ごした。

読んでくださりありがとうございます。

やっと1人ヒロインを出すことが出来て私も嬉しいです。2人目まではすぐに出てくると思うのでお付き合いください。

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