逸話
俺は生唾を飲み込む。喉に異様に乾き、何か話そうとするが声が出ない。
(···結局、俺はどうなろうと追放される運命からは逃れられないのか?)
原作通り、犯罪者として学園からも家からも追放されて死ぬ。その描写が脳裏を過ぎる。
(駄目だ。まだ何も始まっていないのにここで終わりたくは無い···!)
しかし、俺自身の行動を説明することは出来ない。何も思いつかないが、とりあえず考える時間を稼ごうと口を開こうとした瞬間、
「―と、これが一般的な考えだね」
「え?」
真っ直ぐとこちらを捉えていた目はいつもの少し垂れたものへと変わり、口角も少し上がった普段の秋水へと戻った。
「ふぅ、やっぱりこう言う真面目なのは少し苦手なんだよね」
「···あの、俺を疑わないんですか?」
俺はこうなることを恐れていたのに、それを嘲笑うかのように問い詰められることなく終わった。
「あぁ、君のことを知らなければそう考えても不思議じゃなかっただろうね」
「そうですよね?というか、俺はあんまり秋水さんと会話した記憶が···」
あのお見合いで話したっきりのような気がしたが、
「あの子から聞いたんだよ」
「蒼桜ですか?」
「そうだよ。だって、君たち昨日遊ぶまでに何度も通話してるでしょ?」
「しましたね」
確かに、俺たちはお見合いの後も連絡を取りあっていた訳だ。しかし、
「それだけで信じられるとは···」
自分にとっては有利な状況なのについそんなことを尋ねてしまう。
「僕たちにとってはそれだけでいいんだよ。あの子が気遣いでもなんでもなく心から笑ってる。それが何よりの証拠だからね」
「そう、ですか」
こうして話してみてわかったが彼にとって家族は余程大事なものなんだろう。
「もちろん、他にも理由はあるよ」
彼女を笑顔にできた、それが根拠の一つであるがどうやら他にもあるらしい。
「まず、最後に言ったんだけど君が誘拐と協力者というのは今じゃあ完全に消えた選択肢かな」
「どうしてですか?」
自分の中で可能性がいちばん高かったそれが消えた理由が知りたかった。
「わざわざ攫ったあの子を助けたというのがおかしいんだよ」
そう言いながら秋水は近くにあった椅子に腰かける。
「あの子を救ったとしても得られるものが君にとって大事なものとは思えない。もし、あの子を助けなければ身代金やらなんやらと大金が手に入るかもしれなかった。しかし、君はあの子を助けたわけだ。じゃあ、次に助けた時に手に入るものを考えてみようか」
俺は黙って話を聞く。
「一つに蒼桜だね。危険な目に会いながら助けてくれた相手だ。婚約を持ちかけられたらこちらとしても無下にはできない。とはいえ、それは一般人の話で君のような家格では上のものから婚約を持ちかけられたらよっぽどのことが無ければ断れないからこれは理由にならない」
これは少し異なるがあの作家を名乗った男がやろうとしてたことに近い気がした。
「二つに我が家からの信頼。さっきの話に繋がるけど、何の見返りもなしにあの子を助けた君は僕たちから一定の信頼を得るだろう。だけど、君が我が家から信頼を得たところでそこまで大きなメリットは無いだろうね。それこそ、これも家が理由になる。一般人には良い出世の機会だけど君には関係ないしね」
確かに、上水流家くらいの家格の家は割といる訳だし、乙黒家である俺がボロボロになりながらも得る価値のあるものでは無いだろう。
「最後に名誉だね。攫われた少女を助けるためにヒーローが現れる。それに二人は友達関係であり、異性。ドラマ性もあってマスコミが食いつきそうなネタだ。そうして、君は家のこともあって初めは恐れられるかもしれないけどその人柄はすぐに周りに広まるだろうから、それは賞賛に変わるはずだよ」
考えられない話では無い。確かに物語のように上手く行き過ぎた気もしなくは無いから。
「これは君の心が読めない限り否定できないものだけど、僕が感じたところによると君はそんなものを得るために人を犠牲にするような人間じゃあ無いはずだよ」
「そんなことが分かるんですか?」
「完全に勘だね。もし、君がそんな人でありながらこうして善人を装ってるんだとしたら大したものだよ。そうだとしたら、僕自身の目が曇っていたと潔く負けを認めるよ」
「なんというか、あっさりしてますね」
「まあね、負けは負けだよ。だけど、死ぬわけじゃない」
その言葉と共に少し空気が冷える。背中に氷でも入れられたように体に悪寒が走った。
「その時には僕が責任を取って君を捕まえようかな」
ゲームでは特に説明されることのなかった彼だが、その言葉の真剣さと重み、そしてその空気感から決して弱者などではないことが伺いしれた。
「肝に銘じておきます」
「そうしてくれ。とまあ、こうして語ったもののそもそも僕に問い詰められた時に答えられなかった時点で完全にその線は消えたんだよ。逃走経路をこちらに悟らせない程の作戦を立てといて監禁場所を見つけた理由が答えられなかった時点でね。計画を立てたのが誰であれ、そんな人物があからさまな粗を残すはずがないからね。君が裏切ったなんてことは考えられなくはないけど、それだったら今頃捕まってるやつが喋ってるだろうしね」
「···もしかして、ゼラスとかいう大男ですか?」
「そうそう、確か君が倒したんだっけ?」
「いえ、俺と蒼桜の二人で倒しました」
「なるほどね、彼は今傷を癒しながら警察から事情聴取を受けてるよ。もちろん作家とかいうふざけたやつは捜索されてる最中だよ」
「何か手がかりはありましたか?」
「学園の生徒だということは分かってるから今は見た目や話し方から身元を探ってる最中かな。君からも警察の方に色々話してくれると嬉しいよ。あ、後君が埠頭の倉庫に行ったのは僕からの指示ということにしておいたから」
「警察の方は分かりましたけど、どうしてそんなことに···」
「じゃあ、君は警察にどうしてそこに行ったのか聞かれた時に説明できるかい?」
俺は考えるまでもなく即答する。
「できません···」
「だろうね、だから僕の話に合わせてほしい」
「分かりました。―ですが、何も理由を話さない俺をそこまで信じてくれるんですか?」
ここまで話を聞いてきた中でそこだけは理解できなかった。俺が誘拐の協力者では無いと思う理由は分かったが、肝心のそこを聞いていない。
「そうだね、君は初代天皇の逸話を知っているかい?」
彼は淡々と話し始めた。
読んでくださりありがとうございます。
感想や評価をくださると嬉しいです。
リアルの方が忙しく、出来るだけ毎日投稿したいのですが厳しい時もあると思います。ご迷惑をお掛けしますがお付き合いください。
もしかしたら明日投稿できないかもしれません。




