家族計画
(初代天皇···)
その言葉を頭の中で咀嚼しながら、彼の残した偉業を思い浮かべる。
彼が生きていた頃のこの世界は決して平和とはいえず、種族間や国家間での戦争はありふれたものだった。しかし、彼が表舞台に出てから世界は大きく変わった。彼は戦争に怯える弱者をまとめあげ、その旗印となった。彼が扱う魔法は強力なものであったが、それで敵を殺すようなことは無く、あくまで話し合いを求めた。彼のその行いからゆっくりとだが平和の輪は広がり、バラバラだった世界をまとめあげ一つの国家とした。
彼はそんな偉業を成し遂げたのだ。辞退するつもりだった彼は、周りの種族からの推薦もありこの国を治める立場についたのだった。
俺は初めてそれを聞いた時、ありえないと思ったがゲームの中の世界なので特に気にすることなくスルーした。そこまで本編に関係なかったこともあったからだ。
その彼の名前を出し、何をするのかと思えば、
「数々の逸話を持つ初代天皇なんだけど、残された資料にはこう書かれてたんだ。···突飛な行動を取り、周りを驚かせることが多々あったが結果的にそれらは全ていい方向へと働いたってね。君に似てると思わないかい?」
「俺にですか?」
「誰も理解できない行動を取ってあの子を救った。それに、君の血筋を考えればさらに説得力は増すと思うんだ」
「乙黒家は初代天皇の兄弟の血筋、ですね」
「そうだよ。僕はね思うんだ。初代天皇と君は同じ力を持ってるんじゃないかって。魔法とも化学とも異なるね」
「っ····!」
(秋水さんは俺が異物であると気づいてる?それに、初代天皇が同じ力を持ってるってことは···ありえるのか?彼も俺と同じ別の世界から来た人間?)
俺は咄嗟に反応出来ないまま秋水の会話から得た情報をまとめる。
「図星と受け取ってもいいかな?」
「あ、いえ!そんなことないですよ!予想外の言葉に驚いて声が出なかっただけですよ。俺がかの初代天皇と同じ力を持ってるわけないじゃないですか?」
完全に先手先手を取られている。こちらに落ち着く間を与えない話し方にどこか慣れを感じる。
(優先順位を考えろ!俺が別の世界から来たことはバレたくない。もしかしたら、それが蓮の母に伝わる可能性があるからだ。それを防げばいい訳だから、テキトーに未来が分かるとか言って誤魔化すか?いや、面倒事に巻き込まれる可能性を考えればやめた方がいい。運が良かったことにするしかないか?)
どうやって蒼桜の居場所をつきとめたのかそれを説明できない限りは彼の追求を逃れられない。しかし、俺にはそれの答えは見つからなかった。俺のそんな心の動きを感じたのか秋水は、
「ふふ、安心していいよ。今までの話はただの僕の想像。本当はどうなのかを問い詰める気は無いよ」
これ以上、俺の秘密に首を突っ込まないと宣言する。俺はそれに困惑しながら返す。
「···どうしてですか?」
「君がどんな存在か分からない以上、下手に首を突っ込むのは得策では無いからね。ここまで話したのは僕の誠意を見せるためと口裏合わせのためだよ。今後も動くことがあれば僕の名前を使って誤魔化して貰ってもいい」
「···俺にそこまでしてもらうほどの力はないですよ」
「もちろん、蒼桜と共にとはいえ、裏社会で名の知れた傭兵を倒したわけだしね。君の純粋な戦闘力を見ても良い関係を築いて損は無いんだよ」
「なるほど···」
理解できなくはない理由を聞かされこちらは頷くしかない。
(適当な理由が思いつかない以上、秋水さんの厚意を受け取るしかないか)
そんな俺に秋水は右手を差し出す。
「御託を並べたけど結局、あの子を助けてくれた時点で僕は君の敵になる気なんてサラサラないよ。これからも君とは仲良くやっていきたいものだよ」
「そこまで言って貰えて嬉しいです。俺があの倉庫に行ったのはたまたまとしか言えませんが、こちらこそ良い関係を築けたらなと思います」
そういいながら握手を交わした瞬間、
「蓮!」
扉が開くや否や蒼桜が俺の名前を呼びながら飛び込んで来た。しかし、俺が普通に秋水と握手している様子を見て安心したようだ。
「蒼桜?」
「さっき起きたって聞いた。大丈夫?痛いところはない?」
「起きた時はあちこち痛かったけど鎮痛剤が聞いてきて今はそこまでかな」
「そう···。何かして欲しいことない?林檎切ろうか?」
「せっかくだしお願いしていい?」
「任せて。多分、大丈夫」
「無理しなくても···」
「やる」
彼女は決心した表情でナイフを手に持ち林檎を剥き始める。そこへ、
「病院では静かにですよ?」
落ち着いた様子で蒼桜の母である水麗が入ってくる。
「はは、一直線に蓮くんの元に向かっていったからね。それだけ心配してたんだろうね」
「それは分かりますけど、注意すべきところは注意しなくてはいけませんよ」
「それもそうだね。と、さすがに三人も病室にいたら蓮くんも気が休まらないだろう。僕たちは外に出るとしようか、水麗」
「そうですね。ここは病院ですから誘拐の心配も薄いでしょうし、少し外を歩きましょうか。ですが、その前に」
水麗は綺麗な姿勢でこちらへと歩み寄ると、
「この度はこの子を助けてくださりありがとうございます」
これまた綺麗な姿勢で頭を下げた。
「秋水さんにも言いましたが気にしないでください。俺がしたくてしたことですから」
「また改めてお礼をしたいので怪我が治れば我が家に来てください」
「治療費まで払って貰ってるんですから十分ですよ!」
「それだけ私たちからの感謝は厚いということです。ぜひまた杏さんと一緒に来てください」
「えーと、また時間があれば···」
「それで構いません。では、私たちはこれで失礼します」
「じゃあね、蓮くん」
「はい、また」
俺は軽く会釈して二人を見送った。
(秋水さんとこれからどう付き合っていくのか考えないとな)
これからのことについて頭を悩ませていると、
「出来た」
会話の途中もずっと林檎を剥いていた蒼桜が自信ありげに声を上げる。俺は完成した林檎を見て固まった。
「えーと、それは···?」
「ん?林檎」
「それはそうなんだけどさ。何でそんなことになってるの?」
途中まで上手くいっていたようだが、林檎の芯を取り除く過程でバッサリ身の部分も持ってかれていた。だから、残ったのは皮付近の身のみ。
「ちょっとだけミス」
「ちょっとなの?というか、中身はどこにいったの?」
「もったいないから食べた」
「何と言うか···食べ物に無駄にしないのは偉いね」
俺は薄くなった林檎を口に運んだ。
秋水side
(さて、彼の様子から何かがあるのは確か。だけど、それが確実に何か分からない以上下手に動くことは出来ない。彼の性格的にも今は恩を売っておいた方が得策か)
妻である水麗と共に病院の廊下を歩きながら考えをまとめる。すると、ロビーにあるテレビがニュースを流しているのが目に入った。
『―時に銀行に強盗犯が押し入り···』
(またか···)
最近よく聞くようになった犯罪に関わるニュースだった。
(初代天皇の威光は少しずつ薄れ、あちこちで不穏な動きが見られる中、現れた彼と似た力を持つ青年。時代が変わる時が来たのかもね)
通りかかる医師や看護師に会釈しながら考え事をしていることを周りにバレないように振る舞う。
(そんな彼と良い関係を築くことが出来れば···。いっその事、彼がうちに婿入りしてくれれば話は早いのにな。彼の母である杏さんの話を聞く限り家族を大事にしているように思える。というより、懐に入れた相手をかな?蒼桜も彼のことを悪く思ってないようだしね。そこはこちらからは口出しせず、蒼桜に任せることにしよう)
そんなことを考えていると、
「また悪巧みですか?」
隣から声がかけられる。ある程度予想していたが、やはり妻には考え事をしていたことがバレていたようだ。
「良く分かるね」
「長年一緒にいますから」
「それもそうだ」
「それで、何を考えていたんですか?」
彼女は気になるようで僕にそう尋ねてくる。だから、僕はいつも通りの笑顔で、
「ただの家族計画だよ」
そう返した。
読んでくださりありがとうございます!
投稿するのが遅くなってすみません。別にやめるとかでは無いのでまたお付き合い頂けると嬉しいです。




