疑念
お久しぶりです。この一週間でどう話を進めるか固めたかったのですが、きちんと決まった訳ではないので行き当たりばったりで頑張ります。
もちろん大筋は決まってるので安心してください。
どうやら俺が意識を失ってから一日経ったらしい。左手はギプスで固められ、体はあちこち包帯やら絆創膏やらが見える。詳しい状態は分からないがとりあえず俺は母さんからの世話を受けていた。
「はい、あーん!」
(利き手は無事なのに···)
俺は病院のベッドの上で母さんからあーんされていた。利き手がボロボロなら仕方なく受け入れるが、そうじゃない方の手の怪我だと説明したのにやめてくれない。
しかし、俺としても心配をかけた自覚はあるので出そうになる言葉をグッと堪え、大人しく口を開く。
「どう?美味しい?」
「うん···」
今の状況を正しく認識すれば恥ずかしくて死にたくなるので出来るだけ無心でいる。咀嚼してるうちに次弾の準備が出来たようでまた口元に料理が近づく。
促されるまま口を開こうとした時、
「···ほんとに無事で良かった」
母さんは俺が目覚めてから初めて安堵した表情を浮かべた。
「ごめんなさい、あの人みたいに私の前からいなくなるのかと思ったの」
あの人、という部分に引っかかるが俺は素直に謝る。
「いや、俺こそごめん。自分のことしか考えてなかった」
「謝ることなんてないのよ。お母さんとしても誘拐された蒼桜ちゃんを助けたのは誇らしいんだから」
それはきっと嘘では無いのだろう。優しく笑う彼女を見て今までのあーんは彼女にとっての確認作業のようなものだったのだろう。
俺がここにいるという。
(そうだった。この体は俺のものじゃないんだから、もっと気を遣わないといかなかったな)
俺は改めて確認する。後から返すことになるだろうこの体は大事にしなくてはと。
こんなことにならないようもっと強くなる必要がある。これから先何が起こるか分からないのだ。そして、自分のせいで起こったことの責任を果たすためにも。
―俺一人で解決出来るほどの力が欲しい。
あの時、魔法使いとしての力量も剣士としての力量も何もかもが足りなかった。あんなのは、こちらの手札を見せなかったから勝てただけだ。今はそれでいいかもしれないが、こちらの手を知られた状態で戦う時が来るかもしれない。その時のためにもっと鍛える必要がある。
適度に口を開き、食事をしつつ今後こなすメニューについて考えていると、
「失礼するよ」
落ち着きのある声とともに蒼桜の父親である秋水が扉の先から顔を出す。
「蒼桜じゃなくてガッカリしたかい?」
そんな軽口を叩きながら、こちらにゆっくり歩み寄ってくる。
「あら、秋水さんこんにちわ。今日は一人?」
「僕は近くで用事があってね。それに、水麗はあの子の傍についてるよ」
「それは大事ね」
「あぁ、もちろんあの二人もすぐに来るはずだよ。···と、軽く話したところで」
朗らかな表情とは打って変わって秋水はその顔を真剣なものに変える。どうしたのかの聞く前に彼は頭を下げた。
「蓮くん、蒼桜を救ってくれてありがとう」
「え、ちょっ!頭をあげてください!」
突然の行動に驚きながらも頭をあげるよう本人に伝える。
「心からの感謝を君に」
「分かりましたから、頭をあげてください!秋水さんのような大人に頭を下げられるとどうしたらいいのか分からないので!」
「恩人がそう言うんだ。頭を下げるのはこれくらいにしておこう···」
「恩人って···」
彼はやっと頭をあげながらそんなことを言う。
「まさしく恩人だよ。うちの子を救ってくれたんだから、感謝してもしきれない」
「実はね、秋水さんが医療費も出してくれたの」
「え!本当ですか?」
「あぁ、少しでもいい環境でその傷をいやてもらいたくてね」
「ありがとうございます」
確かに、個室の割といい部屋が与えられていると思ったらそのお金は秋水さんが出してくれたものらしい。
「いや、これくらいは当然だよ。その怪我はあの子を助ける過程で受けたものだろう?なら、どんな形であれそのケアをするのは僕たちの仕事だ」
「······」
責任に対して目を背けず、当たり前のようにそれを果たす。簡単なようで難しいそれをこなす彼の姿勢は学ぶべきだと思った。
「改めて、お礼を言わせて欲しい。あの子のことを救ってくれてありがとう。君がいなければ僕たちは見当違いの場所を捜索してたよ。本当に不甲斐ないばかりだ」
「それは仕方ないですよ。手がかりだって無かったんですから」
彼の悔しそうな表情を見て咄嗟に庇った一言。それに彼は少し表情を変えた。
「もう少し雑談をしていてもいいんだけどね。実は、今日こうして先に来たのはもう一つ話があったからなんだ。それは―」
コンコンコン
誰かと思えば、ノックと共に白いナース服を着た看護師が入ってくる。
「何かしら?」
母さんがそんな疑問の声を上げると、
「はい、医師の方から乙黒蓮様の容態についてのお話がありまして。少し来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「何か良くないことでもあったの?」
医師からの呼び出しに不安げに母さんはそう尋ねる。
「いえ、主に退院やリハビリについてです」
あからさまに安堵のため息をつく。
「なら良かった。それって蓮ちゃんも行った方がいい?」
「お母様だけでも大丈夫です」
「分かったわ。じゃあ、私は行ってくるから蓮ちゃんは安静にね。秋水さんもゆっくりしていってね」
「うん」
「傷に触らないようもう少しだけ居させてもらうよ」
看護師と出ていく母さんを見送り、勝手に閉まっていくスライド式の扉が完全に閉まった後、俺は話を続きを促した。
「えっと、確かもう一つ話があるとのことでしたが?」
「話を戻そうか。君に感謝を伝えに来たのがもちろん一番大事なようだったんだけど、一つ君には聞かないといけないことがある。···杏さんがいたら少し話しづらかったからいいタイミングで看護師が来てくれた」
「······」
最後の方は小声で呟いていたため上手く聞こえなかったが、俺は前半部分の言葉から一つの答えに行き着く。
(頭に栄養が十分に行き渡ってないからか寝起きだからかは知らないけど完全に忘れてた···)
俺は頭を抱えそうになる。
そんな俺を待つこことなく、またしても表情を真面目なものとした秋水がゆっくりと口を開いた。
「···君はどうやって蒼桜の居場所を突き止めたんだい?それこそ君がさっき言ったように手がかりも無かったのに」
(やっぱりか)
真剣な表情でこちらを見つめながら彼は俺の答えを待っているように見える。
ここまでずっと必死だったからそれを聞かれた時の言い訳を考えてなかった俺は質問に対する答えを必死で考える。
(どうする?何か無いか?)
俺は頭を回す。そんな中、秋水は指を一つ立てて話し始める。
「考えられる理由はそう多くない。あの電話の時に言わなかったけど、何かしらのヒントが日中にあったから」
この発言に乗っかるか?と考える前に話は続く。
「そうであった場合、どうしてこちらをそれを伝えなかったのかは疑問だよね?そもそも、誘拐をほのめかす程度ならまだしも監禁場所のヒントなんて早々得られるものじゃない」
立てた指が二つになる。
「次に、よっぽど腕の良い情報屋にツテがあるから。どれだけ隠そうとしても人の目を避けるのには限界がある。目撃情報やら監視カメラの情報から素早く蒼桜の居場所を突き止められるような情報屋を用いた可能性も無くはない」
俺は黙って彼の言葉を聞く。
そうして、立てた指が三つになった。
「これは考えたくはないんだけどね···」
一度目を閉じた後、ゆっくりと開いた彼は言いづらそうに口を開く。
「君があの子の誘拐に関わってる」
これは恐れていた事態だった。
普通に考えれば何の手がかりもなく誘拐場所を見つける俺は明らかにおかしいのだ。この危険性については頭にあったものの、初めての実戦への不安、考えが間違っていないかの確認、それらを行っているうちに言い訳を考える時間は無く、倉庫にたどり着いてからは他のことを考えていれば死んでいた。
俺は誘拐犯の仲間ではないと胸を張って言える。しかし、それを証明する手段は無い。
(本当のことを言う?)
―言ったとして信じてもらえるわけが無い。
(日中の遊んでいる時に手がかりがあったことにする?)
―どんな手がかりか思いつかないし、それこそ監禁場所が分かる手がかりって何だよ。
(凄腕の情報屋がいることにする?)
―俺よりも絶対に秋水さんの方が詳しいはず。付け焼き刃の嘘はすぐバレる。
考えれば考えるほど泥沼にハマっていく。
(考えろ考えろ···何か無いか?)
納得させられるだけの理由が無いか考える俺を秋水はじっと見つめる。
時計の時間を刻む音が静かな病室に響く中、俺の背中を冷や汗が伝う。
「どうなんだい?」
どこか冷たさを感じる一言が病室に落とされた。
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