届いた言葉
ゼラスという大男を切り裂いた後、俺はそのまま地面へと倒れ込む。
(もう無理だ。体が動かない···)
しかし、まだこれで終わりでは無い。
『まさかまさかです。あなたが彼に勝つとは思いませんでしたよ』
やはりこちらの戦いを見ていたようで声が響く。
「どうするんだ?また幕でも下ろしてテコ入れするか?」
ここで弱々しい姿を見せては駄目だと体をゆっくりと起こしながら言葉をなげかける。
『いえいえ、まさか。今回のシナリオはもう狂ってしまいましたから、ボツですよ』
「ボツ?」
『はい、今回は私の負けです』
作家を名乗った青年は潔く負けを認めた。
『あなたというキャラを上手く使いこなすことが出来なかった私の負けですよ。だから、もう手出しはしません。既に手駒も引き上げさせていますしね』
確かに、ゼラスと戦い始めた時からいたはずの数人の男たちはいなくなっていた。ゼラス一人に精一杯で気にする暇はなかったが、こいつの指示だったらしい。
「本当に手を出さないのか?」
『信頼されていませんね。このシナリオはもう終わりです。狂ったとは言え、こうして終わりを迎えた物語にこれ以上は蛇足です』
信じられるか、と言いたいところだが何故かこいつの言うことは本心のような気がした。
『ああ後、私はあなたが嫌いです』
「俺もお前が嫌いだ。案外気が合うな」
『だと思いました。一応、理由を伝えておくとあなたはあなたの魔法も含めてあらゆる思惑を破壊し得る根っからの破壊者なのです。だから、創作者である私とは絶対に合わない』
「そんなに嫌いなら物語にださなければいいんじゃないか?」
『いえいえ、どんなキャラクターであろうと使いこなしてこその作者ですから』
「ああそう」
面倒なやつに目をつけられたと嘆息しながら答えると、
『では、私も退場させてもらいます。あなたというキャラを考察する必要があるのでね。今度書くシナリオでは私のシナリオの上で踊ってもらいますよ』
「誰が」
『いいえ、きっとあなたには演じてもらいますよ。素晴らしい役割を。では上水流蒼桜さん、また会いましょう』
「絶対嫌」
『これは手厳しい。あなたをいつかきっと手に入れますからね』
そう言うと、最後まで残っていた黒い壁は完全に消え去り、その向こうには誰もいなかった。これでやっと終わったらしい。
まだまだ問題は山積みだが、今は肩の力を抜いていいだろう。俺はそのままもう一度地面に倒れ込む。
(やばい、完全に忘れてたけどゼラスは生きてるか?)
自分が切っておいてなんだが他のことに気をさくことは出来なかったので仕方がない。視線を向けるとそれほどの出血はしてない上に呼吸もしている。
また、いつ起きるか分からない。
「蒼桜、あいつの拘束頼んでいい?」
「任せて」
蒼桜が返事をして、近づいてゼラスの足と氷が凍りつかせる。衣類を凍らせたため、凍傷にはならなそうだ。
俺はその間に警察に通報をしておいた。嘘みたいな話だったが、真剣に話を聞いてくれすぐに何人かが派遣されるようになった。
「もう大丈夫だ。すぐに警察が来てくれるよ」
体は既に限界を迎え、仰向けの状態で蒼桜に話しかける。そうしないと気を失ってしまいそうだった。
「そう」
拘束を終えた彼女はこちらに歩み寄ってくる。そして、
「は?」
座り込んだかと思えば俺の頭を自身の太ももの上にのせた。
「蒼桜···何してるの?」
「膝枕。ここの地面痛そうだから」
「それはそうだけど、体の他の部分の方が痛いから気にしないでいいのに···」
「ちょっとでも楽になって欲しい」
「はぁ、分かった。ありがたく使わせてもらうよ」
少し慌てたが正直いって頭もぼーっとしており、実際先程よりも楽になったので甘んじて受け入れた。
「蓮」
「何?」
「ありがとう」
「···いや、俺にそんなことを言われる価値は無いんだ。俺は蒼桜に謝らなくちゃいけない」
「何で?」
蒼桜は不思議そうに首を傾げる。
「あいつが言ってたんだ。俺が蒼桜と仲良くしたせいでシナリオが狂い、新しいシナリオのためにこんな行動を起こしたって。俺がもっと上手く立ち回っていたらこんなことにはならなかったんだよ」
それは事実だった。俺が本来と違う立ち回りをしたからこんなことが起こった。それをきちんと謝りたかった。
「それなら謝るのは私。あいつは最後私を手に入れるって言ってた。そのために動いたんだとしたら、巻き込んだのは私の方」
「俺がいなかったら起きなかったわけで···」
「私も同じことが言える」
俺は何も言い返せなかった。
「始まりはどうであれ、私はこうして無事だった。それは蓮のおかげ。だから、せめてお礼だけは受け取って」
「···分かった。ありがたく受け取るよ」
「うん」
気づけば蒼桜は俺の頭を撫で始めていた。照れくさくもあったが、その心地良さから止める気にはなれなかった。
そんな中、彼女はまた口を開く。
「今まで友達ってよく分からなかった」
「うん」
「でも、今日こうしてお互い助けて助けられて。これが友達なんだって初めて分かった」
「それなら良かった」
「でも、蓮の助け度の方が私の助け度よりも大きいから返さなくきゃいけない。大男に迫られた時と黒い壁に遮られてた時、2回助けてくれた。蓮のあの黒い炎、面白いね」
「助け度って何?新しい数値なの?···まぁいいか魔法についてはまた元気になったら教えるよ」
「楽しみにしてる」
ウゥーン、ウゥーン
遠くからサイレンが聞こえ、警察がこちらに向かってきていることが分かる。その安心感からか俺は少しずつ瞼を閉じていく。そんな俺に気づいた蒼桜が話しかける。
「眠る前にもう一度言わせて。―私と友達になってくれてありがとう」
「こちらこそ···ありがとう」
落ちる意識の中で俺は何とか言葉を返す。
あの時届かなかったメッセージがやっと彼女に届いた。
「···うん」
最後に見えたのは嬉しげに優しく微笑む蒼桜の顔だった。
「おやすみ」
そして、何かが額に触れた気がしたがそれを確かめる前に俺の意識は完全に落ちてしまった。
読んでくださりありがとうございます!
とりあえず一旦ここで一章は終わりになると思います。次の投稿は来週で、この一週間は一章の見直しと二章を書き進めたいと思います。明日はエピローグ的なものを書こうか迷っているので投稿したらすぐ分かるようブックマークもしてくださると嬉しいです。
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