黒い炎
蒼桜side
(黒い壁が出てきてからしばらく経った。···蓮は無事?)
拘束具も外されておらず口元も塞がれたまま。さらには魔法も使えない状態で一人。不安もあるが何より自身を助けに来てくれた蓮のことが心配だった。
(何か出来ることは···)
何とか体を動かして辺りを見渡してみるものの拘束具を切れそうなものは何も無い。自分に何も出来ないまま時間が過ぎる中で突然声が聞こえた。
『さあさあ、片や罪なき人々を攫い、奴隷市場で売りさばく裏社会では名の知れた悪鬼デニス、片や自らの運命を知りながらも友人のためにその命を賭ける脇役、乙黒蓮。勝利の女神はどちらに微笑むのか?ナレーターは私、作家がお送り致しました』
(何、これ)
この声は確か、自分が意識を失う前に聞いた声だった。しかし、そんなことはどうでもいい。名前は知らなかったが何となく、これからあの大男と蓮が戦うのだということが分かった。
私も近くで見たから分かる。あの大男は強い。蓮の強さは知らないが、学生が戦って勝てるような相手では無いことだけは確かだ。
(何とか、しないと···)
ここで何もしないでいるのは嫌だった。
自分のために誰かが傷つくのが嫌だった。
彼が死んでしまうのが嫌だった。
そんな思いでどうにか出来ないか考えるが、何も思いつかない。焦れば焦るほど視野が狭まり、視界がぼやけてくる。
(どうしよどうしよ···!)
何とか情報を得ようと目だけはキョロキョロと動かしている中、何か不思議なものが目に入る。
(これは···炎?)
周りの黒い壁と同じ色のせいで分かりにくいが明らかに炎と同じく挙動をしている黒いものがそこにはあった。それは急激に燃焼範囲を広げているようで、五百円玉程度だったものが人の拳程度まで広がっていく。
止まりかけていた頭がまた動き始める。
(この色って···もしかして理外魔法?)
魔法とは現実の再現、これが一般常識だ。だがしかし、稀に現実のものとは異なる性質を備えた魔法が生まれるらしい。その特徴として本来の事象とは異なる色を持っており、本来の事象が有する性質を損なう代わりに本来持つはずのない性質を有するようになるのだ。
(それに、これは明らかに敵の魔法を燃やしている。仲間の魔法にそんなことするはずがない。だからこれは、蓮の魔法としか考えられない)
そう考えている間に黒い炎はどんどんと広がり倉庫に放置されていたロープにまで火が及ぼうとする。私はそれが激しく燃え上がる姿を幻視した。
しかし、そこで不思議なことが起こった。
(燃えてない?)
ロープに燃え移るどころか燃え跡一つ付けず火は消えた。その一方で黒い壁はどんどんと燃え続けている。
(まさか···)
私は一つの予測を立てる。
(気づかなかったけど何で出来てるか分からない黒い壁を燃やし、燃えるはずのロープを燃やさない炎。もしかして、燃えるはずの無いものを燃やせて、燃えるはずのものを燃やせるようになってる?)
情報が足りないため、完璧な予想はできないがある程度の予測を立ててみた。
それが合ってるのであれば、と私は両腕を縛る拘束具に意識を向ける。恐らくこれが魔法の使用を邪魔している。
私は燃え続ける黒い炎を見て深呼吸する。
(今の予測が正しいならこの拘束具の魔法を燃やせるかもしれない)
しかし、体を上手く動かせないためやるとしたら拘束具だけではなく私の体もこの黒い炎に触れることになる。もし、この予測が間違っていれば私は次の瞬間には火だるまになっているかもしれない。
冷や汗が流れるが、私は背中を黒い炎に向け始める。
(···そうだ、こんな所で迷ってる暇は無い。壁の向こうでは蓮が戦ってる。行かないと)
両腕の拘束具をゆっくりと近づける。
(私は蓮の助けを待つだけの女の子じゃない。私は彼の友達なのだから···!)
助けてもらうだけじゃない。お互いを助け合ってこその友達だ。ここで怯えていたら私は友達失格だ。
だから、私は躊躇いなく両腕ごと黒い炎の中に突っ込んだ。
強く閉じていた瞳を開く。
(温かい)
その炎は熱くなどなくただただ温かく、私に魔法が扱える感覚が戻ってきた。
(成功した···)
しかし、感傷に浸る間も無く私はすぐさま魔法を使って薄く硬い氷を創り、その他の拘束具を切り裂いていく。
やっとのこと口を塞いでいたものも外して私は人一人分通れるほど広がった黒い炎を見る。
「お願い、生きてて」
今度はその黒い炎に躊躇いなく私は飛び込んだ。
そうして見えたのは膝をつきボロボロになった蓮と余裕そうな大男の姿だ。
「安心しな坊主。お前というナイトが助けに来た姫様は俺が可愛がってやるからよ」
そういうや否や最後の一撃と言わんばかりに岩が蓮に向かう。
「···だめ」
私はその言葉と共に氷の壁を作りその攻撃を受け切る。
緩慢な動きながら蓮はこちらを向き、確かに目が合った。その瞬間、彼は走り出した。
言葉に交わさなくても何となく言いたいことが伝わった。
(あの炎からして攻撃には使えない。だから、蓮はあの刀を使うはず。私はその援護をすればいい)
迫り来る蓮を止めようと岩の壁を創り出す大男だが、蓮は一言呟きながら私を助けたあの炎を創り出す。それによって現れたの岩の壁は跡形もなく消え去った。
案の定、それに驚く大男だがすぐさまそこから逃げようとする。だから私はこう言うのだ。
「私は助けを待つだけの囚われの姫なんかじゃない」
冬の湖を想像する。分厚い氷が湖の表面を占領し、そこを泳いでいた魚すら凍らせる寒さを。
そうすると、男の足元は凍り付き逃げられなくなる。
「あの女ァ!」
私に悪態をついている間に蓮は大男の目の前に現れ、刀を振り下ろすのだった。
読んでくださりありがとうございます!
もうそろそろ一章が終わるのでそうなれば一週間ほど時間をおいて内容の確認と次章の執筆にかかりたいと思います。




