零れる涙
日が完全に沈んでからしばらく後、倉庫街に一台の車が入り込む。
「随分と時間がかかりましたね。早く倉庫に」
「はっ」
眼鏡をかけた青年が明らかに年上の男たちに命令を下す。そんな中、青年の元に一際大きな体躯をした男が歩み寄る。
「で、大将はどうなさるんで?今からお楽しみですか?」
醜く笑った男を青年は蔑んだ目で見る。
「はぁ、言いましたよね?まだ舞台が整ってないと。これだから、野蛮人は···。芸術を分かろうとしない」
「へいへい、悪かったですね。だが、俺にはどうもその芸術とやらが理解出来ませんよ。あんな上玉を前にして何もしないなんて」
「あなたみたいにその時の快楽で生きてはいませんから」
「分かりやせんねー」
疑問を顔にうかべながら大男は倉庫へと入っていく。その後ろ姿を視線で追う青年の表情はいいものではなかった。
「···足りませんね。何か一つアクセントが足りない」
ぶつぶつと自身の考え事を漏らしながら青年も倉庫へと向かっていく。
倉庫の中では大きな照明が天井に吊るされており、それによって辺りは照らされていた。
青年は蒼桜を運び終わった部下たちに命令を下す。
「A班は外の見張りを、B班は中で待機です」
「はっ」
数人のグループになり男たちが動く中、大男は青年に問いかける。
「俺はどっちにつけばいいんで?」
「あなたはただでさえ目立つ見た目をしているのですから中で待機です」
「へい」
大男は壁に背中を預けて座り込む。
「後、私は彼女に顔を見られる訳にはいかないので別室にいます。船が来るまではそれぞれの役割を果たしていてください」
青年がそう言い残すと、倉庫内にいるのは部下である数人の男たちと胡座をかいた大男、それに意識を失っている蒼桜だった。
「おい、お前ら何か持ってねぇのか?」
「······」
「ちっ、つまんねぇな」
待機と言われたため私語を慎んでいるのか反応を見せない男たちをひと睨みした後、大男は寝転がった。
「ちょっくら俺も寝ようかね」
大男がそう言った時、
「···ん」
蒼桜が意識を取り戻した。
状況が分からず、体を必死に動かすが縛られておりろくに動けない。そもそも、目隠しをされているため視界からも情報を得られないでいる。
そんな彼女を見て大男はニヤリと笑うと蒼桜に近寄る。
周りの部下がそれを静止する前に、蒼桜の目隠しが外される。
「へぇ、やっぱり上玉じゃねぇか。体はちとほせぇが顔がこんだけ良けりゃあ十分だろ」
「おい!貴様何を勝手···」
部下の一人が好き勝手する大男にそう叫んだ時だった。
ドンッ
部下の男の足元から突き出した岩が彼を吹き飛ばし、言葉が遮られる。
「殺しはしねぇよ。だが、次邪魔しようもんならお前らの頭が吹き飛ぶぞ?」
それは脅しでもなんでもなく本気であることがその言葉から感じとれ、青年の部下たちに寒気が走る。
「ただでさえ、予定と違って無理やり働かされたんだ。これぐらいの役得があってもいいだろ」
蒼桜side
意識を取り戻して何とかしようとするが体は完全に縛られ動けない。そしてやっとのこと、外された目隠しの先にいたのは希望ではなく絶望だった。
浅黒い体色の大男。
偏見でも何でもなくその視線や表情から彼は敵であることが分かる。
そんな大男の瞳が自分を掴んで離さない。
今まで感じたどの視線よりも酷く汚らしいそれに私は表情を強ばらせる。が、大男はその変化に気づけない。
「何だ?怯えねぇのか?面白くねぇ女だな」
内心は怖くてたまらなかった。
どうして自分がこんな目にあうのか分からない。ここはどこかも分からない。助けが来るのかも分からない。
何もかも分からない中、これからどのようなことをされるのかが本能的に分かってしまう。出来ることなら叫びたいが口はまだ塞がれて話すことが出来ない。
(これから楽しくなるって思ったのに···。やっと友達が出来たのに···)
やはり、自分はこの世界から嫌われているのだろうか。
そんな考えが頭に浮かぶ。
色んな人がいると聞いて楽しみにしていたのだ。それなのに、気づけば学園では一人になっていた。辛くないはずがない。組を作る授業でも一人、食事をとる時も一人、移動の時も一人。いつだって泣きそうだった。
そんな私に新しい友達ができた。これからはきっと寂しくなんて無い。
そう言って、幸せになれると思った矢先にこれだ。もう自分は幸せはなれないのだと諦めてしまった方が、希望など持たない方が楽なのかもしれない。
(全部全部諦めてしまえば裏切られなくてすむ)
変に期待するからこうなる。
だったら初めから期待など捨ててしまおう。
―自分はこの先落ちて堕ちてオチテ行くのだ。
だから、希望など要らない。
···そのはずなのに、来るはずなんて無いのに、諦めてしまえば楽なのに。
どうしても私は希望を捨てられない。
一度は私を救ってくれたヒーロー。
初めてできた私の友達。
彼が来るって信じてしまう。
少しずつ近づく大きな手。
逃げることも声を出すことも出来ないこの状況で私は心の中で叫ぶ。
(助けて···蓮!)
醜く笑うその顔が近づいて来た瞬間、私は目を瞑る。
···しかし、一向に私の体が触られた気配は無い。むしろ、何か安心感を感じる。そんな私に優しげな声が届く。
「聞こえたよ、蒼桜」
私はゆっくりと目を開く。
照明に照らされ黒く光る髪の毛、私よりも大きな身長、鋭い目つき。全部、全部が彼の特徴だった。
涙がこぼれた。
それがどんな感情がこもったものか分からないが、それは次々と私の頬を伝った。
読んでくださりありがとうございます!
感想や評価をくださると嬉しいです。テンポよく話を進めていきたいと思います。次回は、蓮の目線に戻ります。
やっと主人公ぽいところ見せれてよかった。




