決意
遅くなり申し訳ありません。投稿する前に確認したところ納得がいかず書き直していたところこんな時間になりました。
カバンから家の鍵を取りだして、扉を開く。
母さんについては仕事場の方で手の離せない用事が出来たらしく今日一日家にいない。
珍しく誰もいない部屋だが特に寂しいと思うことも無く、友人たちと過ごした半日を思い出す。そして、写真の共有のためにも全員がグループにはいっているかメッセージアプリを開いて確認する。
どうやら流風は入っていたらしく、買ったばかりのスタンプを送ってきていた。それに対してこちらもスタンプを返してると、蒼桜はまだ入ってないらしい。
そこで蒼桜から個人的にメッセージが届いていることに気づいた。
(これは、別れた直後に送ってたっぽいな)
何が送られてるんだ、と蒼桜の名前が書かれているところをタップするとメッセージが見える。
『今日は楽しかった。私と友達になってくれてありがとう』
あまりにもストレートな物言いにこちらが恥ずかしくなる。
(きっとこういう素直な部分が流風と合うんだろうな)
二人の共通点を見つけて、それは仲良くなるはずだと一人で納得する。俺はそんな素直に言葉を綴ることが出来ないので言葉少なに、
『こちらこそ』
それだけ返して、母さんから許されているため刀でも振ろうかと庭に出ようとした時、
「〜♪」
着信音が鳴り響いた。
誰からのものか予想を立てる間も無く、電話に出る。
「もしもし」
『蓮くんかな?』
「えっ、秋水さんですか?」
その声には聞き覚えがあり、蒼桜の父親の神水流秋水のものだった。しかし、その様子はいつものどこか余裕のある秋水とは異なっていた。
「何か用ですか?」
『あまり時間が無いものでね。本題に入らせてもらうんだけど、蒼桜とは何時頃に別れたのかな?』
どうしてそんなことをと思ったが急いでいる様子のためすぐに答えを返す。
「五時くらいですかね」
「そうか···。―だとすれば、やっぱり少なくとも一時間は経ってるのか···」
後半の方は俺へと言葉ではなく独り言のようでかなり小さい声だった。
「···後、何かおかしなことはなかったかい?」
「おかしなこと、ですか?特になかったと思います」
またしても要領の得ない質問に訝しみながらも返答する。おかしなこと、ということに一瞬こちらを睨んでいた青年が頭に浮かぶが、秋水とは関係の無いものだろうと言うことは無かった。
『なるほど、分かった。ありがとう』
「あの、何かあったんですか?」
聞いてもいいのか分からないが、言いづらいものなら誤魔化すはずだと一応尋ねてみるが、秋水は少しの間黙りこむ。
「言いづらいことなら聞きませんけど···」
『いや、すまない。言おうかどうか迷ったんだけども、君も無関係では無いから話すよ』
「はい」
一呼吸置いた後、秋水はゆっくり口を開く。
『蒼桜がいなくなった』
「···は?」
意味が分からなかった。少し前まで一緒に行動し、会話をしていた彼女がいなくなったということに現実感がなかった。何か悪い冗談でも聞かされているような気分だ。
『僕は心配性でね、あの子のケータイから僕の方へと位置情報を送って貰ってるんだ。それによるとしばらくの間何も無い場所で立ち往生していることが分かった。不穏に思った僕がその場所に様子を見に行ってもらうと···』
整理が出来ていない俺の頭に次々と情報が入り込んでくる。
『ケータイだけが残されてあの子の姿はどこにも無かったんだ』
俺のケータイにメッセージが送られていたからそんなはずは無いと思うが、すぐに彼女がいなくなったのはそのしばらく後だということに気づく。
『誘拐であった時を考えれば、あの子の安全のためにも警察にはすぐに伝えることは出来ない。今は、神水流家のみで捜索することになるから一方的で悪いけどもう切らせてもらうよ』
「···はい」
『じゃあ、何かあってはいけないから君も今日は家にいるように。遊びに誘ったもう一人の子にも自宅で大人しくしておくよう伝えておいてほしい。急に電話して悪かったね、また』
相当焦っているようでこちらからの返答を待つことなく電話は切られる。
こうして静かになった部屋でも俺の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
(蒼桜がいなくなった?どうして?彼女は家族のことが大好きだから、失踪はあるはずが無い。だとすれば、誘拐?確かに、誘拐のイベントはあった。だが、その犯人は蓮だ。主人公と仲を深める蒼桜を攫うのは俺だ。それも今じゃない。こんな話はゲームでは無かった···)
そこまで考えて、俺はあることに気づく。
(そうだ···。この世界は俺の知ってるゲームと変わらない世界だ。蒼桜も流風もその性格も行動もゲームの時に見た彼女たちと何ら変わり無かった。ゲーム通りに進む世界、その中でイレギュラーが生まれたとすれば、それを生み出したのは―)
「俺だ···」
カラカラに乾いた口からその言葉が零れる。
その結論に俺は何も反論が思い浮かばない。
だから、言い訳が頭を過ぎる。こうなるとは思わなかった、自分で望んで来た世界じゃない。いくらでも簡単に思い浮かぶが。被害にあっている蒼桜はそう言って割り切れるような相手ではなかった。
今日の思い出が少しずつ崩れていくような音がした。
砂上の城が崩れていく。それ行ったのはきっと俺の手なのだろう。
俺は今まで、自分のことしか考えていなかった。自分が元の世界に戻りたい、その考えの元行動し、シナリオから外れた行動を取った。その結果がこれだ。
(どうして俺じゃないんだ?責任を取るべきは俺だろ?)
俺が何か迷惑を被るのは我慢できる。俺が取った行動の責任を俺が取るだけなのだから。だが現実は、自分の失態を他人に尻拭いさせた。
(もういっそ何もするべきじゃないのか?俺が動くより秋水さんに任せておいた方が上手くいくのかもしれない···)
またしても人任せな考えだ。だが、自分が動くことで事態が悪化するのは避けたかった。自分のせいで誰かが傷つくのが怖かった。
だが、何よりも何もせずに天命に委ねるということに本能が忌避感を叫ぶ。
またそれを繰り返すのか、と。
(またこうして失うのか?···だから、またって何だよ。俺は誰を蒼桜に重ねてるんだよ)
ハッキリとしない記憶が俺に告げる。以前はヒントになったかもしれないそれに今はイラつく。それと同時に無力感が俺を襲う。
「俺じゃあ何も変えられない···」
日が落ちたことで部屋に差し込む光は少しずつ消えていき、明かりをつけないその部屋はすぐに暗くなった。
しかし、どこからか一筋の光が差し込んでいた。不意に視線を向けると、画面がついたままになっているケータイが目に入る。そこにはメッセージアプリの画面が表示されていた。記されたトークルームの名前は蒼桜。
『今日は楽しかった。私と友達になってくれてありがとう』
そう言いながら容易に薄く笑っている蒼桜が想像できた。
(あんなによく笑うやつだったっけ···?)
今更ながらそんなことに気づいた。本来のシナリオでは常に無表情でストーリーが進まなければ表情を変えることの無い蒼桜。そんな彼女のコロコロ変わる表情を俺は見てきた。
(先ばかり見てたせいでそんなことにも気づかなかった)
何も変えられてないと思った。俺の行動は悪い方向にしか作用しないと。
だが、少なくとも彼女は変わった。変えられたのだ。蓮の婚約者として酷い扱いを受け、笑うことのなかった彼女が今笑っているのだ。
だとしたら俺のするべきことは何だ?
少なくともここで蹲っている場合では無い。
心の中に燻っていた暗い思いは反転し、俺を突き動かす。
「何勝手に終わった気になってるんだよ、まだ何も終わってない」
噛み締めるように呟く。
「絶対に助ける」
俺が悪役?主人公が助けるべき?
知ったものか、俺が今から助けに行くのはゲームのヒロイン等ではなくただの友人なのだから。
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