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神宿り  作者:
第6章
97/103

10

 本間は肩を震わせ、笑いながら、細身のナイフを取り出す。

 周囲が警戒したように銃口を向ける。

「……この力か…?」

 本間は己の腕を、自ら切りつけた。

 溢れ出す血。

 だが、すぐに傷口は塞がり始める。

 皆が、立ち尽くした。

「化物…」

 誰かが、呟いた。

「化物か…いい響きだ…」

 本間はにたりと笑う。

 無造作に腕を上下に振った。

「ぐぁっ」

 老人は左腕を押さえる。

 指の間から、血が流れ出した。

 腕に、細身のナイフが刺さっている。

 老人の周囲を、周囲の男たちが固めた。

「鬼が集まり始めた…祝宴だな…」

 くつくつと笑いながら、本間は老人を見る。

 本間のよどんだ瞳と、老人の血走った瞳がする。

「ぐぁぁぅうう…」

 一人の男が、銃を窓に放り投げた。周囲の者が、混乱する。

「制御もできぬ癖…」

 本間はせせら笑う。

「その力を寄越せ!!」

 老人は、自らナイフを引き抜き、床に打ち捨てる。

「化物め…」

「俺の力を奪って、あんたも化物になる気か…」

「わしは…この国に無くてはならない人間だ。不死の力を手に入れ、日本を導かねばならぬ!」

 老人の言葉に、本間は笑った。

「本物の化物を怒らせれば、どうなるか想像も出来ない人間が、日本を導く!」

 これ以上に愉快なことはない、とばかりに笑う。

 鬼に憑かれた人間が、一人増え、二人増え…。

「愉快だ。実に…」

 本間は檻に手をかけ、力を込めた。

 鋼鉄製の、頑丈な檻…。

 それがまるで、針金のように、くにゃりと曲がる。

 跳べないこともなかったが、あまり力を使いたくない。

「撃て!」

 老人が口角から泡を飛ばす。

 だが、鬼に憑かれた者は暴れ、他の者は逃げ回り、誰一人として、その命を聞いていなかった。

耄碌(もうろく)ジジイ、理解できぬのなら、俺の力を身に染みて味わうがいい…」

 檻からのっそりと外へ出、本間はにたりと笑った。

 だが次の瞬間、笑みを消し、脇へ飛ぶ。地面がはじけた。

「……宿神の力は、あなたの力では、ない…」

 本間に衝撃波を放った男に支えられるようにしながら、少女は凛とした声で言った。

「お前らの力も、全てわしのもんだ…。化物どもめ…」

 老人が血走った目で、皆を見回す。

『……鬼に憑かれずとも、邪魂と化すか…』

 静かにシグがつぶやいた。

 老人が床に落ちた銃を拾い上げ、四人に向かって放つ。

 だが、シグが結界を張り、銃弾は四人の元まで届かない。

「これは俺の力だ」

 本間が吠え、衝撃波を老人に向けた。

 老人が吹き飛び、床にたたきつけられる。

 本間の力が万全であったなら、恐らく死んでいたろう…。

「宿神の力を使い、暴挙に出るなど…思い上がりもはなはだしい…。神にでもなったつもりですか」

 創樹は苦痛に負けず、真っ直ぐに本間を見据えた。真っ直ぐな瞳…。直視するのがためらわれるほどの…

「俺はこんな化物などいらない!! これは、俺の力だ!」

 その瞳に心を見透かされるような気がして、本間ははじかれるように言い放つ。

「宿神の力です。貴方はただの人間…」

 創樹は、静かにつぶやく。

「そこまで言うのなら、こんな化物などくれてやる!」

 言うと同時に、本間は初めて、宿神を外に出した。皆が、目をみはる。

 一瞬、何かの形をとった宿神が、苦しげに身をよじりながら、輪郭を曖昧にし、流されてゆく。

 創樹が、弱々しく手を差し伸べる。

 だが…創樹が触れる前に、そのまま宿神は流されてしまった。

「…よこせ、不死の力を…」

 老人がうめきながら、起き上がろうとする。口も目も、真っ赤だ。歯はボロボロと(こぼ)れ、妄執に駆られた瞳。

『あ…リモコン…』

 峰春は思わずつぶやいた。

 峰春の視線を追ったシグとザットが、顔を見合わせ、頷き合う。

「ジジイめ…」

 本間は掌を老人に向けた。これ以上のダメージを老人に与えるのは危険だ。

 シグが掌を上げ、阻止しようとする。

 だが…。

 本間の掌から、衝撃波が放たれることはなかった。

 本間が愕然(がくぜん)とした様子で己の掌を見る。

 その間にザットが跳び、老人を気絶させると、その手からリモコンを奪って戻って来た。

 峰春はその間、跳びかかって来そうな鬼に憑かれた人間を警戒している。

『ソウ…? どうすればいい…?』

 ザットが心配そうに創樹に問う。

 創樹は、苦痛に耐えながら、リモコンのボタンを押した。

 途端、呼吸が楽になる。

 大きな息と共に、崩れ落ちかける創樹をシグが支えつつ、創樹にエネルギーを分け与えた。

『すみません…ありがとうございます』

 ふうっと息を吐いて礼を言う創樹に、シグは微笑む。

 だが、すぐにその瞳を厳しいものにし、本間を見据える。

 全ての機械を止め、用済みになったリモコンを、ザットが破壊した。

 ロードとハックが外に出て、周囲の鬼を、次々と浄化する。

「馬鹿な…」

 本間が立ち尽くし、呆然とつぶやく。

『…(おご)った結果だな…』

 シグが静かに告げた。

「俺の力…俺の力だっ!!!」

 本間が吠える。その声に呼応したように、そばに寄っていった鬼が、本間に憑いた。

『『『『あ…』』』』

 思わず四人は声を漏らす。

 鬼に憑かれた宿主など、初めてだ。

「これは…俺の力っ!!」

 吠えるようにした本間の掌から放たれる暗い光。

 一瞬目をみはったシグが、とっさに打ち砕く。

『ハック』

 ザットの声に機敏に方向を変えたハックが、床をえぐる光を軽やかにすり抜け、本間を押し倒した。

『ロード』

 シグの声に、ロードが本間の頭を鼻先でつつく。本間が気絶した。

『本部へ連行だ』

 シグの言葉に、ハックとロード、それから二柱に組み敷かれたままの本間の姿が消えた。


   *    *     *


バトル、終了。

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