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本間は肩を震わせ、笑いながら、細身のナイフを取り出す。
周囲が警戒したように銃口を向ける。
「……この力か…?」
本間は己の腕を、自ら切りつけた。
溢れ出す血。
だが、すぐに傷口は塞がり始める。
皆が、立ち尽くした。
「化物…」
誰かが、呟いた。
「化物か…いい響きだ…」
本間はにたりと笑う。
無造作に腕を上下に振った。
「ぐぁっ」
老人は左腕を押さえる。
指の間から、血が流れ出した。
腕に、細身のナイフが刺さっている。
老人の周囲を、周囲の男たちが固めた。
「鬼が集まり始めた…祝宴だな…」
くつくつと笑いながら、本間は老人を見る。
本間のよどんだ瞳と、老人の血走った瞳がする。
「ぐぁぁぅうう…」
一人の男が、銃を窓に放り投げた。周囲の者が、混乱する。
「制御もできぬ癖…」
本間はせせら笑う。
「その力を寄越せ!!」
老人は、自らナイフを引き抜き、床に打ち捨てる。
「化物め…」
「俺の力を奪って、あんたも化物になる気か…」
「わしは…この国に無くてはならない人間だ。不死の力を手に入れ、日本を導かねばならぬ!」
老人の言葉に、本間は笑った。
「本物の化物を怒らせれば、どうなるか想像も出来ない人間が、日本を導く!」
これ以上に愉快なことはない、とばかりに笑う。
鬼に憑かれた人間が、一人増え、二人増え…。
「愉快だ。実に…」
本間は檻に手をかけ、力を込めた。
鋼鉄製の、頑丈な檻…。
それがまるで、針金のように、くにゃりと曲がる。
跳べないこともなかったが、あまり力を使いたくない。
「撃て!」
老人が口角から泡を飛ばす。
だが、鬼に憑かれた者は暴れ、他の者は逃げ回り、誰一人として、その命を聞いていなかった。
「耄碌ジジイ、理解できぬのなら、俺の力を身に染みて味わうがいい…」
檻からのっそりと外へ出、本間はにたりと笑った。
だが次の瞬間、笑みを消し、脇へ飛ぶ。地面がはじけた。
「……宿神の力は、あなたの力では、ない…」
本間に衝撃波を放った男に支えられるようにしながら、少女は凛とした声で言った。
「お前らの力も、全てわしのもんだ…。化物どもめ…」
老人が血走った目で、皆を見回す。
『……鬼に憑かれずとも、邪魂と化すか…』
静かにシグがつぶやいた。
老人が床に落ちた銃を拾い上げ、四人に向かって放つ。
だが、シグが結界を張り、銃弾は四人の元まで届かない。
「これは俺の力だ」
本間が吠え、衝撃波を老人に向けた。
老人が吹き飛び、床にたたきつけられる。
本間の力が万全であったなら、恐らく死んでいたろう…。
「宿神の力を使い、暴挙に出るなど…思い上がりもはなはだしい…。神にでもなったつもりですか」
創樹は苦痛に負けず、真っ直ぐに本間を見据えた。真っ直ぐな瞳…。直視するのがためらわれるほどの…
「俺はこんな化物などいらない!! これは、俺の力だ!」
その瞳に心を見透かされるような気がして、本間ははじかれるように言い放つ。
「宿神の力です。貴方はただの人間…」
創樹は、静かにつぶやく。
「そこまで言うのなら、こんな化物などくれてやる!」
言うと同時に、本間は初めて、宿神を外に出した。皆が、目をみはる。
一瞬、何かの形をとった宿神が、苦しげに身をよじりながら、輪郭を曖昧にし、流されてゆく。
創樹が、弱々しく手を差し伸べる。
だが…創樹が触れる前に、そのまま宿神は流されてしまった。
「…よこせ、不死の力を…」
老人がうめきながら、起き上がろうとする。口も目も、真っ赤だ。歯はボロボロと零れ、妄執に駆られた瞳。
『あ…リモコン…』
峰春は思わずつぶやいた。
峰春の視線を追ったシグとザットが、顔を見合わせ、頷き合う。
「ジジイめ…」
本間は掌を老人に向けた。これ以上のダメージを老人に与えるのは危険だ。
シグが掌を上げ、阻止しようとする。
だが…。
本間の掌から、衝撃波が放たれることはなかった。
本間が愕然とした様子で己の掌を見る。
その間にザットが跳び、老人を気絶させると、その手からリモコンを奪って戻って来た。
峰春はその間、跳びかかって来そうな鬼に憑かれた人間を警戒している。
『ソウ…? どうすればいい…?』
ザットが心配そうに創樹に問う。
創樹は、苦痛に耐えながら、リモコンのボタンを押した。
途端、呼吸が楽になる。
大きな息と共に、崩れ落ちかける創樹をシグが支えつつ、創樹にエネルギーを分け与えた。
『すみません…ありがとうございます』
ふうっと息を吐いて礼を言う創樹に、シグは微笑む。
だが、すぐにその瞳を厳しいものにし、本間を見据える。
全ての機械を止め、用済みになったリモコンを、ザットが破壊した。
ロードとハックが外に出て、周囲の鬼を、次々と浄化する。
「馬鹿な…」
本間が立ち尽くし、呆然とつぶやく。
『…驕った結果だな…』
シグが静かに告げた。
「俺の力…俺の力だっ!!!」
本間が吠える。その声に呼応したように、そばに寄っていった鬼が、本間に憑いた。
『『『『あ…』』』』
思わず四人は声を漏らす。
鬼に憑かれた宿主など、初めてだ。
「これは…俺の力っ!!」
吠えるようにした本間の掌から放たれる暗い光。
一瞬目をみはったシグが、とっさに打ち砕く。
『ハック』
ザットの声に機敏に方向を変えたハックが、床をえぐる光を軽やかにすり抜け、本間を押し倒した。
『ロード』
シグの声に、ロードが本間の頭を鼻先でつつく。本間が気絶した。
『本部へ連行だ』
シグの言葉に、ハックとロード、それから二柱に組み敷かれたままの本間の姿が消えた。
* * *
バトル、終了。




