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神宿り  作者:
第6章
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9




『何なんだ!? 狙撃…?』

 ザットがシグにかみつくように問う。砕牙の一声で、創樹を乗せた翔波が、山を巡るように駆け出していた。山の木々が、次々と枯れ落ちる。

『ちょっと待ってくれ…』

 シグが、じっと先ほどまでいた庭園を見晴るかすようにする。

 遠く、とても見える距離ではない。

 だが、シグには見えていた。


 ザーッと雨の降るような音が聞こえ、二人は振り返る。

 そして、絶句した。

 夕日に照らし出される山全体の木が、一気に茶色に染まったかと思うと、枯れ落ちていた。

 しばし、さすがに唖然として言葉を発することが出来ない。

『…凄すぎ』

 気まずい沈黙を破るように、ザットはつぶやいていた。

『すみません』

 不意に申し訳なさそうな声がして、二人はそちらを見る。

『制御が利かなくて…』

 苦笑した創樹が、光を三人に放った。

 峰春も、ザットも、そしてシグも、エネルギーが補給されたのを感じる。汗がひく。

『もう、大丈夫なのか?』

 シグが問う。

『はい。エネルギーをとりすぎてしまいました…。植物だけで済んだのが、唯一の救いですが…』

 創樹は陰りの有る瞳で告げた。


『春になればまた芽吹く』

『回復して何よりじゃん』

 シグが微笑み、ザットがニッと笑った。

『…でも…本当に、すみません。跳ばしてもらってるのに…』

 創樹はシグに深々と頭を下げた。あの時、シグのエネルギーを奪ってしまったのを気にしているのだろう。

『気にするな。こうして無事だ。それより、さっきの狙撃だが…創樹、何か気づいたか?』

 シグが、口調を変えて、創樹に問う。


『えっと…私には…私たちでなく、本間さんが狙われているように感じられたのですが…』

 何でもないことのように普通に質問され、創樹も戸惑いつつ、返す。

『『え…っ??』』

 峰春とザットが目をみはる。

『ああ。俺もそう感じた。気になったから…今、見ていたら、血塗れのホンマが檻のようなものに入れられ、連れ去られた』

『『はぁ!?』』

 シグの言葉に、ザットと峰春が思わず叫び、創樹も目を瞠った。

『……とりあえず、追うか?』

 問いつつ、シグは携帯電話を取り出し、どこかに電話する。三人は顔を見合わせた。

『そりゃ…このままって訳にも…』

 ザットが言い、峰春と創樹も頷く。

 シグはひとつ頷くと、手を上げて皆を制し、ドイツ語で何やら二分ほど話し、電話を切った。

『許可が出た。俺とザットで…』

『嫌よ!!』

 シグの言葉を峰春がさえぎる。創樹も小さく頷く。

『判っている。俺とザットで行きたいところだが、梁がそう言うのは目に見えてるし、創樹も納得できないだろう。だが…』

 シグはため息を吐きつつ、空中に手を差し伸べる。と、空間に現れた小さな紙袋が、ポトン、とシグの手に収まった。

『傷の処置が先だ』

 シグは紙袋から消毒液を取り出し、己の手を消毒する。

『我慢しろ』

 そう言うと、峰春の傷口を消毒すると、痛みに悲鳴を上げる峰春に構わず、今度は注射器を取り出し有無を言わさず注射した。

 包帯を取り出し、手早く巻く。

『銃弾が腕の中に残っていなくて良かったな。残ってたらすぐに跳ばしたところだ。痛み止めだ。水がないと飲めないなんて甘えたこと言うなよ』

 シグはそう言うと、あっという間に処置を終え、峰春に錠剤を渡した。峰春はむっとしながらも、その錠剤を飲む。

 創樹が目を丸くして砕牙と顔を見合わせている。

『コイツ、一応医師免許持ってるんだ』

『ドイツのな。しかも、持ってるだけだ』

 ザットが創樹に説明し、シグが肩を竦める。


『終わったら、ちゃんと医務局に行け』

 シグの言葉に、峰春が頷く。

 シグは使った道具を紙袋に戻し、跳ばした。

『さて、追うか』

 シグの言葉に、皆は表情を引きしめ、頷いた。




   *     *     *


「いいざまだな…」

 しわがれた声が呟く。

 檻の中で、横たわる人間。

 血に塗れている。だが、完全に死んでいると思われた人間は、身を起こした。周囲の騒めきを気にも留めていないかのように、老人は平然としたものだ。

 男の傷口は、もう、ほぼ塞がっている。


「良い能力じゃ…。その秘密を解明すれば…不死も可能か…」

 老人の呟きに、くっと血塗れの男…本間賢治は邪悪な笑みを漏らした。

「老い先短い耄碌(もうろく)ジジイの考えそうなことだ…」

「いきがっていられるのも今のうちだ。その檻は、お前を捕らえるために用意させた特殊なものだ。逃げられまい…」

 老人の言葉に、本間は衝撃波を放つ。

 衝撃波は、檻から外へ出ることはなかった。


「なるほど…」

 本間がつぶやき、老人は愉快げに笑う。

 本間は老人を攻撃することより、現状の把握をし、なおかつ、移動の間に己がどのくらい回復したか知りたかっただけだ。だから、衝撃波も最小限の力で。

 だが、それを教えてやる必要は無い。

 力を思いのままに振るうには程遠いが、何とか衝撃波を作り出せる程度には回復している。

「ここにもな、こういうものがあるんじゃ」

 老人は掌に納まるサイズの物を、本間に見せた。

 鬼をばらまく装置と、宿神を苦しめるための装置のリモコン。

「そんなものが、俺に通用するとでも思ったか…ジジイ」

 本間はくつくつと笑いながら、檻に手を掛けた。

「撃て!」

 老人の言葉に、一斉に銃が火をふいた。

 本間が倒れ込む。

 だが、硝煙の匂いも薄れぬ数秒の後、血をだらだらと垂らしながら、本間はむくりと上半身を起こした。

 ひっと息を呑む者もいる。即死のはずの銃撃を受け、死なない男…。

 本間はくつくつと笑みを漏らす。傷口からぽとり、ぽとりと銃弾が抜け出て、徐々に塞がってゆく。

 周囲の者が慄然とするが、老人だけは、奇妙に唇を歪めた。


「良い力じゃ…。すぐにわしのものになる…」

「耄碌ジジイ…。老いぼれて尚、死ぬのが怖いか」

「小僧…お前の力は、わしのもんじゃ…」

 老人は、握っていたリモコンの、スイッチを押した。

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