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「…ごめんなさい」
創樹はそっと呟いた。
辺りは薄暗く、寒さも増した。
創樹は辺りを見回す。
朽ちた木々。
草花…。
大きな庭にあった、手入れの行き届いた植物が皆、朽ち果て、無残な姿をさらしていた。
『どうした? ソウ』
声を掛けられ、顔を上げると、いつも屈託の無い明るい表情を浮かべているザットが、心配げにしている。
創樹は何でもない、と、小さな笑みを浮かべて首を振った。
『雲は、機械の中に居るの…?』
峰春がすがるような瞳でシグを見上げる。
『わからない。調べるしかないだろう。……創樹、何か解ったかい?』
『……技術者を全部あたってはみましたが、皆、宿神を吸い取ればいい、という機械の性質しか考えておらず、その後の影響や、吸い取った宿神のエネルギーを取り出すにはどうしたらいいかなど、考えている技術者は皆無でした…』
シグに問われ、創樹が申し訳なさそうに告げる。
『……長門さんに連絡してみるか…』
シグがふと、思いついたように告げた。
『あのおっちゃん? 何で?』
ザットが首を傾げる。
『彼は、俺たちの中の宿神を見ることが出来たじゃないか。創樹だけが特別で、宿神が複数だということも見抜いた。彼なら何か判るかもしれない』
『そうよ! 雲の力が元の力じゃないってことも気付いたわ! 電話して!』
峰春が勢い込んでシグに詰め寄る。
シグは頷き、携帯電話で番号を出し、創樹に渡した。
創樹は長門に電話を掛け、協力を要請する。
「え…? 本当に…?」
それから、目を丸くして三人を見た。
『何だって?』
『長門さんが先程S市に着いたと。どうも気になって、やはり来てみたそうです。機械の件は、出来るかどうかわからないが、見てみるそうです』
シグに問われて創樹は応え、峰春の表情が少し明るくなった。
『すぐ迎え行って、機械のトコ行こう!』
峰春が勢い込んで告げる。
シグが頷き、創樹が場所を聞いてから電話を切った。
『ああ。〝入院〟させられていた人たちの邪魂も祓って、家に帰さないとな…』
数分後、四人は長門と共にあの機械の元に来ていた。
『俺たちは先に〝入院患者〟を祓ってくるよ。梁と創樹は長門さんと機械の方を頼む』
シグに言われ、二人は頷く。
『〝入院患者〟のいる場所はこの子たちが知ってます。ついでに記憶の修正もこの子たちがやってくれると思います』
創樹は幻と現を示した。
「お願いね」
創樹が幻と現を撫でると、
「みゃう」
「………」
白猫は鳴き、黒猫はそっぽを向いた。
『頼むぜ、ユメ、ウツツ!』
ザットがニッと笑う。
『助かるよ。頼む』
シグも猫たちに微笑む。
仕方ない、とばかりに黒猫が立ち上がり、白猫と連れ立って歩き出す。
そのあとをシグとザットが追った。
『長門さん、こっち。何か判ります? 雲は…?』
峰春が真剣な瞳で長門を見つめる。長門が創樹を見た。
「この機械です。何か判りますか…? 雲は…?」
創樹が長門と峰春の瞳を受け、先ほどの峰春の言葉を訳す。
長門はひとつ頷き、目の前の機械をじっと見る。
「…………この場の空気が邪念でよどんでいて…少し見づらいですね…」
気合を入れるように長門は頬をたたく。
「…飛天」
創樹が呟くと、真紅の鳥が現れ、室内をぐるっと回った。
光が注ぎ、室内の空気が清浄なものとなる。
目を丸くしていた長門だが、やがて、笑みを浮かべた。
「これなら集中できそうです」
長門はそう言うと、その場にあぐらをかいた。創樹は飛天を戻す。
長門のまとう空気が変わった。
長門がまぶたを閉ざす。
不意に、辺りの空気がしん…と、張り詰める。
長門の唇が何かを言うが、峰春にも、創樹にも、その内容を理解できない。
不意にカッと長門の目が見開かれた。
何気ない様子で眺めていた峰春がよろけそうになり、慌てて踏みとどまる。
何も映していないかのような、長門の瞳。全てを見透かすような…。
もう、これ以上は緊張に耐え切れない…
そう、峰春が思った瞬間、長門はまぶたを閉ざし、息をついた。
『長門さん…?』
不安げに峰春が声をかける。
いつの間に戻ってきていたのか、シグとザットも三人に歩み寄る。
創樹の元に駆け寄った猫たちは、そのまま創樹にじゃれつき、消えた。
「……昨日、梁さんや神代さんを見た時に、エネルギーの塊のようなものが見えると、私は言いましたね? シグさんの言葉を借りれば、力の核が…」
長門の言葉を創樹は訳す。皆は頷く。
「その力の核が、この機械の中にあるのが見えました。それに、昨日見たオサキ狐様の力の片鱗も…」
『ホント!? 雲も!?』
長門の言葉を創樹が訳すと、峰春が長門に飛びかかるように詰め寄る。
「え、ええ。確かに」
長門は気圧されながら、それでも微笑み、頷く。
「ただ、機械と神秘的なものと言いますか…そういったものは互いに合わないので…。もう少し機械の外側を剥がせば、はっきりと見えるのかも知れませんが…」
長門は申し訳なさそうに告げる。
創樹がそれを訳すと、シグは思案するように機械を眺めた。
『…その力の核は、どの辺りにあるんです?』
それから長門に問う。
「恐らく、機械のこの辺りの、中央付近ですね」
長門は機械のスイッチから一番遠い場所を示した。
『では、こちら側を破壊しても、問題ありませんか?』
シグは機械の半分を示した。
「ええ。それはそうだと思いますが…」
長門が怪訝そうに頷く。
『破壊は得意だぜ』
途端、生き生きとザットが言った。
『この辺はいいってことだよな』
ザットは位置を確認する。
『じゃあ、俺がこっち側からするから、ザットはそっち頼む』
シグは何でも無いことのように告げ、機械の反対側に回り込んだ。
シグとザットで、機械を挟み込む形だ。
創樹は長門に離れているように告げ、自分も峰春と共に離れる。長門も「まさかな」と言う表情ながら、二人のそばへ。
『行くぜ?』
ザットは尋ねる。ザットは機械に手を押し当てて。シグは少々距離を取って手をかざしている。
『ああ』
シグが頷いたのを確認すると、
『スリー・ツー・ワン…ゼロッ!!』
ザットは秒読みし、ゼロと同時に、衝撃波が炸裂した。
轟音。
二人は跳んで機械から離れる。
重々しい音を立て、機械が半分、崩れ去った。
長門が表情を引きつらせる。峰春はあきれた瞳で見やり、創樹は静かに見守っていた。
『機械相手だと力をセーブしなくて良いから気持ちいいぜ』
ザットが楽しそうに告げる。
『多少はセーブしろ。距離とっておいて正解だったぜ。誰が機械突き抜ける勢いでやれって言った』
シグが苦笑した。




