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『…創樹、君は何故? 仕事でもなく、命じられたわけでもなく。初めからずっと今回の件に真剣に取り組んでいる。利益があるわけでも、感謝が得られるわけでも、名誉があるわけでもない。何故そうまでして、ホンマをとめようとする?』
『……自己満足、なんでしょうね…。自分のためだと思います。何かすることで、何のために生きているのかを確認したいんだと思います。それに…もう、つらい目にあっている宿神を見るのは嫌です』
創樹は静かに答えた。それから穏やかなままの瞳で淡い…笑みにも、苦笑にも似た表情を浮かべる。
『…私からもひとつ、聞いていいですか…?』
『答えられることであればいいが…』
『…宿主は大なり小なり影を背負っていると言った時も、本間さんのようになっていた可能性があるといった時も…“俺とザットは”って、言いましたよね…? あえて、そう言ったんですか…?』
創樹の問いに、シグは淡い苦笑を浮かべる。
『気づいていて言ってるな? そう。俺と、ザットは。梁は違う。…創樹の意見も聞きたいな。女同士、俺たちの目からは見えないことも見えるだろう。……梁は、ここにいるべき人間なんだろうか…』
『……優しいんですね』
シグの言葉に、創樹は淡い笑みを浮かべる。
『…何が優しいのかわからないな』
肩をすくめるシグに創樹はクスッと微笑む。
『〝ついてこれないなら家へ帰れ〟』
創樹は微笑んだままシグを見つめる。
『朦朧とする意識の中、聞こえてきた言葉です。…とっても優しい。…たぶん、そうだと思います。梁さんは無理をする必要は無いんだから…。背伸びをしなくても、意地を張らなくても…梁さんは今すぐにでも戻れる』
創樹は視線を落とし、持っているバッグを見つめる。峰春の選んだバッグだ。
『普通にありきたりの生活。大学にでも行って、あるいはOLにでもなって。友達と話題のお店でランチをして、洋服や靴、おしゃれのことであれこれと言い合う。とりとめもないおしゃべりをして、あの人はカッコイイ、この人の服のセンスは抜群だ、そんなことを言っている方が…ずっと梁さんは生き生きしてる』
『…創樹の目から見ても、そうなのか…。……俺とザットは、今更どうしようもないが…梁は正直、向いていないんだ。こんな仕事に…。俺がどうこう言うことじゃないんだろうがね』
シグは肩をすくめる。それから創樹を見つめ直す。
『………創樹はどうなんだい…?』
『…私、ですか…?』
創樹がバッグから顔をあげ、シグの瞳を真っ直ぐ見つめ返す。
『…ああ。随分と厄介なことになってるじゃないか。それがいいとか悪いとかは言わないが。…創樹は宿主であって宿主じゃない。一番複雑だと思うがね?』
『…私は……私も、いまさらどうしようもありませんよ。兄にも知れたことですし。この件が済んだらどうするか考えます』
『戻る気は? 元のように生活して、学校に通って…』
『何もかも今まで通りというわけには行きません…。二度とこんなことが起きないという保証もありません。…それに、巻き込んでしまったことは反省していますが、兄に知れて、ちょっと、ホッとしてるんです。兄を欺く必要がなくなったから…』
静かな声で言った創樹に、シグもそれ以上何も言うことなく、静かに頷いた。
『……やっぱり優しい…』
創樹はシグを見て微笑する。
『…何がだ?』
シグは片方の眉を持ち上げる。
『シグも、ザットも…鬼に集中的に狙われていた時、密かにかなりの数を引き受けていてくれたでしょう? それに教会の時も、すぐに来てくれました』
『それが俺たちの仕事だ』
何でもないことのようにシグは答える。あえて事務的な口調で。その口調にも、創樹はクスッと微笑む。
『仕事なら、この件が終わったあとの私のことなど、気にかける必要はないはずです』
笑みを向ける創樹に、シグは微苦笑を浮かべ、肩をすくめた。
『さとい人間を相手にするのも善し悪しか』
初めて会った時の台詞を、シグは繰り返した。創樹とシグは顔を見合わせ、思わず笑っていた。
ひとしきり笑い、ふと、創樹が車窓に目をやる。
『そういえばお二人はもう、着いてある時間ですね…。ちゃんと電車を降りられたでしょうか…』
『いざとなれば跳ぶさ。それよりも…いつもの調子で言い合いをしてないかが心配だな…。とめる者もいない上、馬鹿みたいに目立つだろうに』
シグの呟きに思わず創樹もいつもの二人の様子を思い出す。
シグと創樹は顔を見合わせ、眉根を寄せていたが、やがて耐え切れず吹き出した。多分、シグと創樹以上に目立っているに違いない。
『まぁ、あいつらのことはあいつらに任せて、俺たちは俺たちの仕事をしよう』
ひとしきり笑ってようやく一息つくと、シグは声を落として言った。創樹も頷いた。
『…だいぶふところに入り込んできたな』
『ええ』
口調を変えつぶやいたシグに、創樹も頷く。例の機械の作用をひしひしと感じていた。今ここでシグがロードを出せば、ロードは引きずられるだろう。
『問題は?』
『ちょっと違和感があるくらいで。後は問題ありません』
創樹の言葉にシグは頷き、二人はどちらからともなく再び図面を見つめ、作戦を練る作業に戻った。
先発隊のザットと峰春は、創樹が防護策を手に入れる間に、力の温存をしつつ、S市に着いたら目立つところの鬼を祓ってまわり、本間の気をひく。電車を使うのは、本間の裏をかく狙いがある。
気配を感じ取れる範囲に、突如神気を感じたら、当然本間は警戒する。それがたとえ、本間が気配を感じ取れる限界ラインであってと。
だが、電車だと、気配を感じ取れる限界線の内側に徐々に踏み入ることになるので、ふと気づいたら、神気を感じる…という結果になるはずだ。
後発隊のシグと創樹は、すでに終わらせた創樹の防護策と、幻と現から記憶をもらって情報を増やし、電車の中で作戦を完全に練り上げてS市に入り、先発隊と合流することだ。
臨機応変な対応が求められた、創樹の防護策だけでなく、作戦を練るという意味でも、この組み合わせ以外ありえなかった。
たとえ、色んな意味でザット・峰春組に、多少の不安はあっても。
『あらかじめ決めていたように、機械の停止および破壊にまわる組と、ホンマをひきつける組に分かれたがいいな』
『それって、建物の中で活動する組と、外で活動する組、って意味ですよね? 二人ずつですか?』
『いや。結局は一人ずつになるだろうな。人数が居ない。建物のなかでは制御室と機械に分かれての活動。それに陽動に一人。あとはホンマをひきつける人間』
『制御室は跳んで行けば不意をつけるでしょうし…必要なのは破壊力ですよね。機械は…とめるには知識なりなんなりがあったがいいでしょう? 私が行って、幻と現に記憶を探ってもらいながらとめましょうか?』
『だが…創樹自身が一番機械の影響を受けている。そんなに近くまで行って大丈夫か?』
『技術者の腕を信じましょう』
創樹は自分の腕にはめた腕時計のようなものをシグに示した。
『自分たちの作った機械が敵にまわるとは皮肉だな。気の毒に』
ちっとも気の毒そうには見えない笑みをシグは浮かべた。
『肝心の本間さんはどうします?』
『ホンマは俺がひきつける。制御室内はザットが適任だ。計画性は無いが破壊は得意だしな。陽動は梁。本人が混乱してやたら跳ぶから、相手はますます混乱する。陽動にぴったりだろう』
さらりと失礼なことをシグは言ってのけた。
『一番難しいのは創樹だな。機械をとめてもまた動かされれば意味がない。しかし、機械を壊せば鬼があふれるかもしれないし、もしかして戻る可能性のある雲の力も戻らなくなるかもしれない』
『それに、鬼を生産する為に〝入院〟させられている人たちのことも考えないと…』
『後からまとめて浄化が早いだろうな…』
シグが呟き、創樹も頷いた。
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