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神宿り  作者:
第6章
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4

『…創樹、君は何故? 仕事でもなく、命じられたわけでもなく。初めからずっと今回の件に真剣に取り組んでいる。利益があるわけでも、感謝が得られるわけでも、名誉があるわけでもない。何故そうまでして、ホンマをとめようとする?』


『……自己満足、なんでしょうね…。自分のためだと思います。何かすることで、何のために生きているのかを確認したいんだと思います。それに…もう、つらい目にあっている宿神を見るのは嫌です』

 創樹は静かに答えた。それから穏やかなままの瞳で淡い…笑みにも、苦笑にも似た表情を浮かべる。


『…私からもひとつ、聞いていいですか…?』

『答えられることであればいいが…』


『…宿主は大なり小なり影を背負っていると言った時も、本間さんのようになっていた可能性があるといった時も…“俺とザットは”って、言いましたよね…? あえて、そう言ったんですか…?』

 創樹の問いに、シグは淡い苦笑を浮かべる。


『気づいていて言ってるな? そう。俺と、ザットは。梁は違う。…創樹の意見も聞きたいな。女同士、俺たちの目からは見えないことも見えるだろう。……梁は、ここにいるべき(・・・・・・・)人間なんだろうか(・・・・・・・・)…』


『……優しいんですね』

 シグの言葉に、創樹は淡い笑みを浮かべる。

『…何が優しいのかわからないな』

 肩をすくめるシグに創樹はクスッと微笑む。


『〝ついてこれないなら家へ帰れ〟』

 創樹は微笑んだままシグを見つめる。

朦朧(もうろう)とする意識の中、聞こえてきた言葉です。…とっても優しい。…たぶん、そうだと思います。梁さんは無理をする必要は無いんだから…。背伸びをしなくても、意地を張らなくても…梁さんは今すぐにでも戻れる』

 創樹は視線を落とし、持っているバッグを見つめる。峰春の選んだバッグだ。


『普通にありきたりの生活。大学にでも行って、あるいはOLにでもなって。友達と話題のお店でランチをして、洋服や靴、おしゃれのことであれこれと言い合う。とりとめもないおしゃべりをして、あの人はカッコイイ、この人の服のセンスは抜群だ、そんなことを言っている方が…ずっと梁さんは生き生きしてる』


『…創樹の目から見ても、そうなのか…。……俺とザットは、今更どうしようもないが…梁は正直、向いていないんだ。こんな仕事に…。俺がどうこう言うことじゃないんだろうがね』

 シグは肩をすくめる。それから創樹を見つめ直す。


『………創樹はどうなんだい…?』

『…私、ですか…?』

 創樹がバッグから顔をあげ、シグの瞳を真っ直ぐ見つめ返す。


『…ああ。随分と厄介なことになってるじゃないか。それがいいとか悪いとかは言わないが。…創樹は宿主であって(・・・・・・)宿主じゃない(・・・・・・)。一番複雑だと思うがね?』

『…私は……私も、いまさらどうしようもありませんよ。兄にも知れたことですし。この件が済んだらどうするか考えます』


『戻る気は? 元のように生活して、学校に通って…』

『何もかも今まで通りというわけには行きません…。二度とこんなことが起きないという保証もありません。…それに、巻き込んでしまったことは反省していますが、兄に知れて、ちょっと、ホッとしてるんです。兄を(あざむ)く必要がなくなったから…』

 静かな声で言った創樹に、シグもそれ以上何も言うことなく、静かに頷いた。


『……やっぱり優しい…』

 創樹はシグを見て微笑する。

『…何がだ?』

 シグは片方の眉を持ち上げる。

『シグも、ザットも…鬼に集中的に狙われていた時、密かにかなりの数を引き受けていてくれたでしょう? それに教会の時も、すぐに来てくれました』

『それが俺たちの仕事だ』

 何でもないことのようにシグは答える。あえて事務的な口調で。その口調にも、創樹はクスッと微笑む。


『仕事なら、この件が終わったあとの私のことなど、気にかける必要はないはずです』

 笑みを向ける創樹に、シグは微苦笑を浮かべ、肩をすくめた。


『さとい人間を相手にするのも善し悪しか』

 初めて会った時の台詞を、シグは繰り返した。創樹とシグは顔を見合わせ、思わず笑っていた。


 ひとしきり笑い、ふと、創樹が車窓に目をやる。

『そういえばお二人はもう、着いてある時間ですね…。ちゃんと電車を降りられたでしょうか…』

『いざとなれば跳ぶ(・・)さ。それよりも…いつもの調子で言い合いをしてないかが心配だな…。とめる者もいない上、馬鹿みたいに目立つだろうに』

 シグの呟きに思わず創樹もいつもの二人の様子を思い出す。


 シグと創樹は顔を見合わせ、眉根を寄せていたが、やがて耐え切れず吹き出した。多分、シグと創樹以上に目立っているに違いない。


『まぁ、あいつらのことはあいつらに任せて、俺たちは俺たちの仕事をしよう』

 ひとしきり笑ってようやく一息つくと、シグは声を落として言った。創樹も頷いた。


『…だいぶふところに入り込んできたな』

『ええ』

 口調を変えつぶやいたシグに、創樹も頷く。例の機械の作用をひしひしと感じていた。今ここでシグがロードを出せば、ロードは引きずられるだろう。


『問題は?』

『ちょっと違和感があるくらいで。後は問題ありません』

 創樹の言葉にシグは頷き、二人はどちらからともなく再び図面を見つめ、作戦を練る作業に戻った。


 先発隊のザットと峰春は、創樹が防護策を手に入れる間に、力の温存をしつつ、S市に着いたら目立つところの鬼を祓ってまわり、本間の気をひく。電車を使うのは、本間の裏をかく狙いがある。

 気配を感じ取れる範囲に、突如神気を感じたら、当然本間は警戒する。それがたとえ、本間が気配を感じ取れる限界ラインであってと。

 だが、電車だと、気配を感じ取れる限界線の内側に徐々に踏み入ることになるので、ふと気づいたら、神気を感じる…という結果になるはずだ。


 後発隊のシグと創樹は、すでに終わらせた創樹の防護策と、幻と現から記憶をもらって情報を増やし、電車の中で作戦を完全に練り上げてS市に入り、先発隊と合流することだ。

 臨機応変な対応が求められた、創樹の防護策だけでなく、作戦を練るという意味でも、この組み合わせ以外ありえなかった。

 たとえ、色んな意味でザット・峰春組に、多少の不安はあっても。


『あらかじめ決めていたように、機械の停止および破壊にまわる組と、ホンマをひきつける組に分かれたがいいな』

『それって、建物の中で活動する組と、外で活動する組、って意味ですよね? 二人ずつですか?』


『いや。結局は一人ずつになるだろうな。人数が居ない。建物のなかでは制御室と機械に分かれての活動。それに陽動に一人。あとはホンマをひきつける人間』

『制御室は跳んで(・・・)行けば不意をつけるでしょうし…必要なのは破壊力ですよね。機械は…とめるには知識なりなんなりがあったがいいでしょう? 私が行って、幻と現に記憶を探ってもらいながらとめましょうか?』


『だが…創樹自身が一番機械の影響を受けている。そんなに近くまで行って大丈夫か?』

『技術者の腕を信じましょう』

 創樹は自分の腕にはめた腕時計のようなものをシグに示した。


『自分たちの作った機械が敵にまわるとは皮肉だな。気の毒に』

 ちっとも気の毒そうには見えない笑みをシグは浮かべた。


『肝心の本間さんはどうします?』

『ホンマは俺がひきつける。制御室内はザットが適任だ。計画性は無いが破壊は得意だしな。陽動は梁。本人が混乱してやたら跳ぶから、相手はますます混乱する。陽動にぴったりだろう』

 さらりと失礼なことをシグは言ってのけた。


『一番難しいのは創樹だな。機械をとめてもまた動かされれば意味がない。しかし、機械を壊せば鬼があふれるかもしれないし、もしかして戻る可能性のある(ユン)の力も戻らなくなるかもしれない』


『それに、鬼を生産する為に〝入院〟させられている人たちのことも考えないと…』

『後からまとめて浄化が早いだろうな…』

 シグが呟き、創樹も頷いた。


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