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神宿り  作者:
第6章
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90/103

3

遅くなりましたー

今日は、書けるとこまで無理せず更新します。

 シグは粗方の建物の間取りを図面に起こし、しばし見つめる。不明な部分が多いが、これは仕方ない。機械の位置も描き込む。幻と現からもらった記憶と照らし合わせ、今描いた図面に不備がないか創樹にも確認してもらうことにする。


 そう思った時、創樹が戻ってきた。

「逃げなくていいじゃん」

「俺たちさ、W大に通ってんだけど…」

 よくわからない男たちを引き連れて。


「携帯だけも教えてくんない?」

「ほら、出会いって大切じゃん。こんなところで会ったのも、何かの縁だしさ」

 創樹に代わる代わる話しかける男たちを、まるっと無視して、通路をやってくる創樹に、シグが苦笑して立ち上がる。


『創樹、彼らは?』

 一応、本当に一応、念のため、シグは近づいてきた創樹に問う。

『………さぁ? 何か、ずっと付いてきました』

 不思議そうに創樹は首を傾げる。

 その後ろで、創樹について来た三人の男は驚愕の表情で固まった。


 それもそのはず。今まで追いかけて来た少女が、明らかに日本人とは思えない長身の男と、当たり前のように会話をし始めたので。

 しかも、一九〇センチ近くある長身と、服を通しても判る引き締まった体から、静かな威圧感をかもし出している。おまけに職業が俳優やモデルだと言われても納得の整った顔立ち。透き通るような肌の色に、鋼色の瞳と褐色の髪。

 全ての要素において、格の違いを見せつけられ、しかもそんな相手に胡乱な目を向けられている。


 シグは無言で、スマートに創樹に手を差し伸べ、座席の窓側へとエスコートした。

 少し首をかしげたものの、創樹は逆らうことなく、ぽすっと、座席におさまる。


『彼女に、何か御用でも?』

 シグは冷ややかな一瞥を男たちに投げつける。

「「「あ…いえ…」」」

 男たちは気圧されたようにそれだけを言って黙り込む。

『では、お引き取り願えるかな?』

 言葉というより、軽く顎で背後の通路を示したシグに、男たちはビクリと飛び上がり、我先にと通路を引き返していった。


『……? あ、携帯、ありがとうございました』

 不思議そうに駆け去る男たちをちらりと見やり、興味を失ったのか、礼を言って携帯電話を返す創樹。

『…どういたしまして』

 その反応に苦笑しつつも、シグは携帯電話を受け取った。


 自分の容姿に自覚がなさすぎるのはちょっとアレだが、華麗なまでにスルースキルを発揮する創樹に、無自覚なままがストレスもないだろうと、シグはあえて何もつたえない。

 本気でピンチの時には、宿神たちの力を借りて、ちょっと猫神たちに働いてもらえばいい。

 それに、おそらく、これまでの創樹の対応を見ていて、そこまでには至らない。

 そう、短い間にシグは内心結論づけた。


気を取り直し、本来の目的に戻る。創樹はシグのさし出す図面を覗き込んだ。シグの図面は正確で、創樹が幻と現からもらった記憶と寸分の違いもなかった。


『ただ、ひとつ付け加えたいことが』

『何だい?』

 首を傾げるシグに創樹は図面の一部を示した。


『ここのドアに、何か文字が書いてありましたよね?』

 創樹の言葉にシグは記憶をたどる。間違いない。確かに創樹の示すドアに、漢字で何か書いてあった。


『ああ。書いてあったな。これが?』

『中央制御室、って書いてありました』

 シグの問いに、創樹が微笑んだ。

『ほぅ…それは面白いことを聞いた』

 シグもニヤリと笑い、ペンで図面に“control room”と書き入れる。


『機械がここで、制御室がここ…。機械を直接ここでコントロールしていると言うより、館内全体の電気や空調、セキュリティなんかを掌握してるんだろうな…』

『では、そこが混乱すれば…』

『館内全部が混乱する。巧くいけば、電力の供給がストップされ…』

『機械もとまる…』

 創樹とシグは顔を見合わせ、フッと笑った。


『そんなに都合よく行かなかったとしても、少なくともセキュリティはとめられるだろう』

『セキュリティがとまれば、宿主でない人の相手をしやすくなりますね』

『ああ。一番注意しなければならないのは…ホンマ一人』

『その本間さんの、宿神は…? 宿神にも、それぞれ特質と言いますか…得意なことがあるんでしょう? 戦い方も宿神によって違いますし…』


『……ハッキリ言うと…不明だ』

『不明…? どうして…』

『三年も組織に居たのに、と聞きたいのだろうが…ヤツは恐らく“悪い意味での鏡”なんだろうな…』


『“悪い意味での鏡”…?』

『ああ。一昨日、センキの件で創樹が力を使って、サイガと一緒に生命エネルギーの補給に行っただろう? 後からセンキも追いかけて行ったが…』

『…えっと…はい。そんなことがありましたね』

 随分昔のことのように感じる。


『その時にザットに宿主と宿神の関係について説明してたんだが…』

 シグは一昨日説明した宿主と宿神の精神的能力が正比例することや、鏡のような存在であること、そして〝悪い意味での鏡〟、つまり、宿主と宿神がまったく逆方向の意志や能力を持つ場合について軽く話した。


『つまり…本間さんとその宿神は〝悪い意味での鏡〟であり、反発しあっている、ということですか…?』

『反発しあう程度ならいい。だが、ホンマの場合恐らく宿神が優しすぎ、ホンマが凶暴すぎたんだ。完全に宿神を押し込め、組織にいる三年の間、一度たりともホンマは宿神を外に出したことはない』

『そんなの…ひどい…。宿神の力を利用するだけ利用して…』


『………創樹、この際だから言っておく。はっきり言うと、宿主はたいていどこかひねくれてる。素直な宿主なんてまずいない。理由はわかるね?』

『…宿主だから…?』

『そう。宿主として、宿神を宿して生まれてきた。その時点で普通じゃない(・・・・・・)という目で見られる。〝宿主でなければこんな目に遭わずにすんだのに…〟そう思うこともあるだろう。大なり小なり何か、影を背負ってる。生き抜くために、どこかひねくれる。俺やザットだって例外じゃない。そして…ホンマもね…』

 結局何が言いたいのかと、創樹は静かにシグを見つめる。


『…ホンマの両親は、他殺の可能性があると言ったろう?』

『…はい』

『……特殊な能力によって殺された可能性があるという意味だ。つまり…ホンマが殺した可能性があるんだよ。自分の両親を』

 創樹は息を呑んだ。


『宿主として生きていく上で、宿主でなければよかったと思うことだってある。自分が望んで宿主になったわけじゃないのに、どうして…と思う時期もある。…創樹がどうなのかは知らないけどね』

 シグは創樹の瞳を静かに見つめた。


『ホンマもそうなんだろう。ただ、その時期から抜け出していないだけで…抜け出せないで…ずっと、自分の運命を呪い続けているのかもしれない。…俺やザットが、ホンマのようになっていた可能性もある。…紙一重ってところさ。立場が逆転していた可能性もないとは言えない』

 シグは苦々しげな笑みを口許に浮かべる。


そんなシグを見て、瞼を閉じ、あの、元気で明るいザットの姿を創樹は思い出す。

『………でも………違うと思います』

『違う?』

 ゆっくりとまぶたを開け、自分を見上げる創樹に、シグは首を傾げる。


『越えてはならない一線を越えたのは、本間さんの意志でしょう? 少なくとも、シグやザットは、こちらがわに踏みとどまろうとしている。…自分がやっていること、やろうとしていることが正義で、本間さんのしていることが悪だと、言うつもりはありません。でも…』

 創樹は言葉に迷うかのように瞳を宙に泳がせる。シグは言葉をうながすことなく、静かに待った。


『…私は宿神と共に生まれたわけじゃないし、自分で砕牙たちと生きることを選んだから、こんなこと言えないのかも知れません』

 ゆっくりと、創樹が瞳をシグに戻す。


『でも、宿主に生まれたのはその人の責任じゃないけど…宿主として何をなしたかは、その人の責任だと思うんです。同じように宿主に生まれながら、本間さんのように人に危害を加え、鬼を増やすようなことをする人もいれば…シグやザット、それに梁さんのように、とめようとする人もいる。シグは紙一重で立場が逆転していたかも知れないって言いましたけど…でも、今の立場は…自分で選んだ道でしょう? 例え、お仕事であっても』

『…そうだな。嫌な仕事ならこんなに真剣にならない。ザットなどもっと極端だ。嫌な仕事の時は組織の文句ばかり言っている』

 静かにシグは頷いた。



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