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神宿り  作者:
第6章
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89/103

2

今回、ちょっと長いです。

「みゃう」

 猫の鳴き声に、シグは顔を上げた。

 ふと気づけば、四匹、五匹といつの間にか猫たちが戻ってきている。


 ここはS市。創樹が暮らし、本間が侵食した街に、シグは戻ってきていた。

 入り組んだ道の奥の廃屋。近所の人たちから猫屋敷と言われるほど、猫たちの溜まり場になっていた。

 見回す間にも、どこからともなく猫たちが戻ってきている。シグの感覚をもってしても、全てを把握するのは難しかった。


 だが、不意にシグは木に隠れた塀の上を見やった。多くの猫たちの中にいてさえ目をひく、漆黒の猫と、純白の猫。格段に美しい。

『ユメ、ウツツ。無事だったか』

 シグが微笑む。そう。シグは単独ではなく、猫神たちのみ(・・)を連れ、S市に戻っているのだ。


 当然、とばかりに鳴いて、猫神は塀から飛び降り、シグの元に駆けた。

『首尾は?』

 シグの問いに、純白の猫神が頷き、漆黒の猫神は、猫たちの間に声を投げる。

 一匹の一際立派な体格の雄猫が、のっしのっしと歩み寄ってきて、二柱の前に恭しくくわえていた物を置くと、引き下がった。白の猫神にそれを押しやられ、シグは拾い上げる。


『ありがとう』

 シグは大きな雄猫にも声を掛ける。しばしその瞳を見つめ返し、雄猫は太い鳴き声を一声上げ、寝そべる。シグは二柱に瞳を戻した。携帯電話を取り出しながら。


 電話を掛けると、すぐに相手が出る。相手は、猫神たちの宿主、創樹。

『やり残しはないか? 他にやっておいた方がよさそうなことなんかも』

シグが電話を繋げたまま、猫神たちに問う。

「みゃう」

「ミャッ」

 二柱の声を電話の創樹に聞かせ、問題がないことを確かめる。そしてシグは、二・三言だけ創樹と交わし、電話を切って二柱に腕を差し伸べた。

 幻と現がその肩に登る。


 本間への対策に、『木の葉を隠すなら森の中に隠せ。森がなければ森を作れ』という有名な言葉にならった。

 シグは猫神たちだけを連れてS市にもどり、幻と現は跳ばずに(・・・・)目立たないように、本間の拠点に侵入する。―――多くの猫に紛れて。


 この作戦が可能だったのは、ひとえに特殊な宿主と宿神たちーーつまり、創樹たちがいたからだ。

 普通の(・・・)宿神は、本間の機械の及ぶ範囲では、その姿を保っていられない。宿主は、宿神を戻した時に、少し苦しいだけで。

 一方、創樹の宿神たちは、外に出ていても、全く機械の影響がなかった。ただし、宿主である創樹が、その分の苦痛を、一手に引き受けるという形で。


 協力を申し出てくれた、長門にみてもらった(・・・・・・)ところ、創樹と他の宿主たちでは、宿神の魂の核のようなものの、宿り方が違ったらしい。


 だから、創樹には機械の影響の範囲の外にいてもらい、自由に動け、なおかつ記憶をたどることのできる猫神たちが動いた。

 跳ぶ(・・)と、本間にはわかってしまう。だから、わからないギリギリまで跳んで(・・・)シグが本間の拠点に近づき、あとは交通機関を使った。

 さらに、気配を悟られるギリギリでシグは待機し、あとは猫神たちの仕事。


 二柱を肩に乗せたシグは、跳んだ。

 もう一度。


 ふうっと軽くシグは息をつく。

 さすがにこの距離の往復は少し疲れる。珍しく汗が額から一筋流れ落ちる。

 と、光が己に吸い込まれるのを感じた。スーッと汗がひく。力も大分回復している。


『ありがとう。もう少し移動しようか。一箇所から生命エネルギーをとりすぎるのは不自然だしな』

 シグが創樹の肩に触れた。


 跳ぶ。


 山奥に移動していた。いつの間にそこに居たのか、脇にいる白虎に創樹が飛び乗ると、砕牙が駆け出す。

 砕牙の駆け抜けた場所の木の葉が、次々に枯れ落ち、地面の木の葉は一足早く土に返ろうとしていた。

 戻ってきた創樹が大きな光の塊をシグに触れさせる。

 スーッと光がシグの中に消えた。


『全部回復したよ。ありがとう。創樹は大丈夫か?』

『ええ。私も回復しましたので』

 頷いた創樹は虎から降りると、その毛並みに掌をうずめた。

 宿神と距離が離れていると、その分、宿神の力を保つために、余計にエネルギーがいる。幻と現が猫神だから、創樹も無理のない範囲で維持できた。


 ちなみに、シグがこの役割なのは、往復分は跳ぶ(・・)だけの力があり、冷静に交通機関を利用でき、本間の拠点近くで不測の事態にも対応できるからだ。

 そして、創樹の体質(・・)のおかげて、跳んだ(・・・)あとに、シグがエネルギーを回復できるからこそ、可能になった作戦でもある。



『さて、記憶といこうか』

「「みゅ」」

 シグの言葉に二匹の猫が鳴き、光った。


『これか…』

 シグが自分の持っていた腕時計のようなそれを、創樹に渡す。創樹は砕牙から手をはなして受け取り、手首にはめてから脇の突起を押す。

 一瞬周りの空気が変わったような気がする。


『いいようだな。しかし…まったく、創樹にもユメにもウツツにも脱帽だよ』

 伸びをしながら、つぶやくシグ。

 創樹も、まずは第一段階クリアで、少しホッとし、少しこわばっていた体をゆるめる。


 創樹なくして、この作戦は、ありえなかった。本間の防御策を手に入れたのは、完全に猫神たち任せの策だった。記憶をたどって、本間に近づき、猫に紛れてそれを手に入れるなんて、記憶に密接に関わる、幻・現術(げんじゅつ)を司る猫神たちにしかできない。

 本間が、たまたま拠点を外した瞬間を狙ったのも、正解だった。


 本来は、本間が防御策である、この腕時計型の機械の予備を、作らない筈はない、という想定の元での潜入。

 案の定、記憶をたどれば予備もあったが、たまたま本間がこの機械を外していたので、余計に楽に手に入ったのもラッキーだ。


 この防御策が手に入らなかった場合は、創樹は昨夜泊まった宿で、お留守番予定だった。

 組織の人間であるシグたちだけで、本来は動く筈なので、これは最初の前提事項。いくら、創樹の希望でも、立場的にシグたちが許せるのは、あくまでも"防護策"の、条件付き。


 軽くストレッチを終えた創樹とシグに、虎が軽くうなり声を上げる。

『電車の時間は、だそうです』

『ああ、そうだな。ありがとう、サイガ。行こうか』

 創樹の訳した言葉にシグは頷き、了解した虎は消えた。シグが創樹の肩に触れる。

 跳んだ。


「…っと。慣れないな、やっぱり」

 長門が苦笑する。

「ザットさんと梁さんは無事に電車に乗りましたよ。はい、創樹さんとシグさんの切符」

「すみません、何から何までありがとうございます」

「アリガトウ、ゴザイマス」

 創樹とシグは礼を言い、切符を受けとる。創樹は長門に借りていた携帯電話を返した。猫たちが消える。


「じゃあ、失礼します」

「オセワニ、ナリマシタ」

「気をつけて。報告待ってるよ」

 頭を下げる二人に長門は微笑んだ。創樹とシグは駅前にとめられた長門の車から降り、改札口へと足を速める。

 跳ぶ先(・・・)を気にしなくていいように、長門が車を用意してくれ、さらにはザットと峰春の案内役となっていた。


 改札を通り、階段を登って降りると、電車に乗り込む。

 二人が座席を見つけたと同時に、電車のドアが閉まった。

 ひとまず席に腰かける。


『確認と行こうか』

 シグが地図をとり出し、創樹が頷く。

 ひそひそ話をするように声は落とす。いくら会話は英語だとは言え、周囲に英語を理解している者がいないとも限らない。それに二人は目立つ。おまけに今日は月曜日なのに、明らかに学生の創樹がいるので余計に目をひく。


 位置を確認し、地図に印を入れていった。やがてシグが苦笑する。

『なるほどね。小高い山の方か。馬鹿と煙と権力者は高いところに登りたがるとは聞くが』

『恐らくこの辺り一帯が教団の持ち物でしょうね。施設がたくさん…』

『ああ。狙うは…ここ』

 シグが赤で丸をつけた場所を示す。


『建物内も軽く知りたいな。ユメとウツツの記憶を頼りに、出来る範囲で図面に起こしてみるよ』

『じゃあ、私はその間に兄や久保田さんたちに電話して、昨日の電話の後、街の状況はどうなったのか確認してきます』

『電車の中で携帯電話は禁止じゃないのか?』

『確か前の方に電話できるスペースがあったと思います』

『そうか。じゃあ、頼む』

 シグは携帯電話をさし出した。頷いて創樹は受け取り、車内を移動する。公衆電話の置かれた場所に、電話の出来るスペースがあった。

 創樹はまず、兄に電話をかけることにした。




今回は説明があちこちに。

わかりにくかったら、教えて下さい!&アドバイス下さい!

質問にも答えますし、もうちょっと何とかならないか考えます( ;´Д`)


ちなみに「S市」って…と思った方、一応、心の中でここ!って舞台はあるんです。でも、そのまま使うのもアレだし、名前考えるのも…ぶっちゃけ面倒だったんで!笑

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