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今回、ちょっと長いです。
「みゃう」
猫の鳴き声に、シグは顔を上げた。
ふと気づけば、四匹、五匹といつの間にか猫たちが戻ってきている。
ここはS市。創樹が暮らし、本間が侵食した街に、シグは戻ってきていた。
入り組んだ道の奥の廃屋。近所の人たちから猫屋敷と言われるほど、猫たちの溜まり場になっていた。
見回す間にも、どこからともなく猫たちが戻ってきている。シグの感覚をもってしても、全てを把握するのは難しかった。
だが、不意にシグは木に隠れた塀の上を見やった。多くの猫たちの中にいてさえ目をひく、漆黒の猫と、純白の猫。格段に美しい。
『ユメ、ウツツ。無事だったか』
シグが微笑む。そう。シグは単独ではなく、猫神たちのみを連れ、S市に戻っているのだ。
当然、とばかりに鳴いて、猫神は塀から飛び降り、シグの元に駆けた。
『首尾は?』
シグの問いに、純白の猫神が頷き、漆黒の猫神は、猫たちの間に声を投げる。
一匹の一際立派な体格の雄猫が、のっしのっしと歩み寄ってきて、二柱の前に恭しくくわえていた物を置くと、引き下がった。白の猫神にそれを押しやられ、シグは拾い上げる。
『ありがとう』
シグは大きな雄猫にも声を掛ける。しばしその瞳を見つめ返し、雄猫は太い鳴き声を一声上げ、寝そべる。シグは二柱に瞳を戻した。携帯電話を取り出しながら。
電話を掛けると、すぐに相手が出る。相手は、猫神たちの宿主、創樹。
『やり残しはないか? 他にやっておいた方がよさそうなことなんかも』
シグが電話を繋げたまま、猫神たちに問う。
「みゃう」
「ミャッ」
二柱の声を電話の創樹に聞かせ、問題がないことを確かめる。そしてシグは、二・三言だけ創樹と交わし、電話を切って二柱に腕を差し伸べた。
幻と現がその肩に登る。
本間への対策に、『木の葉を隠すなら森の中に隠せ。森がなければ森を作れ』という有名な言葉にならった。
シグは猫神たちだけを連れてS市にもどり、幻と現は跳ばずに目立たないように、本間の拠点に侵入する。―――多くの猫に紛れて。
この作戦が可能だったのは、ひとえに特殊な宿主と宿神たちーーつまり、創樹たちがいたからだ。
普通の宿神は、本間の機械の及ぶ範囲では、その姿を保っていられない。宿主は、宿神を戻した時に、少し苦しいだけで。
一方、創樹の宿神たちは、外に出ていても、全く機械の影響がなかった。ただし、宿主である創樹が、その分の苦痛を、一手に引き受けるという形で。
協力を申し出てくれた、長門にみてもらったところ、創樹と他の宿主たちでは、宿神の魂の核のようなものの、宿り方が違ったらしい。
だから、創樹には機械の影響の範囲の外にいてもらい、自由に動け、なおかつ記憶をたどることのできる猫神たちが動いた。
跳ぶと、本間にはわかってしまう。だから、わからないギリギリまで跳んでシグが本間の拠点に近づき、あとは交通機関を使った。
さらに、気配を悟られるギリギリでシグは待機し、あとは猫神たちの仕事。
二柱を肩に乗せたシグは、跳んだ。
もう一度。
ふうっと軽くシグは息をつく。
さすがにこの距離の往復は少し疲れる。珍しく汗が額から一筋流れ落ちる。
と、光が己に吸い込まれるのを感じた。スーッと汗がひく。力も大分回復している。
『ありがとう。もう少し移動しようか。一箇所から生命エネルギーをとりすぎるのは不自然だしな』
シグが創樹の肩に触れた。
跳ぶ。
山奥に移動していた。いつの間にそこに居たのか、脇にいる白虎に創樹が飛び乗ると、砕牙が駆け出す。
砕牙の駆け抜けた場所の木の葉が、次々に枯れ落ち、地面の木の葉は一足早く土に返ろうとしていた。
戻ってきた創樹が大きな光の塊をシグに触れさせる。
スーッと光がシグの中に消えた。
『全部回復したよ。ありがとう。創樹は大丈夫か?』
『ええ。私も回復しましたので』
頷いた創樹は虎から降りると、その毛並みに掌をうずめた。
宿神と距離が離れていると、その分、宿神の力を保つために、余計にエネルギーがいる。幻と現が猫神だから、創樹も無理のない範囲で維持できた。
ちなみに、シグがこの役割なのは、往復分は跳ぶだけの力があり、冷静に交通機関を利用でき、本間の拠点近くで不測の事態にも対応できるからだ。
そして、創樹の体質のおかげて、跳んだあとに、シグがエネルギーを回復できるからこそ、可能になった作戦でもある。
『さて、記憶といこうか』
「「みゅ」」
シグの言葉に二匹の猫が鳴き、光った。
『これか…』
シグが自分の持っていた腕時計のようなそれを、創樹に渡す。創樹は砕牙から手をはなして受け取り、手首にはめてから脇の突起を押す。
一瞬周りの空気が変わったような気がする。
『いいようだな。しかし…まったく、創樹にもユメにもウツツにも脱帽だよ』
伸びをしながら、つぶやくシグ。
創樹も、まずは第一段階クリアで、少しホッとし、少しこわばっていた体をゆるめる。
創樹なくして、この作戦は、ありえなかった。本間の防御策を手に入れたのは、完全に猫神たち任せの策だった。記憶をたどって、本間に近づき、猫に紛れてそれを手に入れるなんて、記憶に密接に関わる、幻・現術を司る猫神たちにしかできない。
本間が、たまたま拠点を外した瞬間を狙ったのも、正解だった。
本来は、本間が防御策である、この腕時計型の機械の予備を、作らない筈はない、という想定の元での潜入。
案の定、記憶をたどれば予備もあったが、たまたま本間がこの機械を外していたので、余計に楽に手に入ったのもラッキーだ。
この防御策が手に入らなかった場合は、創樹は昨夜泊まった宿で、お留守番予定だった。
組織の人間であるシグたちだけで、本来は動く筈なので、これは最初の前提事項。いくら、創樹の希望でも、立場的にシグたちが許せるのは、あくまでも"防護策"の、条件付き。
軽くストレッチを終えた創樹とシグに、虎が軽くうなり声を上げる。
『電車の時間は、だそうです』
『ああ、そうだな。ありがとう、サイガ。行こうか』
創樹の訳した言葉にシグは頷き、了解した虎は消えた。シグが創樹の肩に触れる。
跳んだ。
「…っと。慣れないな、やっぱり」
長門が苦笑する。
「ザットさんと梁さんは無事に電車に乗りましたよ。はい、創樹さんとシグさんの切符」
「すみません、何から何までありがとうございます」
「アリガトウ、ゴザイマス」
創樹とシグは礼を言い、切符を受けとる。創樹は長門に借りていた携帯電話を返した。猫たちが消える。
「じゃあ、失礼します」
「オセワニ、ナリマシタ」
「気をつけて。報告待ってるよ」
頭を下げる二人に長門は微笑んだ。創樹とシグは駅前にとめられた長門の車から降り、改札口へと足を速める。
跳ぶ先を気にしなくていいように、長門が車を用意してくれ、さらにはザットと峰春の案内役となっていた。
改札を通り、階段を登って降りると、電車に乗り込む。
二人が座席を見つけたと同時に、電車のドアが閉まった。
ひとまず席に腰かける。
『確認と行こうか』
シグが地図をとり出し、創樹が頷く。
ひそひそ話をするように声は落とす。いくら会話は英語だとは言え、周囲に英語を理解している者がいないとも限らない。それに二人は目立つ。おまけに今日は月曜日なのに、明らかに学生の創樹がいるので余計に目をひく。
位置を確認し、地図に印を入れていった。やがてシグが苦笑する。
『なるほどね。小高い山の方か。馬鹿と煙と権力者は高いところに登りたがるとは聞くが』
『恐らくこの辺り一帯が教団の持ち物でしょうね。施設がたくさん…』
『ああ。狙うは…ここ』
シグが赤で丸をつけた場所を示す。
『建物内も軽く知りたいな。ユメとウツツの記憶を頼りに、出来る範囲で図面に起こしてみるよ』
『じゃあ、私はその間に兄や久保田さんたちに電話して、昨日の電話の後、街の状況はどうなったのか確認してきます』
『電車の中で携帯電話は禁止じゃないのか?』
『確か前の方に電話できるスペースがあったと思います』
『そうか。じゃあ、頼む』
シグは携帯電話をさし出した。頷いて創樹は受け取り、車内を移動する。公衆電話の置かれた場所に、電話の出来るスペースがあった。
創樹はまず、兄に電話をかけることにした。
今回は説明があちこちに。
わかりにくかったら、教えて下さい!&アドバイス下さい!
質問にも答えますし、もうちょっと何とかならないか考えます( ;´Д`)
ちなみに「S市」って…と思った方、一応、心の中でここ!って舞台はあるんです。でも、そのまま使うのもアレだし、名前考えるのも…ぶっちゃけ面倒だったんで!笑




