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神宿り  作者:
第6章
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92/103

5

またやってしまった…

この前のページ、最初の投稿で、早まって投稿してしまい、あとで追加の文章加えてます。

投稿後、すぐに読んでくださった方は、お手数ですが前のページの最後の方、ご確認お願いしますm(_ _)m



 動物図鑑を開く時、必ずと言って良いほど始めに開くページがあった。

 別にそのページを見たい訳ではない。むしろ、忌避し(さけ)ていた。なのに何故か、気がつけばいつもそのページの動物に見入っていた。


 自然とそのページに開き癖がつくほどに、いつもいつも、毎回図鑑を手に取るたびに、そのページを見ているのだ。

 親子で書かれたその動物。


 別に憶えたい訳でもないのに、自分はこの動物の注釈に書かれた体長や生息地域、生態を空で口ずさめる。

 じっと見入っている己に気づいた時、いつも、深い嫌悪感を覚えた。


 なのに何故か、また次に動物図鑑を手に取った時には、そのページを開いている。

 それならばと、図書館に置いてある動物図鑑を見て居たときも、いつの間にか、自分はその動物のページを見つけ出し、見入っていた。


 だから、動物図鑑が嫌いになった。

 深く深く嫌悪する動物の載っている、動物図鑑が。


 愛情に満ちた眼差しが気に入らなかった。

 仲良さげな親子が気に入らなかった。

 己に向けられる気遣う瞳が気に入らない。


 今すぐ消してしまいたくなる。

 それなのに…その存在はこの身から決して消えることはない。

 我慢の限界に達し、キレる。そうすれば、ドアが吹き飛び、人が吹き飛び、辺りが破壊される。

 だが、その力すらも、その動物がいるからだと思うとおぞましくなる。

 何もかもが嫌いだった。

 何もかもが気に入らなかった。




「気味の悪い子」

 汚らわしいものでもみるような女の瞳。

 自分がこの女の腹から生まれたのだと思うと、おぞましくなる。


「あんたのせいで何もかも滅茶苦茶だわ」

「こいつさえいなければ…」

 たたきつけられる言葉。殴られても、蹴られても、すぐにその傷は癒えた。殴った方が殴った手の痛みを忘れる前に、自分の傷は癒えてしまった。


「化け物め」

 気味の悪い瞳で見られるのも、慣れていた。この低能な生き物が自分の父親だと思うのも嫌だった。


 飛び出して自分を守ろうと立ちはだかる動物。気遣う瞳が向けられる。殴りかかる拳の前に飛び出す動物。その動物が、気に入らなかった。こんな動物居なければいい。そう思うと、動物は消えた。


「化け物を出すんじゃない」

 羽交い絞めにして殴られる。でも、次の瞬間痛みはすーっと引いていく。





 無神経な言葉に、浴びせられる視線に、潰されそうだった。

 壊されそうだった。




 ………壊されるくらいなら、壊シテシマエ…。




 自分の中から、もう一人の自分が言った。



 何故、自分はこんな力を持って生まれてしまったのか…。

 何故、疎まれればならないのか…。


 考えて、考えて、それでも答えは見つからなくて、

 何を考えているかさえ、わからなくって…

 考えるのを、放棄した。




 もう、そんなこと、関係ない…。




 低俗な生き物に触れられているのが嫌だ。

 ある時、嫌悪が限界に達し、腕を振り払った。

 羽交い絞めにしていた女も、自分を殴っていた男も、吹き飛んでいた。


 自分の力の使い道に気づいた瞬間だった。


 それ以来、幾度殴られても、少し力を解放すれば男も女も吹き飛んだ。やがて二人は、自分を殴らなくなった。

 自分も二人に興味をなくした。


 同じ空間に生活していても、会話する必要もなかった。この男と女はただ奴隷のように冷蔵庫や棚に食料を補充する。それだけでいい。その程度の能力しかないのから。

 幼い頃から大して変わらなかった感情。


 ただ…冷ややかな心に徐々に降り積もる苛立ち。

 憎しみという言葉も知らない頃から、徐々に降り積もってきた感情。

 道路で擦れ違う人間、己の周りで生活する人間、己の目の前を横切る犬猫、自分の周りで生きるあらゆる物が不快だった。


 あらゆる物が目障りだった。

 みんな消えてしまえばいい。

 みんな、なくなってしまえばいい。

 ただ、そう思っていた。

 友達など、いらなかった。

 低俗な人種と交わるほど、自分は堕ちていない。

 自分の周りの生き物たちは、ただ、自分に仕えていればそれでいい。

 それが、分相応だ。





 本間はふっと我に返る。

 力をそばで感じた。

 奴らが戻ってきたか…。

 本間はにやりと唇を歪めた。

 今度はいいようにはさせない。


 だが、次の瞬間本間は眉根を寄せる。力の方向が、先ほど己が出てきた場所に程近い。

 本間は跳び、奥の院に戻った。


 いつもなら、ひざまずく人間たちがいる。だが、今は姿が見えず、散り散りにうずくまっている。

「何事だ」

 本間は不機嫌な声を発した。


 途端、びくりと空気が帯電し、周囲に男たちが集まり、ひざまずく。

「猫が大群でおしよせ、邸内は大混乱となっておりまして…」

「猫などどこにいる?」

「は。先ほど引き上げたようでして…」

 ぶるぶると震えながら男は報告する。


 本間は瞳を鋭くし、辺りを探った。

「……なるほど」

 本間が怒りを含んだ声でつぶやいた。次の瞬間、机がはじけとび、震えていた男に破片があたる。男はその場に崩れ落ちた。他の人間がひぃっと息を呑むが、本間はそんなことよりも肩についた木屑の方が気にくわない、とばかりに軽く払った。


「まんまとやられおって…」

 低能な生き物たちには大して期待していなかった。

 不意に、扉がたたかれる。

 本間が扉に手を伸ばすと、扉が勢い良く開いた。


 外にいた男が扉にぶつかったようだ。

 だが、その男は微塵も表情を変えず、一礼した。


「理事会よりのご伝言で御座います。本間様を信頼しているが故、こちらのことはお任せし、それ相応の報酬もご用意致しましたのに、本間様がついていながらのこたびの不手際、一体どういうおつもりか、と。状況をお知らせ願いたく参じて御座います」

 慇懃無礼なほど丁重な男に、本間は『黒田の犬が…』と内心軽蔑しつつ、

「隠れ潜んでいた虫けらどもがようやく動き始めただけのこと。これより駆除に入ると伝えろ」

「は。くれぐれもお間違いのなきようお祈り申し上げます」

 男は見本のような一礼すると部屋を出て行った。


 男の足音が遠ざかる。と、次の瞬間、扉がはじけ飛ぶ。

 クツクツと笑いを漏らす本間に、室内にいた男たちは身を震わせ、ただ固まっていた。

「機械の出力を最大に上げろ。邸内全てに緊急体制だ。指示を出す。各主任をここへ」

 続けて事務的に淡々と言った本間。室内は一瞬静まり返る。


 バンッという音と共に部屋の椅子がはじけ飛んだ。

「その耳は飾りか! 行け」

 本間の声に、ハッと我に返った男たちは一斉に返事をして、逃げるように部屋を出て行った。


 本間は息苦しさを感じる。機械の出力を最大にしたためだろう。腕時計型の制御装置を手にしようとし、それが無いことに気づいた。

「………やつらか…」

 本間は苛立たしげにつぶやく。

 それから、鬼を集中させていた場所に跳ぶ。


 数箇所見回り、本間は確信した。鬼が消えている場所が…。

「こそこそと動きやがって…」

 本間ははき捨て、部屋に戻った。

 集まり始めていた男たちがびくりとする。集まるものから順に、本間は次々と指示を出した。





いよいよ、出てきました。

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