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神宿り  作者:
第5章
85/103

13

『さ~てと、メシメシ!』

『その前に温泉入りましょうよ。汗臭いわ』

『食事の時間はどうするつもりだ?』

『多少融通利かせてもらっていいでしょ? 何なら先に食べててもいいわ。ねぇ、ソウジュ』

 峰春に尋ねられ、創樹は戸惑いつつも、頷いた。


 一番不満顔だったザットも、汗だくなので何も言えない。先に食べてていいという言葉にも、皆で食ったが美味いとザットが認めたため、結局皆で温泉に入ってから食事、ということになり、まずはラケットを返しに行くことにする。

 ラケットを返してついでに先に汗を流したいから食事を少しずらしてもらえないか頼むと、快諾が返って来た。皆は一旦部屋へ行き、着替えを持って温泉へと向かう。その間にザットはシグに、日本の温泉でのルールを説明されていた。温泉の中だけじゃ不十分だと思ったらしい。創樹に確認をとりつつだったが、シグは粗方のことは知っていた。


 体を洗ってから入るだとか、お湯の中で石鹸を使わないだとか、タオルをお湯につけない、とか日本では常識的なことだが、ザットはへぇ~と感心する。何より大勢で大きな風呂に入ると言うのが驚きだったらしい。


『スキニー・ディッピングみたいなもんだな』

『頼むから泳がないでくれよ』

 ザットの認識にシグがこめかみを押さえた。創樹と峰春が顔を見合わせ、クスッと思わず笑う。

海外の温泉は、水着を着て入ることも多い。温泉だけど、プールと呼ばれている場所もあるので、認識はそんなものだ。


『中国にも温泉あるけど、日本とは大違い。個室とか多いのよねぇ。日本の温泉に初めて入った時はびっくりだったわ。今では大好きだけどね。個室みたいに狭くないし、解放感あるし、ロテン風呂なんて最高!』

『俺、その専門用語ついていけない。ロテンって何だ?』

『専門用語?』

 ププッと峰春が笑う。


『屋外にある温泉だな。庭を愛でながらとか入るって。雪の季節には雪見風呂で日本酒が最高だとヘッドが言ってた』

『屋外!? じゃ、裸だと周りから見えるじゃん!』

『馬鹿ね。囲いがしてあるに決まってるじゃない』

『駄目だ。イメージがわかない…』

『入れば判るさ』

『ここですね。あちらが男湯、こちらが女湯です』

『俺たちは上がったら先に部屋に戻ってるよ。ゆっくり入るといい』

『女の風呂は長いからな』

 創樹の言葉にシグとザットがニヤリと笑い、その場で男女に別れ、中へと。


 創樹と峰春がさて風呂の中へ行こうか、という時、ザットの楽しげな声がもれ聞こえてきて二人は顔を見合わせ、クスッと笑う。

 日本の温泉が好きと言うだけあって、峰春は何ひとつ戸惑うことはないようだ。

 体を洗い、いかにも温泉、と言う岩の浴槽に身を沈めると、ホッと和む。


『【気持ちいいわねぇ…】』

『【ええ】』

 中国語でのんびり言葉を交わす。

『【そういえば初めてだわ】』

『【何がです?】』

『【日本人の友達と日本の温泉に入ったの】』

 峰春の言葉に創樹は、ふふっと小さな笑みを浮かべる。


『【言ったじゃないの、ソウジュ。女の武器は?】』

『【えっと…笑顔と涙、ですか?】』

『【そう。もっと、にっこり笑いなさいよ。折角可愛い顔してんだから】』

『【…はぁ…】』

 そんなことを言われても、何と返せばいいのか、創樹は少々困惑した。


『【韓国ではね、いまだに女の幸せはいいとこにお嫁に行くことだったりするわ。私の友達はそれを信じてる。だから、皆すっごい美容に関心があるの。玉の輿に乗るには美しくなくっちゃね】』

『【…確かに、エステとかよく聞きますね】』

『【そ。友達のうち数人は、高校卒業とか二〇歳になった記念に、両親にプチ整形をプレゼントしてもらったりもしてるわ。日本の親とは感覚が違うのよ】』

『【…そうなんですか】』

『【ま、私は幸いこの顔だから、整形なんて必要ないけど】』

 峰春の言葉に創樹は微笑む。いかにも峰春らしい台詞だ。


『【皆、幸せ目指して、自分の容姿のいいところは最大限に引き立てるメイクをするし、服をする。もちろん一番大事なのは素肌だから、肌にも気を遣うわ】』

 確かに韓国の女性は肌がきれいだ。それに、綺麗にするためのあらゆる施設がある。


『【だから、そんな国にちょっと住んだことのある私としては、あまりに恵まれた容姿を利用しようとしないソウジュが見てて歯がゆいわ。せっかく他の人が真似できない天然の美貌持ってんだから、それを生かしなさいよ】』

『【生かす…?】』

 どう生かせばいいのかよくわからない。


『【そう。もっとおしゃれして、この人カッコイイな、とか、素敵だな、と思う人にはにっこり微笑むの。ソウジュなら笑顔だけでも、じゅうっぶん! 効果あると思うんだけどな】』

『【効果、ですか…。何の…?】』

『【まったく、疎いわね。そう思った人と仲良くなって、性格もいいって判ったらさっさと自分の恋人にするのよ!】』

『【はぁ…恋人、ですか…】』

 のんびりと首を傾げる創樹に、こりゃ駄目だわ、と肩をすくめ、峰春は露天風呂に行こうと誘い、一旦上がる。

 創樹も続き、露天へと。


『【きっもちいい~】』

 峰春がご機嫌な声を上げた。外のひやりとした空気が、温泉で温まった体には心地いい。

 二人が露天風呂に身を沈めると、

「さっき卓球してた人ですよね?」

 露天風呂に居た二〇代半ばほどの三人組の一人が声を掛けてきた。


「ええ。でも、どうして…」

 創樹が首を傾げる。

「すっごい盛り上がってたから目にとまって」

「英語だったし」

「楽しそうだったわね」

 三人は口々に告げる。


 創樹は首を傾げる峰春に中国語で三人の言葉を訳した。峰春も納得する。

「近くで見るとますます美人だ~」

「羨まし~」

 創樹が訳すと心持ち峰春がにこやかになった。

「私たち皆二六歳なんですけど、二人は?」

「やだ。私まだ二五」

 初めの一人の言葉に長い髪をアップにしてお湯につけないようにしている女がむくれた。


 創樹は峰春に訳してから、自分が一七歳で峰春が二〇歳であるとを告げた。

「若っ! 二〇歳って成人してすぐ? それに…あなた、高校生?」

「道理で若いと思ったわ。肌もぴっちぴちねぇ」

「ますます羨ましいわ。それに細いわねぇ。私のお肉あげるわよ」

 口々に言われ、創樹はその度に峰春に訳していた。


『【あ、胸にお肉欲しいな。まな板だから】』

 思わず峰春が言って、【ザットレディンとシグザウエルには内緒よ!】と付け加える。その前半を創樹が訳すと、三人の女たちは同感、と頷きつつ笑った。塀を隔てた隣の露天風呂からは、子どもに混じってザットの声がしきりに聞こえてくる。


「あの一緒に卓球してた男の子たちはいくつ?」

「外人さんの年齢ってわかんない」

 問われ、二五だと創樹がこたえる。


「同じくらいか…。めっちゃめちゃかっこよかったなぁ…」

「ハリウッド映画に出てきても納得のカッコよさよね。ホントに素敵だったなぁ…。あんな彼氏欲しぃ!」

「どっちがどっちの彼氏なの? 落ち着いた感じの背の高い人と、ノリのいい金髪の人」


『【とんでもないっ!】』

 同時通訳のように創樹に訳してもらっていた峰春は、思わず声をあげた。

『【両方彼氏なんかじゃないわ。シグザウエルは理論の固まりだし、ザットレディンはいちいち突っかかってくるんだもの。願い下げよ】』

 はき捨てる峰春の台詞を創樹が訳した。


「え? ダブルデートじゃないの? 勝手に想像してただけなんだけど」

「お似合いだと思うけどな。美男美女で。あなたたちだったら納得なんだけど。彼氏じゃないなら、どんな関係?」

「何で一緒に旅行に? どこで知り合ったの?」

 口々に問われ、創樹と峰春は軽く中国語で打ち合わせのあと、歴史探検に友人同士で来たのだ、ということにする。実際一人は熱心なので。


 どこで知り合ったかについても、適当に峰春が留学した大学で知り合って、趣味の一致から日本観光に来たついでに、日本に居た友達の創樹を巻き込んだ、と捏造した。しきりに恋愛話で盛り上がる三人に、創樹と峰春も巻き込まれる。やがてのぼせたのか、先に三人が出て行った。


『【あれよ、あれ】』

『【あれ、といいますと?】』

『【あぁいう話にソウジュももうちょっと積極的になんなさい、ってこと】』

 峰春の言葉に創樹は淡い苦笑を浮かべ、それからしばしのんびりとくつろぎ、他愛もない話をした。


 温泉を上がって浴衣を身につけ、髪を乾かしてから部屋へと戻る。

 やはり、シグとザットは先に戻って待っていた。

あとで余力があったら、今日はあと1話更新するかもしれません。

あくまでも、予定です、笑

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