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こうなると勝負したいと峰春とザットが言い出すのはわかりきっていたことで、さっそく総当たり戦となる。時間の関係上、ペアを組んでダブルスの試合だ。
初めは創樹とシグv.s峰春とザット。
創樹とシグは巧くフォローし合い、峰春とザットはとにかくペアを押しのけてでも玉に食らいついた。
『ちょっとどいて、下手くそ!』
峰春がザットを押しのけてスペースを作ると、スマッシュの体制に入る。
『一歩さがって』
創樹の声にシグが反応した時、峰春の鋭いスマッシュが。
だが、一歩さがって居たので体勢に余裕のあったシグが返し、逆にそれが峰春とザットの間を通り抜けた。
『お上手ですね。とても初めてとは思えませんよ』
『創樹のアドバイスがあったからさ』
創樹とシグは軽くタッチを交わす。
『あんたが邪魔だったのよ!』
『押しのけといてよく言うぜ!』
『…サーブしていいですか?』
『言わずにやれよ。どうせあいつら四六時中あぁやって言い合いしてるんだから』
遠慮がちに二人に声を掛ける創樹に、フッとシグが笑った。創樹もクスッと小さく笑う。
『ちょっと、何ずるいことソウジュに教えてるのよ!』
『そうだぜ。油断も隙もありゃしねぇ』
急いで構え直す峰春とザットに、
『お前らに隙が多すぎるんだ』
ニヤリとシグは笑った。
創樹のサーブから再びラリーが始まる。
中々白熱した試合展開に、遠巻きに他のお客さんたちが見ている。
何しろこの集団、目立つ上に騒がしいので、何をやっていても注目の的となるのだ。
『とりゃ!』
空中に無駄に飛び上がってザットが勢いよくラケットを振り下ろす。
ピンポン玉はこれでもかと言うぐらい跳ねて、創樹の方へ。天井近くまで跳ね上がった玉の軌跡を追いながら創樹は後ろにさがると、タイミングをはかってスマッシュを決めた。
『うおっ!』
ザットの脇を通過するピンポン玉。
『やったな。勝負あり』
手を差し出すシグと創樹はハイタッチを交わした。
『アンタが馬鹿なことやってるから負けちゃったじゃない! 今ので勝負ついちゃったわ!』
『へぇへぇ。すみませんね! 早く次やろうぜ! 誰と誰がペア組む?』
『私もう、ザットレディンとは嫌よ。ねぇ、下手くそさん。…ソウジュ、次はペア組みましょ』
嫌みったらしく言うザットに同じく嫌味で答え、峰春は創樹の元へ。
『くそ! フォンのやろう…今に見てろ』
『お前は動きが派手すぎるんだな。落ち着いてやれ』
ザットの傍にやって来たシグが苦笑してその背をポンッと叩いた。
『男V.S女ね』
『初心者V.S経験者という見方も出来るな』
峰春の言葉にシグが言う。
『ハンデはなしかよ』
『いや、ハンデはいらない』
思わず聞くザットにシグが告げた。
『何で?』
ザットが眉根を寄せる。シグは声を落とし、ザットに耳打ちする。
『考えてみろ。ハンデをもらっといて負けたらショックはさらに大きいぞ。…というより梁がつけあがるだろうな。だがハンデなしだと、初心者だからという名目がある。万が一ハンデなしで俺たちが勝つと…どうなると思う?』
『フォンは多大なダメージを受ける』
『そういうことだ。まぁ、俺たちが負けるだろうがな』
『…お前とことんそういう政治的能力に長けてるよな。悪徳政治家の才能ありだぜ』
『悪徳政治家はないぜ。損害は最小限、利益は最大限に。それを実践するだけさ』
シグとザットはニヤリと笑い、拳を打ち交わした。
『ソウは? ショック受けないかな?』
ちらりと創樹の顔を見やり、ザットが尋ねる。
『…創樹は多分、俺がお前をとめた時点で気づいたんじゃないか? 俺の意図に。それに、梁ほどむきになるとも思えない』
シグも創樹を一瞬見て、応える。創樹はただ静かな瞳でたたずんでいた。
『賢いな』
『…俺の時は悪徳政治家で、創樹の場合は賢い? 差別だぜ、それは』
シグがわざとらしく肩をすくめた。
『確かに。けどシグって抜け目ないからな。ついつい』
ザットが自分の言葉を指摘され、吹き出す。
『作戦はまとまったかしら? ハンデは欲しい? あげてもいいわよ』
峰春が声を掛ける。
『ああ。オーケーだ』
『ハンデはいらねぇよ』
シグとザットはフッと笑って応えた。
サーブは男性陣に譲り、早速ゲーム開始となる。
今度はザットと峰春が分かれたために、さらに「負けてたまるか」という気迫の充分な試合となった。
『あ~くそっ! 負けたーっ!!』
二十分後、結局予想通り初心者チームの負けで、悔しそうにザットが叫ぶ。
『ま、こんなもんでしょ』
ふふん、と峰春が胸を張る。
『初心者相手におとなげねぇぞ!!』
『勝負は勝負よ。そっちこそ女の子相手に負け惜しみ?』
峰春が自慢げに言うと、
『次やろうぜ。次。俺とソウV.Sシグとフォンだろ?』
ザットは吐き捨てる。
『ああ』
『よし、俺たちこっち。ソウ、来いよ』
シグが頷くとザットは創樹を引っ張って連れて行く。
『…ザットレディンと組むよりマシね』
自分の隣にのんびりとやって来たシグを見上げ、ひとつ峰春は頷いた。“マシ”と評されたシグは苦笑する。
早速ゲームが始める。
今度の試合が一番白熱していた。先ほどと同じくザットと峰春が敵同士になった上に、さっきの試合の影響を受けて士気が上がり、浮つくところを創樹とシグがそれぞれフォローする。
『くらえ~!』
『甘いな』
『えぇっ!?』
『……っと…』
『ナイス・フォロー。ソウ。助かったぜ』
『いっくわよ~!』
『うおっ』
白熱した試合は延長戦にもつれ込み、ここで決める、とばかりにザットがスマッシュする。
フッと笑ったシグがそれをふわりと返した。
距離を測った創樹が無難に返す。
『とれるもんなら、とってみなさい!』
峰春が宣言すると、スマッシュを。
『うげっ!』
ザットがラケットを合わせようとする。
が、そのラケットの端にピンポン玉がはじかれた。
『やった~!! 私の勝ち!』
峰春が飛び上がる。
『あ、じゃなかった。私たちの勝ち』
訂正を入れてから峰春は苦笑しているシグとハイタッチをした。
『負けた。フォンに負けるなんて一生の不覚…。ごめんな、ソウ』
『いえ。がんばりましたよ』
創樹は微笑んでショックを受けているザットの肩をポンッと優しく叩いた。
『ソウッ! ソウは優しいよな! 誰かと違って』
ザットがガバッと創樹を抱きしめる。創樹はどうしていいか判らず、とりあえずザットの背をポンポンッとなだめるようにたたいた。よほど悔しいらしい。
『ちょっと何やってんのよ、汗臭いのに! しかも今、何て言った!?』
峰春が憤然と創樹をザットの腕から救出し、庇う。
『誰かとは違ってソウは優しいな、って言ったんだよ。誰かさん』
ザットが憎まれ口を叩く。
『何ですって! アンタに優しくしたところで私に何の得があるってのよ? それを考えてから言うのね! 感情的なアメリカ人!』
『どっちが感情的だよ! お前の方がいっつもわめいてるじゃんか!』
『わめいてるとは何よ! 私がいつわめいたって言うの? 言ってみなさいよ』
『ほら、今まさにわめいてるじゃん』
『わめいてないわ! 自分の意見を主張してるだけよ!』
ザットと峰春が口々に言い合い、峰春の腕に庇うように抱きしめられた創樹は間でどうしていいのか判らず少々困惑顔。
『いい加減にしろ、お前ら。創樹が困ってるだろうが』
シグが二人を割り、創樹を峰春の腕から更に救出した。
『『だって…』』
声を上げそうになる二人を、手を上げてシグが制す。
『ひとまずここは、お互いの健闘をたたえあうべきじゃないのか』
フッと笑ってシグがまず、救出したばかりの一番冷静な創樹に手をさし出した。
創樹は淡い笑みを浮かべ、シグの手を握る。
『…それもそうだな』
次に手を差し出され、肩をすくめてザットがシグの手をパシンと叩いた。
創樹と峰春も微笑み合い、握手を交わす。
最後にザットと峰春が一瞬互いを嫌そうに見つめたものの、最後には二人揃って肩をすくめ、握手をした。




