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ようやく3話目。
『さて、何をする?』
部屋に戻ると、ザットが言った。
『俺はまず、これを創樹に聞きたい』
シグは城のパンフレットを取り出した。
『え~…じゃ、私は何しようかなぁ…』
『これ何?』
ザットが卓上に載せられている菓子を示す。
『サービスで置いてある和菓子です』
創樹の言葉にザットと峰春が興味津々とそれを見つめる。
『わ~い。ソウジュ、グリーン・ティいれて』
『…お茶は中国の方がうるさいんじゃないか?』
峰春の言葉にシグが眉根を寄せる。
『そうね。けど、私まず自分でいれないもん。グリーン・ティなんてなおさらよ』
えっへん、と、自慢げに峰春が言った。
創樹は淡い笑みにも似た表情を口許に乗せると、四人分お茶を入れる。
それからようやくシグは、創樹に溜め込んでいた質問を重ねる。創樹が知る限りのことを話す途中にも、時折ザットと峰春が『これ何?』と聞いたりして話の腰を折る。
『城は戦があるから出来るんだろう? 一五〇四年と書いてあるが何時代になるんだ? ムロマチ?』
『ええ。室町時代は前半と後半に分かれていて、前半を南北朝時代、後半を戦国時代と言います』
『その後半の戦国時代に建てられたんだね?』
『ええ』
『ムロマチ時代は文化も発達したんだったね? ノウ・キョーゲンなんか…』
『ええ。他にも水墨画や茶の湯、生け花なんかも』
シグと創樹の話は日本の歴史にも飛び火する。
『キンカクジとギンカクジを見たことがある。焼失する前に見たかったな』
『へ? 焼失した、って、見たんじゃないのか?』
シグのつぶやきに、ザットが置いてあった木製のパズルをいじりながら首を傾げる。
『キンカクジは一九五〇年に焼失した。放火じゃなかったかな? 五年後に再建されたがね。……歴史的遺産は失われたらそれまで。だから大切にしなければならないのに…日本は壁画でも管理ミスがあったと騒がれてるだろう?』
シグが苦笑し、創樹も頷く。
『お前、歴史好きだよな』
『歴史だけじゃなくて、オールマイティに知識習得しようとしてるじゃない。よくソウジュが我慢してると思うわ』
『…我慢してるわけではないですよ。私も好きですし』
峰春の言葉に創樹は淡い苦笑を浮かべる。
『シグザウエルの場合“好き”を通り越してるわ。知識に対して貪欲だもの。よく付き合ってられるわね。私だったらごめんだわ』
『俺も。疑問に思ったらコイツ、とことん追及するもんなぁ…。とても付き合ってられねぇよ』
『お前らの場合その前に聞いても知識がないだろ』
肩をすくめる二人にやれやれ、とシグが言った。
『あ! 失礼な! 私だってちょっとは知ってるわよ。日本の中じゃヘイアン時代好きよ! 貴族文化でしょ?』
『俺はカマクラかな』
『ほう…。それならヘイアン時代ってのはどんな時代だ? カマクラは?』
ニヤリとシグは笑う。
『平和で、優雅な時代』
『んと…パワフルな時代』
『…都は? 当時の都の名は?』
『……都はキョートで…何とかって名前』
『…………………』
更なるシグの突っ込みにかろうじて半分峰春は答え、ザットは押し黙った。
『ヘイアン時代の場合、そのままヘイアンキョウという名前だ』
シグが解説をし、峰春とザットが混ぜ返しつつ創樹に確認する。
「浴衣をお持ち致しました」
そんな時に仲居さんが、浴衣を持って現れた。
『…その頃には唐への依存や模倣しなくても、独自の文化を花開き始めーーあ、唐って、梁の母国のひとつな』
『もちろん知ってる人わよ、そんなこと!!!』
シグの言葉に峰春が声を上げ、ザットが爆笑している。
『よく言った、シグ』
『だまりなさいよ!』
けたたましい室内の様子に、仲居さんは入り口のところで立ち止まっている。
「すみません。騒がしくて」
創樹が出て行き淡い苦笑を浮かべた。
「いえ。こちら特注サイズになります。当館で1番大きなサイズですが…合うといいんですけど…」
「ありがとうございます」
創樹は礼を言って、室内を振り返り、シグを呼んだ。当のシグを差し置いて言い合いを始めたザットと峰春を割り、シグがやってくる。
創樹が仲居さんから受けとった浴衣をシグに当ててみる。
「大丈夫みたいですわね。お似合いです」
仲居さんが微笑んだ。
その間もザットと峰春の言い合いは激しさを増していた。
『二人とも静かに』
さすがにたまりかね、シグが注意する。
『でも…フォンが中国語使うんだぜ! 反則!』
『【可哀相に。馬鹿なのね】』
『英語で言え!』
『【嫌よ】』
『だまれよ!』
『毎日毎日、よく口論の種がつきないな…。お騒がせしてすみません』
シグがため息をつき、創樹が思わずクスッと小さく笑って仲居さんに訳す。
「いいえ。賑やかで楽しそうですわね」
仲居さんも微笑んだ。
ちなみにこの部屋、他の部屋から少し離れた場所にあり、他のお客さんのことをそこまで気にしなくてもいいらしい。
そこまで長門が手配してくれていた。
「アリガトウ、ゴザイマシタ」
シグが創樹から受け取った浴衣を示し、日本語で仲居さんに言う。
「いいえ。どういたしまして。またお困りの際には何なりと申してくださいね」
にこやかに仲居さんは言って、創樹が伝える。
『常識破りなシグザウエルにぴったりのサイズがあったの?』
『よく見つかったなぁ』
いつの間にか峰春とザットが駆けて来ていた。さっきまでの言い合いはどこへやら、揃ってニヤリと笑った。
その様子に創樹がクスリと小さく笑い、仲居さんも思わず笑っていた。
私の中では、よく峰春が『OF COURSE I KNOW!!! (そんなこと知ってるわよ!!)』って、叫びまくってるイメージです、笑




