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随分と距離を走り、城の敷地の外に出る。町の中を幻は確かな足どりで二人を導き、この町にしては人気のない細い路地に来た。
『【いい加減にしてよ!!】』
中国語の耳慣れた声。シグとザットは顔を見合わせ、声の方へ。
何故かそこでは七、八人の男たちが殴り合いをしていた。
「痛っ! この猫が…」
男の悲鳴にも似た怒声。
『何だ何だ? 乱闘か?』
ザットが少し愉快そうにつぶやきつつ、そばまできて足を止めた。外側から状況把握をするつもりなのだ。
創樹が合間を縫い、峰春の手をひき人の輪を抜け出す。だが、その前に別の男が立ちはだかった。創樹の瞳に囚われ、一瞬男は固まる。
「みゅ!」
その隙を狙って、白猫が駆けてきたままの勢いで飛びかかり、腕をひっかく。逆の腕を、黒猫がひっかいていた。
創樹がシグとザットの姿に気づく。
『ひとまず行くぞ』
嬉々として辺りを見回すザットに淡い苦笑を浮かべ、シグは創樹と峰春の元へ。すぐにザットも続く。
『シグザウエル! ザットレディン!』
ようやく峰春も二人の姿に気づいたようだ。
男たちも、そちらを見やる。不意に、殴り合いが終わった。男たちは揃って敵対心もあらわに二人を見つめる。
『何遊んでんだ。行くぞ』
『遊んでんじゃないわよ! 勝手にこいつらが何かやり始めるんだもん!』
淡々としたシグの言葉に、峰春がむくれる。
『面白そうなことやってんじゃん』
『だから巻き込まれたんだって言ってるでしょ』
ニヤリと笑うザットに峰春が鋭く言った。と、その峰春が男の一人に腕を引っ張られる。
『【いった~い。何すんのよ!】』
声をあげる峰春の横で、創樹も別の男に腕を引っ張られ、よろける。猫たちが怒ったようにその男に飛びかかった。男が猫をはじき飛ばす。
「幻! 現!」
創樹が思わず声を上げるが、男は構わず創樹の腕を引っ張る。猫たちは地面に見事に着地する。
峰春と創樹を遠ざけてから、男たちはシグとザットを包囲にかかる。先ほどまで殴り合いをしていたのに、一時的に平和協定でも結んだらしい。
「よぉ、兄ちゃんたち、怪我したくなかったら国に帰んな」
一番図体のでかい男が言った。
『何か日本語でほざいてるぜ?』
『まったく、こんなに美しく歴史ある町に一番不似合いな手合いだな』
のんびりと顔を見合わせ、シグとザットは肩をすくめた。
「おいおい、聞いてんのかよ」
「余裕ぶっこいてんなよ」
「ナメやがって」
男たちが包囲の輪を縮めながら、拳を己の手に打ちつけたり、ことさらに指を鳴らしたりする。
「Fuck off, Chicken!」
ザットが中指を立て、思いっきり馬鹿にした口調で言った。
「何!? 何て言いやがったっ!?」
意味はわからずとも、とりあえずその動作と馬鹿にされたことだけは理解し、男たちはいきり立つ。
『“Chicken”は“臆病”って意味さ。俺は“弱い犬ほどよくほえる”って日本のことわざが君たちにはあってると思うがね』
シグが片言の日本語を組み合わせて言い、フッと笑った。
さすがにこれはわかり、完全にぶちきれた男たちがシグとザットに殴りかかる。
楽しそうに笑ったザットがまず一人目を殴り飛ばした。
シグは一切無駄な動きをせず、次々と最小限の打撃で男たちを沈める。
「なめた真似しやがって。タカは空手の有段者なんだぜ! お前らなんか一撃だ!」
その声に、初めに二人に「怪我したくなかったら国に帰れ」と言った、一番図体のでかい男がニヤリと笑って進み出る。
『“空手”? いいね。俺も空手やってるんだ』
聞き取れた『空手』という単語に、余裕の笑みを浮かべてシグが前に出た。さすがに男たちも意外そうにシグを見る。
相手の繰り出す上段の蹴りを、シグが身を沈めてかわす。と同時に、懐に飛び込んで充分に体重の乗った正拳突きを一発。
見事にヒットし、“タカ”は殴られた部分を押さえ、地面にうめきながらうずくまった。
『…悪いね。こんなに弱いとは思わなかった』
一撃で沈めるはずが逆に沈められ、その上に謝られて、さすがに見ていた者は一瞬あ然とする。
『たっのし~』
その向こうでもザットが暴れて、男たちが地面に飛ばされている。
男たちは顔を見合わせ、もう一度シグとザットを見直す。
「痛っ!」
皆がシグとザットを見ている隙をついて、二匹の猫が創樹と峰春をつかまえていた男の腕をひっかいた。
『【ソウジュ、こいつら私たちが女だからってナメてるわ! 許せない!】』
手がゆるんだ隙に、二人はその手を逃れて距離をとる。中国語で言う峰春に、創樹が頷く。
『【見てて】』
ニッと笑った峰春は、持っていたバッグをブンッと勢いよく振り回した。いきり立って再び峰春をつかまえようとしていた男の顔面に、見事にヒットする。
『【ナメんじゃないわよ。泣いてることしかできない女なんて、三〇年代のハリウッド映画の中にしか存在しないのよ!】』
中国語ではき捨てた峰春に、創樹はクスッと微かな笑みをもらした。
「この…くそアマ…」
峰春につかみかかろうとしたもう一人の男。創樹はその男の伸ばされた右手首を右手でつかみ、右ひじを左手で伏せるように押す。合気道の応用だ。学校で護身術講座があった時に模範演技で見て憶えていた。
「うわっ」
創樹にバランスを崩されて、男は自分の勢いにつんのめって、地面に顔面から突っ込んだ。
『【わぉ。やるじゃない、ソウジュ!! …っと!】』
バッグで殴られたショックから回復した男は、再び峰春のバッグを今度は後頭部に受けた。
『もう終わりかよ。つまんねぇの』
『その割には以前より手際が悪くなったな。トレーニングをサボってるからだ』
肩をすくめるザットにシグがフッと笑う。歩き出す二人に、残りの男たちが道をあける。二人は、そのまま創樹と峰春の脇を通過する。その視線の先では、創樹と峰春をつかまえて居た二人の男が、まだ起き上がろうとしていた。
『おとなしく寝てたが楽だぜ?』
『お休み』
言葉と同時にザットとシグは今度こそ、二人の男を気絶させた。
『まだやる?』
ザットがあんぐりと口をあけている男たちに問う。
『やる気がないなら気絶したやつら連れてさっさと失せろ、と言ってくれ』
シグが創樹に言う。創樹は頷き、その言葉を男たちに告げた。
はじかれたように男たちは気絶した人間に飛びつき、抱えると、早々に逃げて行った。
見送り、創樹がしゃがみこむ。
「ありがと、幻、現」
創樹が二匹の猫の頭を撫でる。白猫は嬉しそうに一声鳴き、黒猫はフンッとばかりにそっぽを向くと、消えた。
『二人とも、怪我はないな?』
シグの確認に頷き、創樹は立ち上がる。峰春も頷く。
『よし。じゃあ、そろそろ日も暮れてきたし、宿に移動するか』
シグはポンッと二人の頭を優しく撫でた。創樹が軽く目を瞠り、峰春は瞬きをする。
『メシ、メシ!』
『わっ』
『…?』
ザットが両脇に抱え込むように峰春と創樹の肩を抱き、歩き出す。
『お前は、またメシか』
シグがあきれた。
『 』=英語
『【 】』=中国語
『 』の文中にある" " =日本語
で、区別しようかと思います。
国籍混合なので(^^;;
他にわかりやすい表記の仕方があったら、どなたか教えて下さいm(_ _)m




