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『さすがに名城というだけあって、雰囲気がいいな…。これで観光客が少なけりゃ申し分ないんだが…』
『無理無理。今日は日曜だぜ?』
ゆっくりと城の中を見回すシグに、ザットが肩をすくめた。
『…にしても、来たかいあったよなぁ…』
『ああ。…窓が少ない造りなのは防御のためだろうな…。日本独自の造りが至る所にある。創樹がいれば解説をしてくれたろうに…誰かさんが金も持たずに飯を食いに行ったからなぁ…』
『悪かった、って。けど腹減っちゃ何もできねぇだろ?』
『お前と一緒にいると、活動費のほとんどが飲食費に消えそうで怖いよ』
当然のように言うザットに、シグはクッと笑う。
彫りの深い顔立ちに、理知的で落ち着きを感じさせる、長い手足に堂々とした態度のシグ。
顔立ちは整っているのに、雰囲気と表情に少年っぽさが抜けず、快活な表情をひらめかせるザット。
創樹たちと同様、観光客の視線を集め、なおかつ特に女性たちの関心をひいていた。
『日本って靴脱ぐなんて面倒だと思ったけど、この感触は悪くないな』
ザットが畳の廊下にご満悦だ。あとを行くシグの方を見ながらうしろ向きに歩く。
『タタミか…。そういえば日本の家に使われる素材は香りのいいものが多いな。イグサにヒノキに…』
『いっつも思うが、お前の知識ってオールマイティだよなぁ…』
『あのなぁ。ザットも一緒に日本に来た時、軽く習ったろう。お前が忘れてるだけだよ。…あるいは寝てたか』
『多分寝てたんだな』
悪びれることもなくザットは笑った。
「あの…」
と、遠慮がちに声がかけられる。
『へ?』
ザットが振り返る。
「フォト…OK?」
「えっと…ウィズ、アワー」
ぎこちないカタカナ英語で三人組の女が二人に言った。
『写真? 何で一緒に?』
『さぁな。だが…』
シグは、遠慮がちに作られた『撮影禁止』の標識を親指で示した。声をかけて来た三人もその表示を見て、さすがに手元のカメラを見る。
シグは肩をすくめてさっさと歩き出す。
『あ、おい、待てよ。…バイバイ』
ザットはシグを追いつつ、声を掛けてきた三人に、ニッと笑って手を振った。
じっくりと城を眺めるシグと、きょろきょろと辺りを見回し、落ち着かないザット。
『おいザット、歩く時は前見ろ。ぶつかるぞ』
シグは幾度めかの注意をザットにする。実際にも二度ほど、ぶつかる寸前にザットの服を引っ張ってとめもした。
ザットだけでなく、峰春も突っ走るタイプだ。創樹は落ち着いているが、まだ高校生。結局シグが一行の保護者役を引き受けなければならない。
ザットと同い年なのに、何故ザットの保護者めいたことまで自分がしなければならないのだろう、と、時折ため息をつきたくなるシグだった。
ある程度城の中を見終わって、二人は外に出る。
「Hi」
公園のようなところを歩いていると、また、五人ほどの日本人女性のグループに声を掛けられる。
『お城の中を案内しましょうか?』
英語の得意らしい一人が進み出て、シグとザットに言う。
『いや。結構』
『今終わったんだ』
淡々とシグは断り、ザットが肩をすくめて応えた。
『じゃあ、えっと…お茶でも…』
そう誘われると、ザットの瞳が輝く。
『お茶? 確かに腹は減ってる…』
『お前、また食う気かよ』
あきれた瞳でシグはザットを見た。
『それに、いい加減二人と合流しないと…』
シグが苦笑と共に、携帯電話を取り出した。その様子に日本人女性のグループは顔を見合わせる。
『ごめんな、オレたち、連れがいて…』
ザットが言いかけ、電話を掛けようとしていたシグの腕を引く。
『何だ?』
『ユメだ。ソウとフォンに何かあったのかな?』
それから自分たちの方に駆けて来る白猫を指差した。確か城に着いた時点で、再び二匹の猫は姿を消していたはずだ。シグも眉根を寄せる。
「みゃう!」
白猫は一声鳴いて、Uターンする。シグとザットは顔を見合わせ、白猫を追いかけた。取り残された女たちは、残念そうに歩き出した。




