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今日も、3話、頑張ります。
『すっげー』
『きれー』
いかにも日本に来た外国人観光客のような声をザットと峰春が上げる。
『見事だな…』
シグもしみじみと、現存する天守としては犬山城・彦根城・姫路城とともに国宝に指定されている名城を見上げる。
あの後、神社では、結局二時間近く長門と話をした。
連絡先も交換し、お互いに協力することにした。
その後、当初の長門の提案通り、本殿だけでなく、摂社も案内してもらった。
充分に知的好奇心をシグが満足させ、次の目的地を皆で決めた。と言っても、ザットと峰春がどうしても本物の日本の城が見たいと主張し、それを押し切った。
三〇キロほど距離があるためシグが眉根を寄せたが、長門の勧めもあって、結局今、こうして松本城にいる。
『ひとまず俺は腹ごしらえ!』
『また? 勝手にすれば? ソウジュ、中に行きましょ』
食べ物の匂いにつられて駆け出すザットと、創樹の手をひく峰春。
『ザット! お前、日本の円を理解してないだろ! さっきのたこ焼き屋でこりたんじゃなかったのか?』
シグが声を上げるが、何がわからなくとも食べ物屋だけは解るザットにその声は届かず、店に吸い込まれるように消えた。
峰春と創樹は顔を見合わせる。
『…仕方ないやつだな。金もろくに持ってないくせ…。先にまわってていいぞ。後で落ち合おう。何かあったら携帯に』
シグも苦笑して言った。それからザットを追いかける。
『行きましょ、ソウジュ』
峰春に中国語でうながされ、創樹も頷くと、二人で城の中へと。
『うわぁ…』
中に入って辺りを見回し、峰春は万国共通の感嘆の声を上げる。
『中国の宮廷とかも観光したことあるけど、日本はまたそれとは違うわ。やっぱり国によって建物も雰囲気も変わるのね…』
『中国は、早くから椅子に座って生活するようになってますよね? 日本は普段の生活では正座が多いんです』
創樹は穏やかにこたえる。
『正座か。畳の上なら痛くないのかしら? 私、好きよ。日本の畳。フローリングと違って、あったかいんだもん』
廊下に敷いてある畳に峰春が微笑む。
『地面…っていうか、畳に直接座って生活するから、座卓ばかり?』
『ええ。もちろん場所にもよるんでしょうけど、大体書き物をしたりするのも座卓ですね』
『筆記具は墨と筆。中国と一緒ね?』
『ええ』
『墨は何千年を経ても色あせないわ。海中から引き上げられたっていう、二千年くらい昔の巻物を見たけど、彩色は落ちてても墨は落ちてなかったの。さすがにあれには感心したわ』
『世界で最も優れた筆記具と言いますからね』
峰春と創樹は顔を見合わせ、微笑んだ。
『シグザウエルが歴史を大切にするのとは違うと思うけど、私も歴史は嫌いじゃない。というより、生活のすぐ傍に歴史を感じて育ったわ』
懐かしむように峰春は言った。
『子供の頃、西安に住んでたことがあるけどね、周囲一四キロに及ぶ城壁が残ってたし、毎日学校に通う道路を、太宗皇帝や安禄山なんかが通ってたかもしれないのよ。歴史は生活の一部だと思ってたわ。西安から引越しした時初めて、自分は凄い歴史に埋もれて生活してたんだ、って気づいた』
『一〇世紀初めまで、中国の首都だった三千年の歴史がある町…素敵ですね』
ちょっと自慢げな峰春に、創樹は素直に言った。
峰春は頷き、創樹の手をとって次のところへ。すれ違う人が皆、二人を振り返る。
無機質さを感じさせるほど整った顔立ちで、何をしているわけでもないのに、しぐさのひとつひとつでさえ周囲をひきつける創樹。
十人中八人は「美人だ」というに違いない顔立ちに、ストレートに感情を表情に反映させ、勝気な光を瞳に宿す峰春。そんな二人が中国語で会話していると、結構目立つ。
『ソウジュはいい子ね』
あちこちを観光して、写真を撮れる所では写真を撮りまくった後、ベンチに腰掛けて少し休んでいる時に、不意に峰春は言った。創樹が首を傾げる。
『私、初めっからソウジュのこと、嫌いだったわ』
あっけらかんと峰春は言った。創樹はただ静かに頷く。
『ソウジュって日本人だし、私より宿神たくさん持ってるし、私より強いし、私より頭よくて落ち着いてるし、私より若いし、私より美人だし。まったく何もかも気に食わなかったわ』
隠し立てすることなくあっけらかんと並べ立てる峰春に、思わず創樹はクスッと小さく笑ってしまう。
『でも、今では嫌いじゃないわよ。ソウジュほどのお人よし、見たことないわ。自分が死にかけてるのに、何で先に人を助けようとするのよ。思いっきり私が態度で嫌いって言ってるのに、それでも何も感じてないみたいに普通に接してくるんだもの。拍子抜けしたわ。毒気も抜けちゃうわよ』
峰春は肩をすくめる。
『何で怒らないのよ?』
『…えっと…怒る理由もありませんし…』
峰春に顔を覗き込まれ、創樹は遠慮がちに言った。
『大いにあるわよ。大体ソウジュってば感情的にならなさすぎよ。もっと思いっきり笑ったり泣いたり叫んだりしなさいよ。わかってる? 女の武器は笑顔と涙よ!』
『笑顔と、涙…ですか…?』
『そう。ほら、練習! 笑ってみて』
『……………………』
そんなことを言われても、すぐに笑えるものでもなく、創樹は首を傾げた。
『それは困った顔じゃない。ほら、笑いなさい』
峰春がむにっと創樹の頬を軽くつまむ。創樹は淡い苦笑を浮かべた。
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