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『それで、何故我々に声を…?』
シグが問う。訳されなくとも今までの流れから解ったらしく、長門はひとつ頷いた。
「私はここの神主と友人であると申しましたが…私自身も、実家は神社。代々神主を務めてきた家系です。そして長門の家では、極稀に人ならぬものを見、聞こえぬはずの音を聞く者が生まれます」
穏やかに話し出す長門は、少し言葉を切った。創樹は軽く目を瞠り、その内容を皆に伝えた。
『つまり…あなたがそうだと言いたいんですね?』
シグは淡々と問う。長門は頷いた。
「どういうわけか縁者の中で一番の不信心者であった私が、ある時ふと、自分に見えている物が他の人間には見えないのだと、知りました」
長門は淡い苦笑を浮かべた。
「気づいた当初は気のせいだ、見間違いだと自分をごまかし、見て見ぬふりをしていました。ところが…中には悪さをするものもいて、さすがに知らぬ存ぜぬを通すには後ろめたくなり、仕方なく修行も積み、今ではお困りの方々の相談を時折受けております」
『やる気のなさはお前に張るな』
シグがザットに告げ、峰春が吹き出した。ザットが憮然とする。
「それと、私たちに声をかけられたのには、何か関係が?」
創樹が静かに問う。
「いまさら何をおっしゃいます。不意に大きな…とてつもない神気を感じ、本殿を飛び出し、そのご神気の方へと向かったところ…あなた方がいらっしゃった。猫神様を当然のように肩に乗せられて」
長門が笑った。創樹はそれを皆に伝え、皆は瞳を交わす。猫たちも顔を見合わせる。
「失礼ですが…どうしてこの神社へ?」
不意に笑いをおさめると、静かに長門は問う。
『観光』
シグが淡々とこたえる。
「観光? ご冗談でしょう? こんなに力のある方がこぞって神社へなど…」
『そう言われても、実際そうなのだから仕方ない。さっきこいつらにも言ったが、宗教施設には由緒ある歴史がつきもの。俺は歴史に興味があるだけ』
長門とシグの視線が交錯する。息苦しいほどの沈黙。
『…そういうそちらこそ、やけに俺たちを気にするな?』
沈黙に、シグが一石を投じる。
長門は鋭いほどの眼光で皆を見据える。峰春が思わず身をすくめた。
「あなたたちは、どうもあちら側の人間ではないようだ。だまされているとすれば私が未熟なのでしょう…」
やがて、ひとつ息をつくと、長門は頷く。
「…一月ほど前になりましょうか…。私はいつもの修験場でぼんやりとしておりました。すると…今日あなた方が来られた時に感じたように、突然神気を身の傍に感じたのです。…いえ、神気と言うには冷たい力。ですがその中に神気も混じっていたのも確かです」
長門はゆっくりと話し始めた。
「すぐ傍に、いつの間にか若い男が立っていました。若いと言っても…あなた方よりは、年上でしょうな。三〇前後ほどに感じましたが。…その男は言いました。『仲間になる気はないか』と」
長門の言葉に皆は顔を見合わせ、眉根を寄せる。
「何の仲間か、と、私は問いました。男は『世の中を根底から覆す仲間』だと、応えました」
やはり、その男というのは…
「私もやる気はないものの、一応神官の端くれ。いえ、神官を継いだわけでもなく、家は飛び出したんですがね。それでも、それなりに譲れぬ一線と言うものがある。男はその一線を踏み越しているのだと、わかりました。ですから、その話は断りました」
長門が一旦言葉を切ってゆっくりと皆の表情を見る。
「断った時にその男は、『断ったことを、後悔する時が来るぞ』と言い残して消えましたので、今日、不意にあなた方の力を感じた時、あの男が報復にでも来たのかと思いました」
『それで出てくるのが早かったんですね?』
シグの言葉に長門は頷く。
「一人の時ならともかく、ここで暴れられるのは困りますのでね。…しかし、あなた方に近付くにつれ、あの時の男より遥に強い神気を感じた。別人だとは途中思い直したものの、男の仲間やも知れぬと考えたわけです」
『その男とは…』
シグが懐から本間の写真を取り出す。
『この男ですか? 一五年前の写真ですが』
長門は写真を受け取り、じっと眺めた。やがて、おもむろに頷く。
「間違いないでしょう。この男です。目に映る光が似ている」
静かに言って、長門は写真を返した。
「…あなた方こそ、どうしてこんな写真を?」
『…この男が今、神奈川県S市で鬼を変質させ、邪魂をばらまいているのは御存知ですか?』
長門の問いに、シグが静かに答えた…。




