3
『ここは、シグのリクエストによる神社!』
ちゃんと考えてやったぞ、といわんばかりにザットがふんぞり返った。創樹の肩の上に、いつの間にか猫たちがいる。
『シグザウエルがシントーだとは思わなかったわ。出身的にクリスチャンかと思ってた』
『別にシントーじゃない。単に宗教施設には歴史がつきものだから来てみたかっただけさ。…この国だからこんなことも言えるが、何かの宗教に俺が入信することはありえない』
言いながらシグを先頭に境内に入った。
『俺も。俺の生まれたトコではクリスチャンが多かったけど。…俺たち宿神っつー神を宿してるもんな。宿神教なんてのがあったら入信するかもだけど』
『それはいい。宿神教とはね』
ザットの背を軽くたたき、シグが笑う。創樹が案内板を確認し、揃って本殿の方へ。
『無節操ね。何で『この国だから言える』の?』
『日本こそ無節操だからさ。大抵の人間は、キリスト教なりイスラム教なり、仏教なり、何らかの宗教を信じていると、その宗教だけに盲目的になる。だが日本人の場合、家に仏壇があってもクリスマスを祝い、ニュー・イヤーには神社へ行く。おまけに宗教を融合させてみたりもする。寺の敷地に神社があったりね』
峰春とザットに瞳を向けられ、創樹は淡い苦笑を浮かべ、頷く。
『宗教という点では、他の国で口にすれば袋だたきにあいかねないことでも、日本では平気だ。寛容というか、無節操というか、あるいは確固たる意志がないというか…そういう点でのこの国の柔軟さはあきれるほどだよ。でも…だからこそ、独特の文化を育んできた。複雑で繊細…だが、雄大さを失わない、日本独自の美しい文化を』
シグが目の前の本殿を見やった。本殿は池に浮かぶ島のような立地で、老樹が本殿を取り囲んでいる。橋を渡る前に立ち止まり、ザットと峰春が周囲の観光客を捕まえて写真を撮ってもらった。
観光客に礼を言って別れると、改めて本殿の外観を眺める。厳かで美しく、独特の時間が堆積している。
と、本殿の中から一人の男が出てきた。真っ直ぐに目的を持った足どりで橋を渡ってやって来て、四人の前で立ち止まる。そして、静かに一礼した。
突然の男の登場に、皆は顔を見合わせた。何者だろう、という表情が交錯して、結局、皆の瞳は男へと戻る。
ぱっと見は四〇代ほどだろうか。“静寂”という言葉を連想させる雰囲気と、凄みを秘めている。
「日本語はお話になれますか? 私は長門と申します。この神社の神主の友人です。よろしければ、ご案内しましょう」
男は静かに告げた。創樹は微かに眉根を寄せつつ、長門の言葉を通訳する。
『しかし…何で俺たちに声をかけて来るんだ? 他にも観光客はいるというのに。心当たりは?』
確かに周囲に観光客の姿はちらほら見える。シグの言葉を、皆否定した。
「何故私たちを案内して下さろうと…?」
皆の視線に頷き、創樹が長門に問う。
「ここでお話できることでもありませんので…どうぞ」
長門は微笑んだ。無機質なほどに整っていた長門の雰囲気が、突然ふわりと緩み、温かい雰囲気になる。
その応えに創樹は猫たちと顔を見合わせてから、他三人にその言葉を伝えた。
『ますます怪しいな…』
シグはスッと目を細めて言った。それから皆を見回し、腑に落ちない顔が並んでいるのを確認すると、肩をすくめる。
『案内の前に説明して欲しいと伝えてくれ。このまま断るのも気持ち悪いしな』
シグの言葉に創樹は頷き、前半の言葉を伝えた。
「もちろんです。どうぞこちらへ」
了承した長門について移動する。
どうやら観光客向けの場所ではなく、神主たちが集まる場所のようなところに通された。
「改めまして。長門定明と申します」
長門は言って、一礼した。板張りに直接正座している。
創樹が訳し、皆もそれぞれ名乗った。客人という意味を込めてか四人には座布団が渡され、お茶も出されている。
新たな出会いが、またひとつ運命の歯車を動かし始めました。




