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『意図的に送られた鬼の日付と場所を書き出してみるか…』
シグが椅子にかけておいた上着から、手帳を取り出す。紙を一枚破って、ボールペンと一緒に持ってきた。
『悪いが見つけた場所がどんな所か教えてくれ』
シグに言われ、創樹は頷いた。
『まずは日付の浅い順に…ここ』
『…市役所です』
創樹が応える。
シグが次々と日にちを読み上げ地図上を示し、創樹が次々と場所を言った。
『何か警察とか病院とかばっか狙ってないか…?』
二人が確認し終えるのを見計らい、ザットがつぶやく。
『ああ。市政の中心である役所。治安の象徴である警察。防災の拠点となる消防。さらに傷や病を癒す場であるはずの病院。…この新港倶楽部というのは?』
シグが創樹に問う。
『確か…S市を拠点として動く医師会メンバーや企業の幹部などが集まる会です。色んなところに寄付をしたり、社会貢献したりすることを目的とした団体だったと思うんですが…』
『“貴族の義務”ってやつか』
創樹の説明に、シグがつぶやいた。
『…経済的に秀でた集団…。なるほどね。市役所や警察署といい、ホンマの狙いがすぐにわかるじゃないか』
シグが口許に皮肉な笑みを乗せる。
『狙い?』
峰春が首を傾げる。
『さっき言った場所に鬼が現れたらどうなる?』
『どうなるって…そりゃ、混乱するんじゃねぇの?』
シグの問いにザットが答える。
『ああ。しかも他の場所で混乱が起こるよりも、市内全体に影響を及ぼすことになる。市民生活を脅かす場所ばかりをあえて選んで恐怖をあおる。俺たちがもし、鬼を祓うのが遅れてたら、S市は今頃、市としての機能を果たしていなくてもおかしくない。S市全体を狂わせようとしていたんだよ、ホンマは。それを俺たちが邪魔した』
『……S市を狂わせて得られるメリットというのは何でしょうか…? それに…あんな大がかりな機械…。費用や技術者は…?』
『目のつけどころがいいな』
創樹がふと問い、シグはフッと笑った。
『俺も気になって、ちょうど妙な邪魂が増え始めてから、何か急激に変化したことがないのか調べた。それに、ホンマのスポンサーになりそうな人物や団体もね。普通に考えて、S市に妙な鬼があふれて、身近な者が鬼に乗っ取られたとしたら、宿主じゃない人間はどうすると思う?』
『どうしていいかわかんないんじゃないの? 鬼とか知らないだろうし』
『ああ。どうしようもねぇよ。普通なら、おかしくなったと思って病院に連れてくとか?』
『病院じゃ治らない。しかも、今判明したように、俺たちが何もしてなかったら、病院にも鬼があふれてる。なら、どうする?』
峰春とザットの答えに、シグが淡々と返す。
『お祓い…ですか? 優梨江ちゃんのご両親のように、教会に駆け込んだり…神社や、お寺なんかに行ったりするんじゃないでしょうか…。最後の手段として』
『その通り。“困った時の神頼み”というヤツだな』
創樹の応えにシグはフッと笑った。
『ですが、お寺や教会でも、鬼の存在が解る人なんてほとんどいないでしょうし…結局どうすることもできないんじゃないですかね…? あの神父みたいに、逆に乗っ取られたり…』
『そう。そこでだ。そんな時に、これをもらったらどうする?』
創樹の遠慮がちな発言に、シグは一枚の紙を取り出した。
『何だこれ…?』
『“清魂会”? 何か怪しげね。清い魂の会?』
ザットが眉根を寄せ、峰春が漢字の部分を読む。
『創樹、赤ペンで囲んである部分、訳してくれ』
創樹は頷き、シグからその紙を受け取った。
『“身近な人が何かにとり憑かれたように突然暴れだしたことはありませんか? 神社やお寺でお祓いしても、効果はありません。お困りの際は、ご相談ください”』
創樹が訳して読んだ。
『…何か、めっちゃ怪しい宗教団体の文句だけど…“何かにとり憑かれたように暴れだす”って、鬼のことか…?』
『ああ。鬼に憑かれた人間が身近にいて、どうしようもない。病院はもとより寺や神社、教会に行っても意味がない。そんな時に、鬼に憑かれた人間の症状が書いてあるそのチラシをもらったら…?』
『そりゃぁ、すがってみたくなるわね』
ザットの言葉にシグが応え、峰春も言った。ザットが創樹から紙を受け取る。
『これ、どこでもらったんだ?』
『駅』
『駅?』
ザットの問いにシグが答え、創樹と峰春は顔を見合わせる。
『最近、行ったことあるか? 駅』
シグの問いに、皆、首を横に振った。
『駅は町の玄関だ。町内外問わず人の出入りが激しいから宣伝にはもってこいだ。おまけに駅ならば宿主には見つかりにくい。ホンマが俺たちや創樹のことを知っていたかは定かではないがね』
『何で宿主に見付かりにくいんだ?』
『宿主は跳べるから、公共交通機関を利用する必要がない。必要ないなら、まず近づかないだろ? 俺だってそのチラシを知ったのは偶然だ』
『そっか。悪知恵が働くんだな、ホンマ。…けど、何でシグが日本語のチラシ読めたんだ?』
シグの言葉にザットが首を傾げる。
『ヘッドだよ。駅の近くのネットカフェに寄った帰り、これが風で飛んできたんだよ。マナーが悪いな…と思って拾ったところに、ヘッドからの呼び出しがかかってね。この紙を持ったままヘッドの元に跳んだんだ』
『それでヘッドがこれ見たのね?』
『ああ。あの人は日本語の読み書きも困らないからな。…この、“セイコンカイ”、すぐにその後会員数を調べてみた。案の定、妙な鬼が増えた直後、会員が急増してる』
シグは手帳を持ってくる。
『鬼に困ってる人間を装って、ヘッドに電話してもらった。会員になるには特に条件もなく、入会登録料として千円払えばいいそうだ。高くはないから、誰でもが入れる』
シグの言葉に創樹は頷き、ザットと峰春はどれほどの金額なのかよくつかめないらしく、首を傾げる。
『千円は1ドル一〇〇円として、約十ドルだな。…だが、この鬼を祓うには入院が必要なんだと。しかも入院費用として七〇万円払わなければならないらしい。約七千ドルちょっとになるかな…』
『はぁっ!? 七千ドル!? マジか!? ぼったくりじゃん!!』
『しかも、鬼を祓うのに入院!?』
ドルで説明したシグの言葉に、ザットが声を上げ、峰春が眉根を寄せた。
『ああ。それでも何とかして欲しいと思うらしい。体験入院が、約三〇〇ドルだったかな…。それだけでやめてもいいとは言っていたが、結局は入院まで引っ張られるようだ。ローンもOKだとか言ってたとか…』
『それだけじゃ…ありませんよね? この清魂会…政治がらみの宗教団体として有名ですよね…? 総選挙も控えてますし…』
遠慮がちに創樹が言った。
『未成年なのによく知っている。そう。もうじき選挙だ。K党の政治家は、政治資金も票も、会員数の増加で安泰というわけだ』
『こいつらがホンマと手ぇくんで、鬼を生み出したのか?』
シグと創樹の会話に、ザットが問う。
『そう考えたが自然だ。メリットという点ではね。ホンマにも莫大な金が入るはずだ。恐らくS市は試験地に選ばれたんじゃないのか? しかも、人の移動によって鬼も移動する。“残る鬼”は次第にその範囲を広げて行き…全国の清魂会では順調に会員数を伸ばせる、って魂胆だろう』
『…鬼に乗っ取られて既に凶暴化した人が、檻に入れられてましたよね? あれが…入院、とすれば…入院させたついでに鬼も生産できる、ってことですか…?』
『ああ。実に都合がいい。そして一定期間をすぎてから、鬼を祓った人間を、家族の元に帰せばいい』
創樹にシグが頷く。
『ずるいにも程があるわね。でも、それならわざわざS市を混乱に陥れる必要がないんじゃないの?』
『混乱は不安を招く。不安が募れば、人は何かにすがりたくなる』
峰春の言葉にシグは答える。
『それに…混乱すれば、市内を掌握しやすくなるだろうな。宗教団体として力をつけた上、セイコンカイには政治家も多く絡んでいると言ったろう』
『権力者の思い通りの構図ってか? いけすかねぇぜ』
ザットがはき捨てる。
『あくまでも予測だがな。そこで、だ。実際問題としてどう攻め入るか…』
『相手は権力、人員、おまけに機械まで使ってこちらを封じにかかっています…。下手に手は出せませんが…』
シグの問いに創樹が微かに眉根を寄せる。
『相手の弱点を見つけないと無理だな』
シグが言って、皆は打つ手がないかを話し合った。




