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その時、シグの上着のポケットが振動し始め、創樹は首を傾げてそれをとり出した。
『あぁ、すまない。ちょっと失礼するよ』
シグは創樹の手から、携帯電話を受け取り、耳に当てた。ドイツ語で何やら話し出す。
一分にも満たない会話のあと、シグは電話を切った。
『定期連絡でね。…と言っても、3日に1度あるかないか、なんだが』
それから自分を見上げている創樹に肩をすくめて見せた。
『そういえば、携帯は?』
『……兄に、取り上げられていましたので…』
シグの問いに、創樹は淡い苦笑を浮かべる。
『そうか…。ならばお兄さんと…そうだな、クボタたちの携帯の番号を覚えてるか?』
『兄は覚えています。久保田さんたちは…幻と現に思い出させてもらえれば』
『…そういう手があるんだな。まぁ、とにかく、今から電話して何かあればこの携帯に連絡してもらえるようにしておいたがいい』
『…そうですね。S市の動きも知っておいたがいいでしょうし…』
『ああ。生の声が欲しい』
『お借りします』
シグに携帯を渡され、創樹はまず、兄の番号を押した。
いつもより長めのコールの後、電話がとられた。
「兄さん? 創樹です」
『創樹! 大丈夫かっ!?』
せき込むような兄の声。
「はい。ご心配をおかけしました。もう、大丈夫です。S市からだいぶ離れたので」
『…そうか…。…この番号は? あの時一緒に居た誰かの?』
「はい。初めに部屋に来た方の携帯を借りて。そちらは変わりない?」
『シグ、とか言ったか…。…変わったこと…そういえば創樹の携帯に二度ほど電話がかかってきた。久保田くんと、谷村くんから。悪いとは思ったが、そのままにもしておけなかったから、電話をとったよ』
「え…? 何かあったと言っていましたか?」
『いや。ただ、二人とも昼間のお礼を言いたかっただけだから、と。何をどこまで言っていいのかわからなかったから、創樹は具合が悪くて電話に出られないと言っておいた。よかったかな?』
「ええ…。ありがとう、兄さん。他に、変わったことは…?」
『いや。昨日のことと、創樹にちゃんと友達が居ると判明したこと以上に変わったことはないよ。父さんたちは今日もホテルに居てもらうことになってる』
兄の言葉に、創樹は淡い苦笑を浮かべる。
「そっか…。兄さん、もし、何かおかしなことがあったら、この番号に電話してくれる?」
『ああ』
「じゃぁ…」
『あ、創樹…』
「ん?」
『……いや。全て終わって、帰ってきてから話そう。無理をしないようにな』
「…はい。ありがとう。じゃあ」
創樹は電話を切った。
『何か変わったことは?』
『いえ、大丈夫のようでした』
『そうか。じゃあ、次はクボタだな』
シグの言葉に創樹が頷くと、創樹の腕の中から現が鳴いて、微かに光る。
創樹は頭の中に浮かんできた番号を押した。
コール音が続く。
「……………………」
一〇回、一一回、一二回…
創樹は電話を切った。
『出なかったのか?』
『はい』
『じゃあ、タニムラを』
創樹は頷き、再び現が光る。
浮かんできた番号を押した。
七回、八回…
『…はい』
「あ、谷村さんですか? 神代です」
『神代さん!? 番号違うし! 具合悪いって? 大丈夫か? 何かあったのか? っていうかお兄さんいたんだ。昨日ビビッたよ』
途端、勢い込む哲哉の声が漏れ聞こえ、息つく間もないその様子にシグがクッと小さく笑う。
「…すみません。どうやら私たちが狙われているみたいなので、一旦、S市を離れたんです」
『狙われてる、って…具合悪いのと関係が?』
「…ええ、まぁ。ですがもう、S市を離れたので大丈夫です」
『そっか。よかった…』
「昨日はわざわざお電話下さったそうで、ありがとうございます」
『いや、こっちが言わなきゃなんねぇ台詞だよ。昨日はありがと』
「いえ。その後、何か変わったことはありましたか?」
『いや。別にないよ』
「そうですか。でしたら、もし、何かおかしなことがあったら、この番号に連絡をお願いします」
『…この番号って、あの外人の兄ちゃんの携帯…だよな? ライオンの兄ちゃんかな? 狼の兄ちゃんとかもいんの?』
「ええ。そうです。みんな一緒に」
『そっか。なら、ちょっとは安心かな。無理しないでくれよ? 俺たちでさんざん神代さんには世話になってるくせ、言うのもなんだけど…』
「ありがとうございます。それと…久保田さんに先ほど電話をかけたんですが…」
『あぁ…遼介、出なかったろ。あいつ、休みの日は昼ぐらいまで寝てるから。用件はこの番号のこと?』
「そうです」
『じゃ、俺から伝えとくよ』
「すみません。お願いします」
『ああ。気をつけてな』
「はい。ありがとうございます。では…」
創樹は電話を切る。
『こちらも変わったことはないようです。ありがとうございました』
『クボタは?』
携帯を返す創樹に、受け取りつつ、シグは尋ねる。
『久保田さん、休みの日はお昼まで寝ているそうなので、谷村さんから連絡をお願いしました』
『そうか。…ザットのようなヤツだな。クボタは』
携帯をズボンのポケットに入れ、シグは苦笑した。クスッと創樹も微かに笑みを漏らす。
ログハウスが見えた。シグが創樹の肩に手を置く。
跳んだ。
『ありがとうございます』
『いいさ』
靴を脱いで玄関をあがりつつ、シグが微笑む。
シグに続いて創樹もあがり、室内へ。猫たちが床に飛び降りる。外よりは少し、温かい室内。
『あ…上着も、ありがとうございました』
『どういたしまして』
はたと気づき、創樹は上着を返した。シグは受け取り、椅子にかける。
『悪いが、梁を起こして来てくれ』
『はい』
創樹は頷き、はしごへ。
『ザット。起きろ』
シグがザットを起こす声を聞きつつ、ロフトに上がった。




