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神宿り  作者:
第4章
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68/103

15

今日もたぶん、3話更新予定です。

たぶん。

できれば…!

『“ソウジュ”…。日本人の女性の名としては珍しいんじゃないか?』

『…ええ。ちょっと変わった名前です』

『どんな字を書くんだ?』

 シグは小枝を拾い、膝を折る。

『“カミ”は…確か、こうだったな…』

 シグは小枝で地面に“神”と書いた。ユニークな形で書き順もめちゃくちゃだが、正確に憶えているのは凄い。

 創樹はシグの隣にしゃがむと、同じように小枝を拾った。

 そして、シグの書いた“神”の隣に、“代”。そして、“創樹”と書く。


『複雑だな。これで、“カミシロ・ソウジュ”?』

『ええ。“神”、“代”、“創”、“樹”』

 創樹は一文字ずつ示しながら言った。

『漢字にはそれぞれ意味があるんだろう? “カミ”が…。他は?』

『“代”は、治世ですとか、“代わり”という意味です。“創”は、“”。“樹”は…』

 創樹はフッと小さな笑みを浮かべ、周りに生える木々を示した。

『樹…?』

 シグが呟き、創樹は頷く。


『私の名前は、“樹によって創られた”という意味です…』

 創樹が自分の書いた文字を見つめ、静かな…静かすぎるほどの口調で、言った。


 しばし、じっとその横顔を見て居たシグが、フッと視線を逸らし、地面に何かを書く。創樹が、その文字を見つめる。

“SIG SAUER”


『…シグ…ザウエル…?』

 創樹が読み上げると、シグが頷いた。

『俺の名前。一応言っておくが本名だ。……わかるヤツは、この名前を聞いた時点ですぐに妙な顔をする…』

『? どうしてですか…?』

 首を傾げる創樹に、フッとシグは笑った。


『銃の名前なんだよ。スイスのシグ社…現在で言うスイスアームズと、ドイツのザウエル&ゾーン社が共同開発した、スイス陸軍向けの高性能自動拳銃のね』

 シグの言葉に、創樹が軽く目をみはる。


『現在でも世界の様々な部隊で使われてている。知名度の高い銃だけに、相手や場によっちゃ、名乗るのを控えなきゃならない困った名前だ』

『…大変ですね』

 肩をすくめるシグに、淡い苦笑と共に創樹が言った。

『まったくだ』

 シグも言うと小枝を放り投げ、立ち上がると、手をはたく。

 創樹も小枝を地面に放り、黒猫を抱き立ちあがる。顔を見合せ、どちらからともなく、クスッと小さな笑みが漏れた。


『さて…もう8時半か…。いくら就寝が深夜だったとはいえ、いいかげんアイツらを起こさないとな…』

 シグは時計を確認し、傍の樹の枝に引っかけていた上着を手にとった。

『そろそろこの辺りの山には、雪がちらつき始めるだろうな…。二ホンカイ側は雪が凄いと聞く』

 シグが呟き、ふわりと創樹の肩に上着をかける。

 創樹が少しだけ目を丸くして、シグを見上げた。


『震えてるじゃないか。俺は平気だ。さっきまで動いてたしな。…行こうか』

 シグはフッと笑うと、うながした。

『…ありがとうございます』

 創樹は礼を言い、一歩遅れてシグに続く。

『ユメは雪のように白い』

 己の肩に我がもの顔で乗っている白猫の喉を、シグがくすぐる。白猫は甘えるように喉を鳴らし、擦り寄った。

『ウツツは漆黒…』

 シグは創樹の腕に抱かれた現を見る。シグを見上げていた現は、フンッとばかりに顔を逸らした。

 クッと微かにシグが笑う。


『ユメは人懐っこくて甘え上手、ウツツは恥ずかしがりやで意地っ張り…だね?』

 シグは創樹を見た。創樹が頷く。黒猫が憮然とするのを、白猫が愉快そうにながめる。


『そういえば、ユメとウツツも、漢字で書けるのか?』

『ええ。“ユメ”は当て字ですけど“幻”という意味の漢字。“ユメ”の音の通り訳せば、“(ドリーム)”という意味になりますが。“ウツツ”は、こちらは読みをそのまま漢字にした、“現れる”ですとか、“現実”という意味の漢字に』

『他の宿神も?』

『ええ。砕牙も翔波も飛天も戦貴も。みんな漢字で書けます』

 創樹の言葉に、シグは興味深げに頷く。


『…日本語は難しい。漢字でも、中国なら読み方がある程度決まっているのに、日本ではいく通りも読み方がある。言葉だって、言い方次第で違う意味になったり、ひとつのことを表現するのに、いく通りも表現の仕方があったり…』

 つぶやくシグを、創樹は見上げる。


『だが、その分日本語は繊細で美しい。英語や他の国の言葉では到底表現できない微妙なニュアンスさえも、日本語では表現できる。…現代の日本の若者は日本語をきちんと使えなくなってきているらしいが、それはもったいないな』

 シグは微笑んだ。

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