11
きりがいいところがわからず、ちょっと長めです。
『ザット、毛布とりに行くぞ』
また不毛な言い争いが始まる前に、と、シグが言う。
『ああ。ちょっと待って』
ザットは頷き、あっという間におにぎりを平らげた。
『砕牙、ロード、ここは頼む。…あぁ、君はシャワー浴びてるといい』
呆れた瞳でそれを見届けてから、シグは虎神と獅子神と創樹に告げ、買っておいた懐中電灯をザットに放り…二人は跳んだ。
『こっちだ』
シグは歩き出す。どうやらここは、レンタル用キャンプ用品の保管倉庫のようだ。
『フォンのヤツ、文句ばっか言って、いっつも面倒なことは人任せだよなぁ…。ソウは文句ひとつ言わず、環境よくしようと努力してんのに』
ぶつぶつとザットが漏らす。
『…多少は性格の違いもあるだろうが、結局のところ育ちだろうな。しつけとかもそれに含まれると思うが…生まれた時から何不自由なく育って、身の回りの世話も全部周囲にやってもらって育った人間は、それが当たり前だと思ってしまう。逆に、身の回りのことは自分でするようにしつけられ、ろくに手をかけられずに育った人間は、自分のことは自分でするのが当たり前だと思う。簡単なことさ』
首を傾げるザットに、シグは肩をすくめた。
『それに、梁はわかりやすい。俺たちに意地を張るから、“疲れた”とは決して言わない。そのくせ、疲れている時はいつも以上にわがままになる。今日は疲れてるんだろう。男と女じゃ体力が違う。それに、俺たちと梁では力の差がありすぎる』
『…今日のシグ、厳しかったもんな。ついて来れないないなら帰れ、って』
『ユンの力が欠けたからな。いつまでも引きずっていれば、付け狙われる。多少、荒療治であっても、仕事では依存心を捨ててもらわないと。ホンマとやりあう上では特にな。甘えられると困る。足を引っ張られるのもな』
『優しいんだか厳しいんだか』
ザットが肩をすくめる。
『梁の望んだことだろう。元々は俺とお前、二人で任務につくことも許されてるんだ。望んで共に行動するのなら、遊び半分は困る。下手すれば命に関わる』
『久々の本格的な任務だしな』
『ああ。…ほら。少し多めに持っていくぞ。女性陣にもな。ベッドがあるとは言え、置いてあったのは夏の毛布だったし』
懐中電灯の明かりに浮かび上がる毛布に立ち止まり、二人で引っ張り出す。
『一旦外に跳んで、埃払ってから戻るぞ』
シグの言葉にザットは頷き、二人は毛布を持って外へ跳ぶ。
『男と女じゃ体力が違う…か。けど、ソウはどうなる?』
とりあえず一枚目の毛布をバタバタとしながらザットが話を戻す。
『彼女は別だな。便利と言うか、危ういと言うか…』
『…あの、体が生命エネルギーを勝手に補給する、っての?』
『ああ。体力にしろ宿神に力を使わせるにしろ、一線を越えると自然に体が回復してしまう。彼女が望む、望まないに関わらず。…それも、きっと六柱も宿神を宿していられる理由のひとつなんだろうな…。だが、まだ不可解だ。それだけじゃ、無理だ…』
『無理? 何が?』
シグの言葉に、ザットは首を傾げた。
『……初めに宿神を複数宿す宿主の話を聞いた時、不可能だと思ったよ…。実際に彼女と会うまで、信じられなかった。そして今では…不思議でならない』
『不可能? 不思議? 何で? そりゃソウ以外にそんな宿主聞いたことねぇけど…』
『どんな器にも限界はある。この場合の器は、人の体だな。宿神の力が中身。普通に考えて、器に器よりも大きな力が入ったら力はあふれる。だが、宿神の場合は別だ。器からあふれることはありえない』
『何で?』
『宿神はそれぞれ特有の姿を持つ。ロードはライオン。ハックなら狼、と言うように。力の塊がひとつの形をとっていると考えていい。つまり…力が欠ければ、当然その姿も変わるはず。小さくなるなり、一部が欠けるなりしてな。能力の一部が欠けてもおかしくない。ユンの力が欠けた時、霧状になってから流れて行ったろ?』
『う~んと…? 力が欠けると形を保ってられない、ってことか?』
『ああ。だから、この場合の人間の器は、密閉された容器でなければならない。そうだな…宿神の力を空気、宿主の器を風船と考えてみてくれ。掌サイズの風船に、部屋一杯の空気を詰め込んだらどうなる?』
『そりゃもちろん破裂するさ』
『そう。つまり、大きな力を持った宿神が、その力よりも小さな器の宿主に入ろうとすれば、宿主が破裂する。忘れてはならない条件は、宿神の場合宿主と言う風船の中に完全に入りきるか、入らないかのふたつにひとつ。だから、宿神は己の力の大きさに見合った器に入る。俺やお前は大きめの器だから、最高位神や高位神』
『じゃ、フォンの器は、小さめだから、ユン?』
『ああ。宿主としてはね。器だけじゃなく素質や相性も関係するだろうが。そこでだ。さっき言ったように、どんな人間でも器の大きさには限りがある。つまり、宿主という風船の大きさにも限界がある』
ふと、毛布の埃を払う手をとめ、シグはザットを見た。
『だとすれば、彼女はどれだけ大きい器を持っているんだ? 六柱もの宿神をその身に宿しながら…彼女は何で破裂しないんだ? しかも、大半が高位神…最高位神のサイガまでが居るのに』
シグの言葉に、思わずザットも手をとめた。
『…………だから…不可能で、不思議って言ったのか…』
つぶやくザットにシグは頷く。ザットはいつになく真剣にしばし何かを考える。だが、やがてフッと表情を緩めた。
『いいんじゃねぇの? 不思議でも気にしなくて。ソウは破裂してないんだから』
それからのんきに言うザットをシグはまじまじと見つめ、不意にクッと吹き出した。
『…いいよな、お前。何も気にしないで居られるその性格』
『シグはすっげー理詰めだもんな』
『ああ。理論と金と力。これで解決しないことはほとんどないからな』
『悪人のセリフみてぇ』
『何とでも言え』
ザットが笑い、シグは肩をすくめた。
『謎はいっぱいだし、本人もわかってないんだろうけど、ソウはいい子だからそれでいいや。可愛いし素直だし』
『…そうだな。面倒じゃないし』
『何それ?』
ボソッとシグが付け加えた言葉に、ザットが眉根を寄せる。
『お前と梁は初歩的な質問はするし、不毛な言い争いがたえないだろう。毎回とめるのも面倒だ。彼女は基本的なことは、砕牙たちから学んでるようだし、会話の先を読んでくれるから楽だ』
『…どーせ俺たちはトラブルメーカーだよ』
『ま、その分退屈はしないがな』
むくれるザットにフッと笑い、その肩をポンポンッとたたいてなだめると、シグは埃を落とし終えた毛布を抱え直す。ザットも肩をすくめ、こちらも毛布を抱え直した。
『行くぞ』
『ああ』
そして二人は、跳んだ。




