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神宿り  作者:
第3章
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48/103

8

 翌日、創樹はいつもの時間に目を覚ました。

 目の前にふわふわの皮毛。

「砕牙…おはよう」

 小さな声で創樹が囁く。虎が頭をもたげた。

 創樹は小さな笑みを浮かべる。虎は、創樹に優しく鼻先を押し当て、消えた。

 いつもは創樹が寝入ると消えてしまうのに、今日は創樹が起きるまでそばにいてくれたらしい。


 創樹は軽く身支度を整えると、一階へ下りる。

「おはよう」

 いつものようにダイニングでコーヒーを飲んでいた咲也に、小さく挨拶をする。

「ああ。おはよう」

 咲也も静かに答えた。


「……仕事は…?」

 コーヒーメーカーに入っているコーヒーをカップに移しながら、背広を着ていない咲也に、創樹は尋ねる。

「…休んだ」

「休んだ…? 兄さんが…?」

 就職して以来、無遅刻無欠席だった兄の言葉に、創樹は動きを止める。


「ああ。この顔で出勤するのはまずいだろう? それに、家の片付けも済ませたい」

 唇がまだ、かすかに腫れている。だが、そんなに目立つほどのものではない。

「…それと、今日は創樹も休みなさい。土曜日だからどうせ課外授業だけだろう。さっき、学校には電話を入れておいたから」

「え…?」

「いいね?」

「………はい…」

 昨日のことがあるからなのだと、嫌でもわかり、創樹は返事をした。


 トーストで軽く朝食を済ませると、創樹はもう一度着替える。今度は、制服から動きやすい格好に。それからリビングへと…。


 黙々と、二人で部屋を片付けた。

 もう使えなくなったものと、そうでないものに分け、一箇所にまとめる。掃除機をかけて床のガラスや観葉植物の鉢からまき散らされた砂を吸い取り、ソファや机を起こしてゆく。シャッターは、閉ざしたまま。


 遅めの昼食をはさみ、最後にもう一度掃除機をかけ、床をふく。粗方片付いた。

 ちょうどその頃に、咲也が電話していたガラス屋が到着した。

「派手に割れてますねぇ。子供にやられたんですか?」

「ええ。ボール遊びをしていたらしく。本棚のガラスまで割られてしまいましたよ」

 ガラス屋の言葉に、適当に咲也が合わせる。

 一度ガラスのサイズや種類と厚みを確認して、一旦ガラス屋は帰り、次にガラスを持ってやってきた。

 すぐに本棚や窓に新しいガラスが入る。


 その間に咲也は大型電気量販店に行き、新しいテレビを購入した。

 ガラス屋と入れ替わるように電気屋がテレビを設置し、壊れたテレビを回収していく。

 これで以前の部屋と、あまり変わりがなくなった。

 もう、夕方になっていた。


「父さんと母さんには、一応今日もホテルに泊まってもらうことになってる」

 咲也の言葉に、創樹が頷いた。


 その時、創樹の携帯が鳴る。

 『久保田遼介』からだ。

 創樹は嫌な予感がしたが、急いで電話を取る。


「はい」

『神代さんっ!? 俺。遼介』

「何か、あったんですか?」

 随分と息が荒く、電波も悪い遼介の電話に、創樹が問う。


『俺たち、今、泰善の職員室にいるんだけど…。欠席分の補講ってタカ先に呼び出されてさ』

『それはお前だろう。っつーかそんなことどうでもいいから、電話貸せっ!』

 哲哉の声が聞こえた。

『神代さん、今、ウチの学校のセンセたちがいきなり暴れだして。職員室大パニッ…うわっ!! ……っと、危ねー。遼介、大丈夫か?』

『ってー。小倉に殴られた! くそムカつくっ!!』

『無事みたいだな。…っと、神代さん、例の…鬼につかれた、って状態。今日、土曜でセンセたち少なかったのが救いっつーか。まだ誰も職員室から出てないけど、このままじゃ、誰か外に飛び出しちまうかも。補習とか、結構学校内でもあってんの…にさっ!』

 何かをよけたらしい哲哉の声。


「すぐに行きます」

 創樹は答え、電話を切る。

「創樹、今日は家に…」

「ごめんなさい、兄さん。すぐに戻ります」

 兄の制止を振り切り、創樹は駆け出した。


「待ちなさい」

 玄関で腕をつかまれる。痛いほどに、きつく腕を引かれる。

「ごめんなさい、兄さん。でも、このままじゃ…」

 と、いつの間にそこにいたのか、黒猫が咲也の顔めがけてジャンプする。


「うわっ」

 とっさに創樹を掴んでいない方の腕で顔をかばう咲也。創樹の手を引く力が緩む。

 その隙に創樹は兄の手を振り払い、駆け出した。

 黒猫は方向を変え、咲也の肩に着地すると、すぐに創樹を追いかける。バタンと、扉が閉まる。


「創樹!」

 咲也は靴を引っ掛け、玄関から飛び出した。

「…………創樹…?」

 道路に飛び出し、辺りを見回す。

 創樹の姿は、どこにもなかった。


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