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かなりの数の鬼。
だが、邪魂や鬼が満たされているわけでもなく、教会よりも多少はマシだった。
結界をはり、鬼を外に出さないようにする。電話を入れたので、すぐにシグとザットも現れ、一気に鬼を祓う。それから一応、念のために、シグがもう一度結界をはった。創樹が記憶の修正をする。
『見られてたよなぁ』
『ああ。ここに来る時な…』
ザットがやれやれ、と肩をすくめ、シグが苦笑する。
「お怪我は…?」
創樹は唯一乗っ取られていなかった石原と遼介、哲哉に問う。
「あぁ、大丈夫。助かったよ」
「タイミング悪ぃぜ。センセに呼ばれてすぐだったもんなぁ…」
「遼介が誘うから、俺まで酷い目見たぜ。けど、人数の割にたいして怪我ねぇよな。擦り傷とあざくらいで」
三人が口々に言った。
「……妙だったな…。囲んで来た割には、こちらがどうしようもなくなるような攻撃をして来なかった。ただ時間を引き延ばしている感じだったな。まるで…君たちが現れるのを待つかのように…」
石原が眉根を寄せる。
創樹も眉根を寄せて、怪訝そうな表情でそばにやってきたシグとザットにそのことを伝える。
『…こちらの出方を見ているのか…』
『……………実は…』
呟くシグに、創樹は例の脅迫状を取り出し、シグに見せた。
『これは?』
『『邪魔者は消す。命が惜しくば手を出すな』そう、日本語で書いてあります。昨日、家に帰ったら、それが』
シグの問いに、創樹は静かに答えた。
『ソウの家族は無事なのか?』
『ええ。家は荒らされていましたが、殴られる程度で…』
思わず問うザットに、創樹は静かに答える。
『ひでぇな…』
ザットが眉根を寄せる。
『…これはマズイかもな。君は早く家に戻って。この警告に、君はたった今、背いた。もう一度家が狙われる可能性がある』
シグの言葉を予測していたように、創樹は静かに頷いて手紙を返してもらう。
『もうすぐ梁と合流する予定だったんだ。合流でき次第、梁を連れて行く。あと…ちょっと判ったことがあるんだが、それも、その時に』
シグの言葉に、創樹は頷いた。
『俺が、跳ばす。皆を戻して』
『? 自分で跳んだが早くないか?』
シグの言葉に、ザットが首を傾げる。
『…気付いてなかったのか? 彼女は自分じゃ跳べない。生まれつきの宿主じゃないからな。いつも跳ぶ時、ショウハに頼んでる。そうでなければ、サイガの背に乗って移動している。だが、ショウハもサイガも普通に見かける動物じゃないから、必ず消えてからか、人の気配にじゅうぶん注意してからしか移動できない』
シグが苦笑した。ザットが驚いたように創樹を見やる。皆を戻し、移動地点の気配を探っていた創樹は、淡い苦笑と共にザットに頷いた。
『行くぞ』
『お願いします』
告げるシグに創樹は頷き、シグの手が創樹の肩に触れる。
跳ばされた。
家の近くの細い路地。角をひとつ曲がると、家が見えた。家の前に、また兄がいる。
「創樹!」
創樹が駆け寄ると、咲也は声を上げた。
「何をやってたんだ…!」
引きずられるように門の中に。
「一体…っ!?」
言葉を途中に、咲也が目をみはった。
「飛天!」
創樹は突然の鬼の気配に、叫んでいた。ぞくりと背筋が泡立つ。
瞬時に現れた飛天は、一瞬で自分と兄の周囲に結界を張ってくれた。
はじき飛ばされる鬼に乗っ取られた二人の人間。
「あ…」
愕然としたように、咲也がその人間を見て居た。
創樹も振り返る。
「……………っ…!」
四〇代後半くらいの男女。創樹も目をみはる。
「父さん…? 母さん…?」
咲也が駆け寄ろうとする。
「待って!」
創樹が止めた。
「まだ、駄目。飛天!」
創樹が兄を制しながら、二人を示した。咲也は己の目の前を通過する鳥に初めて気づき、息をのむ。
創樹と咲也に飛びかかろうとする両親を、炎をまとったかのような鳥が、一気に通りぬけ、その核を霧散させた。
「幻、現」
「「みゃぅ!」」
ふいに現れた猫神たちが鳴き、両親と、それから近所の目撃者の記憶を塗り替えた。
「兄さん、二人を家の中に」
創樹に言われ、はたと我に返った咲也は、創樹と共に崩れ落ちる両親を支え、家の中に。
「飛天、お願い」
創樹の言葉にかたわらに舞い降りた鳥が光を放ち、もう一度家中に結界を張った。既に砕牙の結界も張ってあるため、より安全だ。
「みゅ?」
ふと、窓の外を見て、白猫が首を傾げる。
「ミャゥ!」
黒猫が背中の毛を逆立て怒りの声を上げ、家の外に跳んだ。
創樹と咲也が何事かと見ると、空間からひらりと紙が出現し、舞い落ちる。それをくわえた黒猫が瞬時に跳んで戻って来た。
創樹がその紙を受け取り、唇を噛んだ。
「………創樹…?」
咲也の手が伸び、創樹の手から紙を奪う。そして、一瞬にして顔がこわばる。
『何故助ける。誰も理解しないのに。邪魔立てするのなら、次は、お前だ』
創樹は無言のまま紙を取り戻し、ポケットにねじ込んだ。
「二人をホテルに送ります」
創樹は静かに告げた。その言葉に咲也は両親に瞳を戻す。
「父さんと母さんは…」
「…大丈夫。今は眠ってるだけ」
それから心配そうに己を見る兄に、創樹がそっと告げた。咲也が両親の頬に触れる。
「翔波…」
創樹の呼びかけと同時に一角獣が姿を現した。
「姿は消して」
すぐに言った創樹の言葉に、咲也が何事かと見上げた時には、何か大きな気配はするものの、何も、見えなかった。
「ありがとう」
空間にそっと言った創樹は、兄を見る。
「お父さんとお母さんの泊まってたホテルは? 部屋番号とか、知ってるよね?」
「Nホテル、512号室」
それから尋ねる創樹に、咲也は眉根を寄せつつ、淡々と答える。
「飛天、確認と結界、お願い」
創樹の瞳を受け、一声鳴くと、鳥は消えた。咲也がまじまじと鳥のいた場所を見る。それから真っ直ぐ、創樹を見つめる。妹の額に、汗が浮かんでいることに、咲也は気づく。
すぐに再び、鳥が現れた。鳥は鳴き声をあげ、創樹に礼を言われると擦り寄ってから、すぐに消える。
「じゃあ、二人を送ってきます」
「どうやって?」
「……………………」
問われ、創樹は静かに笑みを口許に浮かべるだけ。
「……俺も行く」
それ以上突っ込むことはしないものの、拒絶を許さない態度で言った咲也に、創樹は頷くしかなかった。
「じゃあ、私の腕を掴んでて」
創樹は重ねた両親の掌に片方の掌を置き、もう一方を咲也には見えない翔波に触れながら言った。肩には黒猫と白猫が。
眉根を寄せたものの、咲也が創樹の腕を掴む。
跳んだ。




