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次の瞬間、創樹とシグは、二人揃って視線を転じ、空間を見やる。
「Shit!!」
突然空間に声が響き、二人の見て居た場所に、突然男が現れた。
『逃げられたか?』
『人数が多すぎる。宿主じゃない普通の人間ばっかりだ』
シグの問いに、ザットは答えた。シグの瞳も口調も、元に戻っている。
『…ここを張っていた人間ですか…?』
創樹が問う。
『ああ。まったく嫌になるぜ。どいつもこいつも腹黒で』
ザットが肩をすくめる。
『…やはり、気付いていたか…』
静かにシグがつぶやいた。
『…ええ。これ以上近づくと見つかるから、と、途中で砕牙が。結界を張って下さっているみたいですね?』
『ああ。明らかに見張られていたからな。目くらましに』
頷く創樹に、シグも肩をすくめた。
『ザットにもあの男を見せてやってくれないか? …無理をしないで済むならば』
『あの男?』
シグと、頷く創樹を交互に見て、ザットは首を傾げた。
『クボタの記憶を荒らしたヤツさ。恐らくこの件の首謀者…』
『記憶を荒らしたっ!?』
シグの言葉を聞いた瞬間、声を上げるザットの剣幕に、ザットに近づきかけた猫たちが飛びのき、シグ以外の人間はびくりと一瞬身をすくめた。
『何てことしやがんだっ!! 一番やっちゃいけねぇことだろっ!? ぜってー許さねぇ!! 故意に記憶を荒らすなんて…』
ザットが怒りをぶちまける。握り締められた拳が、怒りに震えている。
『…今しがた彼女とユメとウツツがクボタの記憶の体裁を整えた。修復は彼女の力が万全な時。精神の波長は表面上整っているから、ひとまず精神崩壊は免れる』
シグが静かに言った。
『そう…か…。精神崩壊は免れるのか…。よかった…。一旦崩壊し始めたら、止めるのも、戻すのもかなり難しくなるもんな…』
シグの言葉に、ほっとしたようにザットは拳に入れた力を抜いた。
『…ソウ、疲れてるだろうに、偉いよ。すげぇ』
それから創樹を見つめ、小さな笑みを見せる。
創樹は首を横に振った。
『私ではなく、幻と現の力です』
創樹は静かに告げ、猫たちに手を差し伸べた。二神が創樹の肩に登る。
『この件の首謀者と思われる男の姿を…』
『頼む』
創樹が静かに言うと、ザットは頷いた。幻と現が創樹の腕を伝ってザットの肩に飛び乗った。
猫神たちが微かに光る。
『コイツか…』
ザットが呟く。
猫たちが創樹の肩に戻った。
『コイツが…。ぜってー捕まえてやるっ!!』
ザットが力強く右拳を左手に打ち付けた。
『…梁さんは? 彼女にも知っておいてもらったがよいのでは?』
創樹が静かに二人を見る。
『あぁ、梁は野暮用でな…。明日、君のところに連れて行ってもいいか?』
『…ええ、どうぞ』
シグの言葉に、創樹は静かに頷いた。
『じゃあ…ひとまず彼らを安全に送り届けなければな…』
シグがただ沈黙を保ってこちらを見つめている二人の人間と、依然、横たわっている遼介を見やる。
『……やっぱ、記憶は消しとくべきだったのかな…』
ぽつりとザットがつぶやく。
『…今回は、久保田さんに記憶が残っていたから、荒らされただけで済んだのだと思います』
静かに創樹が言った。
『どういう意味だ?』
『抜き取った記憶の欠片まで掘り起こそうとしていた、そう言っていたな…?』
眉根を寄せるザットと、ゆっくりと確認するように言うシグ。
『ええ。記憶というものは、実際は脳だけに残っている訳ではなく…全身の細胞に残るものだと、聞いたことはありませんか?』
創樹は静かに二人を見上げる。
『…臓器移植を受けた人間が、知らない土地の風景を知っていたり、手術前とは好みが変わったりする例がある、と、聞いたことがあるな。臓器提供者の記憶だとか』
シグが応える。
『多分、そうなんです。記憶を消しても、どこかに、その欠片が残っているんです。知覚しないだけで…意識しないだけで…体は、覚えているんです。だから、恐らく、幻と現は、潜在意識を探ることが可能なのだと…』
創樹はゆっくりと考えつつ、話す。
『もし、今回久保田さんの記憶が消されていたとしたら…久保田さんの記憶を荒らしていった男は、あきらめたでしょうか…?』
『…あの荒っぽさから言えば、ノーだな。何の情報も掴めなかったとしたら…クボタが壊れるまで記憶を探っていてもおかしくない。そう言いたいんだろう?』
創樹の問いに、シグが唇の端に笑みを刻んだ。創樹は頷く。
『だから、今回はこれでよかったんだろう。クボタにとっては。…俺たちにとっては情報が知られてしまったから、よかったとは言いがたいが』
シグが軽くザットの背中をたたく。




