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神宿り  作者:
第3章
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45/103

5

次の瞬間、創樹とシグは、二人揃って視線を転じ、空間を見やる。

「Shit!!」

 突然空間に声が響き、二人の見て居た場所に、突然男が現れた。


『逃げられたか?』

『人数が多すぎる。宿主じゃない普通の人間ばっかりだ』

 シグの問いに、ザットは答えた。シグの瞳も口調も、元に戻っている。


『…ここを張っていた人間ですか…?』

 創樹が問う。

『ああ。まったく嫌になるぜ。どいつもこいつも腹黒で』

 ザットが肩をすくめる。


『…やはり、気付いていたか…』

 静かにシグがつぶやいた。

『…ええ。これ以上近づくと見つかるから、と、途中で砕牙が。結界を張って下さっているみたいですね?』

『ああ。明らかに見張られていたからな。目くらましに』

 頷く創樹に、シグも肩をすくめた。


『ザットにもあの男を見せてやってくれないか? …無理をしないで済むならば』

『あの男?』

 シグと、頷く創樹を交互に見て、ザットは首を傾げた。

『クボタの記憶を荒らしたヤツさ。恐らくこの件の首謀者…』

『記憶を荒らしたっ!?』

 シグの言葉を聞いた瞬間、声を上げるザットの剣幕に、ザットに近づきかけた猫たちが飛びのき、シグ以外の人間はびくりと一瞬身をすくめた。


『何てことしやがんだっ!! 一番やっちゃいけねぇことだろっ!? ぜってー許さねぇ!! 故意に記憶を荒らすなんて…』

 ザットが怒りをぶちまける。握り締められた拳が、怒りに震えている。


『…今しがた彼女とユメとウツツがクボタの記憶の体裁を整えた。修復は彼女の力が万全な時。精神の波長は表面上整っているから、ひとまず精神崩壊は免れる』

 シグが静かに言った。

『そう…か…。精神崩壊は免れるのか…。よかった…。一旦崩壊し始めたら、止めるのも、戻すのもかなり難しくなるもんな…』

 シグの言葉に、ほっとしたようにザットは拳に入れた力を抜いた。


『…ソウ、疲れてるだろうに、偉いよ。すげぇ』

 それから創樹を見つめ、小さな笑みを見せる。

 創樹は首を横に振った。

『私ではなく、幻と現の力です』

 創樹は静かに告げ、猫たちに手を差し伸べた。二神が創樹の肩に登る。


『この件の首謀者と思われる男の姿を…』

『頼む』

 創樹が静かに言うと、ザットは頷いた。幻と現が創樹の腕を伝ってザットの肩に飛び乗った。

 猫神たちが微かに光る。

『コイツか…』

 ザットが呟く。

 猫たちが創樹の肩に戻った。


『コイツが…。ぜってー捕まえてやるっ!!』

 ザットが力強く右拳を左手に打ち付けた。

『…梁さんは? 彼女にも知っておいてもらったがよいのでは?』

 創樹が静かに二人を見る。

『あぁ、梁は野暮用でな…。明日、君のところに連れて行ってもいいか?』

『…ええ、どうぞ』

 シグの言葉に、創樹は静かに頷いた。


『じゃあ…ひとまず彼らを安全に送り届けなければな…』

 シグがただ沈黙を保ってこちらを見つめている二人の人間と、依然、横たわっている遼介を見やる。


『……やっぱ、記憶は消しとくべきだったのかな…』

 ぽつりとザットがつぶやく。

『…今回は、久保田さんに記憶が残っていたから、荒らされただけで済んだのだと思います』

 静かに創樹が言った。


『どういう意味だ?』

『抜き取った記憶の欠片まで掘り起こそうとしていた、そう言っていたな…?』

 眉根を寄せるザットと、ゆっくりと確認するように言うシグ。


『ええ。記憶というものは、実際は脳だけに残っている訳ではなく…全身の細胞に残るものだと、聞いたことはありませんか?』

 創樹は静かに二人を見上げる。


『…臓器移植を受けた人間が、知らない土地の風景を知っていたり、手術前とは好みが変わったりする例がある、と、聞いたことがあるな。臓器提供者の記憶だとか』

 シグが応える。

『多分、そうなんです。記憶を消しても、どこかに、その欠片が残っているんです。知覚しないだけで…意識しないだけで…体は、覚えているんです。だから、恐らく、幻と現は、潜在意識を探ることが可能なのだと…』

 創樹はゆっくりと考えつつ、話す。


『もし、今回久保田さんの記憶が消されていたとしたら…久保田さんの記憶を荒らしていった男は、あきらめたでしょうか…?』

『…あの荒っぽさから言えば、ノーだな。何の情報も掴めなかったとしたら…クボタが壊れるまで記憶を探っていてもおかしくない。そう言いたいんだろう?』

 創樹の問いに、シグが唇の端に笑みを刻んだ。創樹は頷く。


『だから、今回はこれでよかったんだろう。クボタにとっては。…俺たちにとっては情報が知られてしまったから、よかったとは言いがたいが』

 シグが軽くザットの背中をたたく。

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