4
創樹は遼介の額に手を当てる。
「幻、現」
「「みゅ」」
創樹に応えるように二柱が鳴き、その体から光が放たれる。
遼介の身体を支えている石原は、猫神たちの放つ光が暖かいことに気づく。
次第に創樹の額に汗が浮かんできた。ひときわ光が強まる。と、虎が創樹の服を噛み、優しく引っぱる。はずみで、創樹の手が、遼介の額から外れた。光が収束する。
そのまま倒れこみそうになる創樹を、虎が受け止める。猫が創樹のそばに寄った。
シグがちらりと創樹を見やってから遼介に近づくと、その手を先程まで創樹の触れていた額へと。
しばしの後、シグは手を放し、フッと唇の端に笑みを浮かべた。
己を見ている哲哉と石原に頷き、二人の額に触れる。
『ひとまず問題ない。精神の波長が表面上整っている。日常生活では問題ないだろう』
意志を伝え、それからシグは創樹に近づく。
まぶたを閉じた創樹の額に触れようとした手を、虎が制した。軽くうなり、創樹をその背にかつぐと、窓際に行く。
『力を吸われる…? どういう意味だ…?』
ライオンに虎の言葉を訳してもらうと、シグは眉根を寄せ、窓際に近づいた。その窓辺には、樹が植わっていて、色づいた葉がまだ残っている。
次の瞬間、残っていた葉が、一気に枯れ落ちた。
晩秋から一気に冬が訪れたかのような光景に、シグは軽く眼を見張り、虎と創樹を見た。
創樹がゆっくりと眼を開ける。
『……こういうことか…だから教会でも…』
シグは教会で、片隅に積み上げられた机や椅子がくぼむように崩れ落ちていったのを思い出した。
後で気になって調べてみると、木製の机や椅子は、大半が朽ちていた。
「知られた…」
創樹がふいにつぶやく。
『何だ?』
『知られた』
創樹が呟き、シグを見上げた。
『誰に、何を』
シグの問いに、しばし創樹は逡巡し、それから哲哉に瞳を移すと、言った。
「…………記憶を、貸してもらえますか?」
「記憶を…貸す?」
哲哉は意味が判らず、首を傾げる。
「はい。その男の姿を、知るために。もちろん、谷村さんに何ら害がないことはお約束します」
「…まぁ、その辺、神代さんだし信用するけど、俺はどうすればいいんだ?」
哲哉が首を傾げる。
「…幻」
創樹に声を掛けられ、白猫が哲哉の膝に飛び乗った。しばしの後、幻が鳴き声を上げる。
「現」
創樹の言葉に、幻の傍に駆け寄った。黒猫と白猫が額をつき合わせ、その体から光が放たれる。
光の中に、人影が浮かび出た。
「この男に、間違いありませんね?」
「あ…ああ」
創樹の確認に、驚いたように哲哉が頷く。石原もまじまじと光に浮かぶ人影を見ていた。
シグがスッと眼を細め、眉根を寄せて、じっくりその男を観察する。
ふっと光が消える。
『この男が、彼の記憶を荒らした張本人』
創樹が遼介を示し、シグに告げた。
『そして、記憶の断片から、私たちの姿と名前、宿神を数神知られたはずです。どの程度まで探りを入れられたのかはわかりませんが』
創樹の言葉に、シグは静かに頷く。
『……ところで…『化け物を飼う組織』とは…?』
創樹が静かに問う言葉に、シグの瞳に霜が降り、何の感情も映さないまま探るように瞳を見つめ返す。
『…彼の記憶を荒らされた時、先程の男の記憶も少し、彼に流れ込んだようなんです』
シグの瞳を静かに受け止めたまま、創樹は告げた。
『男は優梨江ちゃんの家を見上げて、呟きました。『あの化け物どもを飼う組織か…』と。…あなた方がどんな組織に所属してあるのかは知りませんが…先程の男には心当たりがあるようですよ…?』
ゆっくりと言った創樹から、シグは瞳をそらさない。
『…さっきの男…、他に、何か情報は…?』
冷ややかとも思える平坦な口調で、シグは問う。
『…ハッキリとは言えませんが、部下らしき方たちに囲まれた光景が一瞬。会話が日本語ですので日本人でしょう。それと…『けん』…』
『『けん』?』
『誰かに呼ばれていたので、恐らく名前の断片かと。『ケンスケ』『ケンジ』『ケンイチ』など、日本人の男性名に使われる音ですから』
『…恐らく宿主で、組織を知り、『けん』…。調べてみよう』
創樹の言葉に、静かにシグは頷いた。




