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『だが…』
シグは創樹と砕牙を等分に見つめる。
『やりましょう。体力が消耗してからより、まだ余力のある今の方がいいはずでは?』
創樹は静かに告げ、虎はあきらめのため息をついた。
シグはひとつ頷く。
「幻、現」
創樹が名を呼ぶと、そこにいたはずの二匹の猫が消えた。
『砕牙は攻撃。翔波と飛天には結界を』
『いや、攻撃は俺たちで何とかなる。…サイガ、結界にまわって頂けるか? サイガとショーハとヒテンならば、確実だろう』
告げた創樹に、冷静に応え、シグは砕牙を見つめる。砕牙は鋭い瞳で一瞬シグを見つめ、頷いた。
『ありがとう。…じゃあ、ザット、合図で一気に力を解放だ。全て鬼と邪魂が消えた瞬間、サイガたちにお願いしよう』
シグは砕牙に礼を言った後、ザットと創樹に告げる。二人と、宿神たちが頷いた。
言われるまでもなく、タイミングが重要だと三人は承知している。
『用意は?』
『いつでも』
『大丈夫です』
シグの言葉に、ザットと創樹は頷く。
『じゃあ…スリー・ツー・ワン…ゼロッ!!』
気負いのないシグの合図と同時に、教会の中に光が爆発した。
無音の爆発。
目のくらむ閃光。
「砕牙、翔波、飛天っ!!」
閃光が収束する瞬間、創樹の声が響く。
鬼に乗っ取られた人間によって、机や椅子が投げられる音も、うなり声も、全てが消えた。
しん…と、恐ろしいほどに教会内は静まり返り、同時にどこからともなく風が吹きぬけ、一瞬にして空気が清浄なものになった。
乗っ取られていた神父、シスター、母親や子どもたちは、その場に崩れ落ちる。
その表情から、凶暴さは消えている。
「幻、現…」
微かなかすれた声と共に、今度は柔らかな光が満ちた。
倒れふしている皆の表情が和らぐ。
じょじょに、音が戻った。
視界も戻る。
『久々に疲れたな』
ふうっと息を吐き、シグが宙からトンッと床に舞い降りる。かたわらに、ライオンも着地した。
『同じく』
息を整えつつ、ザットは壁に背中を預け、汗をぬぐった。漆黒の狼も、伸びをする。
『あれ? ソウは?』
ザットは首を傾げた。
『あ…』
その言葉に、辺りを見回したシグの瞳が、宙に固定される。
つられてザットも、同じく創樹を見失ったらしい創樹の宿神たちも、宙を見上げる。
宙に、創樹が横たわっていた。見えない巨人が創樹を支えているようだ。
ふっ…と、突然その体が落下する。
『えっ!?』
驚き、壁から身を起こすザット。
シグがとっさにそちらに掌を向けた。掌から光がほとばしって創樹にあたる。
光に包まれた瞬間、落ちてくる速度が遅くなった。いつの間にか、創樹と床の間に体を滑り込ませていた砕牙が、柔らかく受け止めた。
そっと創樹の体を床に下ろし、その身で包みこむ。
鳥が虎の傍らに舞い降り、いつの間に再び現れたのか、猫たちが駆け寄ってくる。
一角獣も創樹の顔を覗き込んだ。
虎がシグに向かって声を発する。シグは傍らのライオンを見やり、虎に視線を戻す。
『大したことじゃない。礼を言うのはこちらだ』
シグは告げ、ゆっくりと創樹とその宿神たちに歩み寄る。
ザットも続いた。
『彼女は…?』
シグはそっと創樹の顔を覗き込んだ後、砕牙を見る。
砕牙は創樹から目を離さないまま、小さなうなり声をあげた。
『そうか…。無理をさせてしまったな…』
ロードに言葉を訳してもらい、シグは小さなため息をついた。
ロードがふっと姿を消した。
ザットとハックが教会の扉を見つめる。
しばらくすると、ふっ…と再びロードが姿を現した。
『騒がしいと思ったら、そうか…。教会の外に、例の〝クボタ〟とほか数名が。ここに入ろうとしているそうだが…どうする? あまり長居も出来なさそうだ。ご希望の場所があれば跳ばすが…?』
シグは虎と、それから創樹を見やった。
虎はうなりを返す。
『…そうか。彼女が例の約束をした女の子が…。ザット、対面しないわけにはいかないようだ。ここをとりあえず人が入れるようにするぞ。被害者を一箇所に集めてくれ』
シグの言葉に肩をすくめ、ザットは漆黒の狼と共にあちこちに倒れ伏す人々を抱え上げ、シグのあけた空間に横たわらせていった。
シグは掌をあちこちに向け、ロードと共に机や椅子を傍らに寄せる。
そのほとんどが壊れていて、とても使えそうになかったが。
『こんなもんか…。サイガ、彼女のことは俺から説明しよう。何か言いたいことがあったら、ロードを通じて言ってくれ。皆、ひとまず外の人間が驚かないように、姿を消してくれるか? …あぁ、猫神たちは構わないよ』
シグの言葉と同時に、宿神たちの姿は消えた。創樹は空間に寄りかかっているように見える。
『少しだけ、彼女をお借りしても?』
シグは丁重に空間に確認してから、そっと創樹を抱き上げた。




