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一方教会では、相変わらず激しい攻防戦が繰り広げられている。
消しても消しても、どこからか邪魂が現れ、みるみるうちに鬼に成長する。
『きりがないな…』
シグが呟く。
『一気に力を解放するか?』
ザットが尋ねる。
『いや…そいつは無謀かもしれん。この邪魂の増え方、鬼に成長する速度。明らかに異常だ。それに、初めに言ったように、聖域である教会にこれだけの邪魂や鬼が満ちているのもな』
シグが呟く。
『誰かの意志が働いている、ということですね…?』
虎の上で汗をぬぐい、創樹は確認した。
『考えたくもないがな』
苦々しげにシグは肯定する。
『実は…そのことでさっきから気になることが…』
創樹の言葉の先を、シグとザットは視線でうながす。
『翔波に教会の敷地に結界を張ってもらっていたんですが、翔波の言うには、結界を解いても鬼や邪魂は外に出ないそうです。鬼や邪魂は教会から…正確には、教会の敷地から出られないみたいです。一応外部からの干渉に対してだけ結界を作用させてもらってます。ですが、干渉があまりに多すぎ、そのうえ干渉には明確な方向性があるので、戦いながらでは防ぎきれない、と…。それでも半数は防いでもらって、この数の鬼と邪魂が…』
創樹の言葉に、シグとザットは顔を見合わせた。
『誰かが明らかにこの教会を狙って、大量の邪魂を送り込んで来ている…。あるいは、おびき寄せている…ということか…』
『そんなこと、できるのか…?』
ザットがシグの呟きに問う。
『邪魂の変質からこっち、妙なことがありすぎる。おまけに神父の件を片付けた直後、この教会がこのありさま。放っておいても、聖域には鬼や邪魂は入れないのに、だ。神父のように乗っ取られた後、人間の殻に護られて入るなら別だがね。何かが狂ってるんだよ。明らかに人為的に狂わされている。…それに、ひとつひとつの鬼は明らかに弱っている。聖域の中だからな』
言われて初めて、ザットは気づく。ひとつひとつの邪魂や鬼は、確かに普段より手ごたえがない。
『彼女の言ったように、邪魂や鬼は、力が阻害されるから扉の外に飛び出したがっている。だが、ショウハの結界が外部へは解かれていてさえ、出ていない。仕方がないから鬼は人間を乗っ取る。乗っ取れば聖域の影響を受けにくいから。だから鬼の核を抜いても抜いても、また別の鬼に人が乗っ取られる』
小学校の低学年くらいの男の子から鬼の核を抜きながら、シグは言った。
『誰かの意思が働いていると考えるしかない。おびき寄せたり送り込んだりが可能か不可能かは、既にこの状態が物語っている』
シグの言葉に、ザットは納得した。
『じゃあ、力を解放するのが無謀、ってのは?』
『一気に力を解放すれば、その後反動で少々無防備になる。そこへまた、邪魂や鬼が送り込まれてくるはずだ。さすがにそれは厳しい。賭けるにしても、少々リスクが高すぎる』
『じゃあ、このまま延々戦い続けるのかよ』
苦笑するシグに、ザットは思わず問う。
『……一気に祓った後、すぐに強力な結界で防御しては…?』
ゆっくりと言った創樹に、虎がうなり声を上げる。
シグはちらりとライオンを見やり、虎の言葉を訳してもらう。
『君の言うことはもっともだ。だが、第一に強力な結界をどうするか…。まずこの量を一気に祓い、かつ、邪魂や鬼を送り込ませない瞬間を作るには、相当な力がいる。サイガにも協力してもらわねばなるまい。なおかつ、その直後にはさすがにロードでも一瞬では結界を張れない。サイガも同様…』
シグは淡々と鬼の核を抜き取りながら告げ、それからちらりと創樹を見た。
『第二に、サイガの言うように、ショウハに結界を張ってもらうとすれば、君は力を使い過ぎる。おまけに、伝説神たるショウハの結界すら、現状で半数と言うから、ここを狙いすました悪意と、この量の鬼や邪魂を全ては厳しいだろう…。君に今、力を使い果たしてもらうのは困るな』
シグは肩をすくめた。
『翔波だけでなく、飛天にも同時に結界を張ってもらいます』
創樹はちらりと微かな笑みを口許に浮かべる。
シグとザットは、思わずその動きを止め、揃って創樹を見つめた。
二人を、それぞれの宿神が守る。
『本気かよ、ソウ。ただでさえこんだけ力使っといて…』
『オーバーヒートするぞ?』
ザットとシグに続き、砕牙もうなり声をあげる。
「お願い、許して?」
創樹は砕牙に応える。砕牙はなおも拒絶のうなりを返す。
「このままじゃ、じょじょに力使い果たして、みんなやられちゃう」
創樹は砕牙から飛び降りる。砕牙が立ち止まり、飛天が一人と一頭の周りを守る。
「何とかできるかもしれないのに、やらないのは嫌だよ」
創樹は真っ直ぐ、穏やかに砕牙を見つめた。
『ちょっと待った。今、ロードに訳してもらった。サイガの言う通り。無謀だ。そこまで君が身を削る理由がどこにある?』
シグが割って入った。
『…ここによく来る女の子…以前、鬼に乗っ取られた女の子と、約束しました。みんなを助けると』
『それだけのためかよ?』
創樹の答えに、ザットが言った。
『私には、それが充分な理由です』
創樹は静かに告げ、再び真っ直ぐ砕牙を見つめた。
砕牙がやれやれ、とばかりに創樹に擦り寄る。
「ありがとう」
創樹は砕牙にしがみついた。それから砕牙に背を示され、創樹は飛び乗る。
『可能だと思いますか? 不可能だと思いますか?』
創樹は静かな瞳で、シグに問う。
『今、選択肢はみっつある。ひとつ、さっき君の言った方法。ふたつ、このまま持久戦に徹し、相手があきらめてくれるのを待つ。みっつ、ここを見捨ててさっさと撤退する。外に鬼は漏れないからな』
シグは、淡い苦笑と共に、静かに告げる。
『いくら外に鬼が漏れなくても、見捨てることはさすがにできねぇなぁ』
ザットが肩をすくめる。
『持久戦は…他力本願な上、あきらめてくれるとは限りません』
創樹が穏やかに言った。
『そういうことだ。ここを見捨てずに活路を開く可能性の高いのは、君の言った方法だけだよ』
シグは淡々と言った。




