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神宿り  作者:
第2章
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34/103

17

『何だ、この数…』

 姿を現した瞬間、右へ左へと、襲いかかってくる人間を避け、ザットはつぶやいた。


 ふと、背後に気配を感じ、振り返る。

 一角獣(ユニコーン)のかたわらに、寄りそう人間。


『来たか』

 シグがつぶやき、身をひるがえす。

『最初の連絡がコレとは参ったね』

 ちょうどシスターを避けた創樹の隣に着地し、シグは苦笑した。


『すみません』

 創樹も淡い苦笑を返す。

 それからスッと、一瞬瞳を鋭くした。


 目の前に迫ってきた邪魂(じゃこん)を避けようとしたシグの視界が、炎の色にさえぎられる。鳥の形をしたそれに触れると、邪魂は霧散した。

『すげェな。フルかよ』

 思わずザットが声をあげる。

 ふっと笑みを口許に刻み、シグは創樹をちらりと見やった。

 創樹は軽く二人に目礼し、宙に舞う。

 次の瞬間、その体は白金色の虎の背にあった。


『負けてられないな…。ロード!』

 シグの声と同時に陽光を(まと)う獅子が、飛びかってくる()かれた人間を一気に五名、弾き飛ばした。


『きゃっ。えっ!? うわっ!!』

 一人叫び声をあげながら、あちこちで消えたり現れたりする峰春。

(リャン)、体力を消耗するぞ! (ユン)と連携しろ!』

 シグが声をあげる。

『そんなこと言われても…ってもっ!!』

 峰春は必死に逃げ惑いながら己の宿神と合流した。


『うおっと、危ねっ。行っけー!! ハック!!』

 妙に生き生きと声をあげながら、ザットは次々と鬼や邪魂に挑む。


『妙だと思わないか?』

 落ち着いて峰春のフォローさえしながら、シグは誰ともなしに問いかける。

『この場所、ですか?』

 虎の上に身をかがめつつ、創樹が問い返す。

『聖域に邪魂と鬼が大量、ってか?』

 ザットが声を投げた。

『さすがにそれくらい知ってたか。…君もね』

 シグがザットに皮肉な笑みを向け、その視線を創樹に移す。


砕牙(さいが)に教わりました。聖域は本来、邪魂や鬼の嫌う場所…』

 創樹の言葉に、シグは彼女をその背に乗せる虎を見る。

 虎は創樹を背に乗せていながら、次々と邪魂や鬼の核を砕き、創樹に危険がおよばないよう、注意も怠らない。


 一角獣はすでに周辺に被害が広まらぬように結界を張った上、挑んでくる邪魂や鬼を、穏やかに、だが、一瞬で(しず)めていた。鳥は宙を舞い飛び、空間自体を浄化しつつ、次々と邪魂を霧散させていく。


『ああ、そうだ。ま、原因究明は後にして…ひとまずこれを何とかしないと…なっ!』

 最後の声を気合と共に吐き出したシグの手が光る。迫って来ていた神父の体に何の抵抗も感じさせず手が沈む。

 何事もなかったかのように、シグは手を引き抜いた。

 その手には、鬼の核が握られている。

 ひとまずぽいっとそれを宙に放り上げると、ちょうど通過した鳥がくちばしにくわえ、浄化させた。

 鳥はザットの宿神であるハックが蹴散らす核も、次々と受け取り浄化して行く。


『……なるほど。この数の宿神を連携させると心強い。流れ作業と行くか?』

 幻神と現神が一人一人を幻術現術(げんじゅつ)に取り込み、飛び出す核を一角獣に放っているのを見て、創樹に言った。

 創樹が頷く。


(りゃん)! (ユン)に鬼の核だけ抜き出させて、後は彼女の宿神に任せろ』

『嫌よ! 私だって戦えるわ! 浄化だって出来る!』

 シグに言われ、むきになったように峰春が反論する。もう、ずいぶんと息があがっている。


『多数を相手にしての戦いは初めてだろう。経験不足だ。それに、効率が悪い。一撃で核を霧散させる力をつけてから、そういうことは言え』

 シグは容赦なく次々と核を抜き出し、飛天やロードに放る。飛天もロードも、一瞬でその核を無害化していた。

 ザットの宿神、ハックも一撃で…。


『いいな?』

『……イエス、リーダー』

 しぶしぶ峰春は頷いた。


 四人とその宿神は、あきれるほどの鬼や邪魂を相手に戦う。

 シグとザットは呼吸をはかりながら、着々と。

 ザットの宿神ハックは狼神で、高位神。勇猛さにおいては他の宿神を隔絶する。


 シグの宿神ロードは、さすがに数頭しか確認されていない最高位神で、誇り高き獅子神の視界に入った鬼や邪魂には、消滅の道しか残されていない。

 ロードの宿主たるシグ自身も力を使うことで、倍の鬼を(はら)う。

 そして、ロードと同じ最高位神の虎神、砕牙。しかも砕牙はただの虎神ではなく、伝説神でもある白虎。

 覇王(はおう)獅子神(ししがみ)、孤高の虎神(とらがみ)

 そう評される最高位神が共に戦っている。

 飛天や翔波も、さすがに伝説神だけあって、優雅に舞い、流麗に跳び、いつの間にか鬼や邪魂を消滅させている。


 高位神でない猫神たちも、そこは希少神。幻術と現術を駆使し、鬼と邪魂を混乱させていた。

 宿主たる創樹は砕牙の背の上で全体を把握しつつ、宿神たちに声を掛ける。

 ただ一人、荒い息をつきながら、峰春はそれでも戦うことをやめない。雲も必死で戦っている。


『梁、そのくらいにしておけ。多数を相手どっての初戦としては充分だ』

 シグの声が上がるが、峰春は戦い続ける。

『梁、戻れ!』

『嫌よ。私だって…』

 再びのシグの命に、峰春は荒い息のした、返した。


『あ…!』

 その瞬間、警戒を怠った。己にぶつかってくる鬼を避けきれない。すでに、とっさに跳ぶ力は残っていない。腕を交差させ、乗っ取られないよう自己結界を張ろうとする。だが間に合うか…

(乗っ取られる!?)

 パニックになりかけた峰春の前に、雲が飛び出した。

『雲っ!?』


「翔波!」

 驚く峰春に重なって、声が響く。

 瞬間、鬼がはじけ飛ぶ。

 雲はふわりと舞いあがり、ゆっくりと峰春の腕の中へ。ぐったりとしているものの、その身に変化はなく、きょとんとしたように峰春を見上げた。それから何かに気付き、一角獣に一声鳴く。

 一角獣も優しい(いなな)きを返した。

 己の周囲に、邪魂や鬼が入って来れないのを悟り、峰春は雲を抱きしめ、声をあげた人物を見た。

 その人物は何事もなかったかのように、虎の上で身をよじって鬼を避ける。


『意地を張るな。足手まといになりたいのか!』

 シグの声が飛ぶ。

『少し、休憩だ』

 そばをすり抜けたザットの声が聞こえた。ザットの手が、肩に触れる。

 峰春は、強制的に跳ばされる(・・・・・)のを感じた。

 ふわり…と、以前、創樹を招いた屋上に降り立ち、峰春は悔しさに唇をかみしめ、崩れ落ちた。


 腕の中の雲が、ふいに消えた。力の回復のために己の中に戻ったのだと、峰春は感じる。

 疲れていた。

 力の使いすぎだ。

 峰春は荒い息を必死に整えた。


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