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『何だ、この数…』
姿を現した瞬間、右へ左へと、襲いかかってくる人間を避け、ザットはつぶやいた。
ふと、背後に気配を感じ、振り返る。
一角獣のかたわらに、寄りそう人間。
『来たか』
シグがつぶやき、身をひるがえす。
『最初の連絡がコレとは参ったね』
ちょうどシスターを避けた創樹の隣に着地し、シグは苦笑した。
『すみません』
創樹も淡い苦笑を返す。
それからスッと、一瞬瞳を鋭くした。
目の前に迫ってきた邪魂を避けようとしたシグの視界が、炎の色にさえぎられる。鳥の形をしたそれに触れると、邪魂は霧散した。
『すげェな。フルかよ』
思わずザットが声をあげる。
ふっと笑みを口許に刻み、シグは創樹をちらりと見やった。
創樹は軽く二人に目礼し、宙に舞う。
次の瞬間、その体は白金色の虎の背にあった。
『負けてられないな…。ロード!』
シグの声と同時に陽光を纏う獅子が、飛びかってくる憑かれた人間を一気に五名、弾き飛ばした。
『きゃっ。えっ!? うわっ!!』
一人叫び声をあげながら、あちこちで消えたり現れたりする峰春。
『梁、体力を消耗するぞ! 雲と連携しろ!』
シグが声をあげる。
『そんなこと言われても…ってもっ!!』
峰春は必死に逃げ惑いながら己の宿神と合流した。
『うおっと、危ねっ。行っけー!! ハック!!』
妙に生き生きと声をあげながら、ザットは次々と鬼や邪魂に挑む。
『妙だと思わないか?』
落ち着いて峰春のフォローさえしながら、シグは誰ともなしに問いかける。
『この場所、ですか?』
虎の上に身をかがめつつ、創樹が問い返す。
『聖域に邪魂と鬼が大量、ってか?』
ザットが声を投げた。
『さすがにそれくらい知ってたか。…君もね』
シグがザットに皮肉な笑みを向け、その視線を創樹に移す。
『砕牙に教わりました。聖域は本来、邪魂や鬼の嫌う場所…』
創樹の言葉に、シグは彼女をその背に乗せる虎を見る。
虎は創樹を背に乗せていながら、次々と邪魂や鬼の核を砕き、創樹に危険がおよばないよう、注意も怠らない。
一角獣はすでに周辺に被害が広まらぬように結界を張った上、挑んでくる邪魂や鬼を、穏やかに、だが、一瞬で鎮めていた。鳥は宙を舞い飛び、空間自体を浄化しつつ、次々と邪魂を霧散させていく。
『ああ、そうだ。ま、原因究明は後にして…ひとまずこれを何とかしないと…なっ!』
最後の声を気合と共に吐き出したシグの手が光る。迫って来ていた神父の体に何の抵抗も感じさせず手が沈む。
何事もなかったかのように、シグは手を引き抜いた。
その手には、鬼の核が握られている。
ひとまずぽいっとそれを宙に放り上げると、ちょうど通過した鳥がくちばしにくわえ、浄化させた。
鳥はザットの宿神であるハックが蹴散らす核も、次々と受け取り浄化して行く。
『……なるほど。この数の宿神を連携させると心強い。流れ作業と行くか?』
幻神と現神が一人一人を幻術現術に取り込み、飛び出す核を一角獣に放っているのを見て、創樹に言った。
創樹が頷く。
『梁! 雲に鬼の核だけ抜き出させて、後は彼女の宿神に任せろ』
『嫌よ! 私だって戦えるわ! 浄化だって出来る!』
シグに言われ、むきになったように峰春が反論する。もう、ずいぶんと息があがっている。
『多数を相手にしての戦いは初めてだろう。経験不足だ。それに、効率が悪い。一撃で核を霧散させる力をつけてから、そういうことは言え』
シグは容赦なく次々と核を抜き出し、飛天やロードに放る。飛天もロードも、一瞬でその核を無害化していた。
ザットの宿神、ハックも一撃で…。
『いいな?』
『……イエス、リーダー』
しぶしぶ峰春は頷いた。
四人とその宿神は、あきれるほどの鬼や邪魂を相手に戦う。
シグとザットは呼吸をはかりながら、着々と。
ザットの宿神ハックは狼神で、高位神。勇猛さにおいては他の宿神を隔絶する。
シグの宿神ロードは、さすがに数頭しか確認されていない最高位神で、誇り高き獅子神の視界に入った鬼や邪魂には、消滅の道しか残されていない。
ロードの宿主たるシグ自身も力を使うことで、倍の鬼を祓う。
そして、ロードと同じ最高位神の虎神、砕牙。しかも砕牙はただの虎神ではなく、伝説神でもある白虎。
覇王・獅子神、孤高の虎神。
そう評される最高位神が共に戦っている。
飛天や翔波も、さすがに伝説神だけあって、優雅に舞い、流麗に跳び、いつの間にか鬼や邪魂を消滅させている。
高位神でない猫神たちも、そこは希少神。幻術と現術を駆使し、鬼と邪魂を混乱させていた。
宿主たる創樹は砕牙の背の上で全体を把握しつつ、宿神たちに声を掛ける。
ただ一人、荒い息をつきながら、峰春はそれでも戦うことをやめない。雲も必死で戦っている。
『梁、そのくらいにしておけ。多数を相手どっての初戦としては充分だ』
シグの声が上がるが、峰春は戦い続ける。
『梁、戻れ!』
『嫌よ。私だって…』
再びのシグの命に、峰春は荒い息のした、返した。
『あ…!』
その瞬間、警戒を怠った。己にぶつかってくる鬼を避けきれない。すでに、とっさに跳ぶ力は残っていない。腕を交差させ、乗っ取られないよう自己結界を張ろうとする。だが間に合うか…
(乗っ取られる!?)
パニックになりかけた峰春の前に、雲が飛び出した。
『雲っ!?』
「翔波!」
驚く峰春に重なって、声が響く。
瞬間、鬼がはじけ飛ぶ。
雲はふわりと舞いあがり、ゆっくりと峰春の腕の中へ。ぐったりとしているものの、その身に変化はなく、きょとんとしたように峰春を見上げた。それから何かに気付き、一角獣に一声鳴く。
一角獣も優しい嘶きを返した。
己の周囲に、邪魂や鬼が入って来れないのを悟り、峰春は雲を抱きしめ、声をあげた人物を見た。
その人物は何事もなかったかのように、虎の上で身をよじって鬼を避ける。
『意地を張るな。足手まといになりたいのか!』
シグの声が飛ぶ。
『少し、休憩だ』
そばをすり抜けたザットの声が聞こえた。ザットの手が、肩に触れる。
峰春は、強制的に跳ばされるのを感じた。
ふわり…と、以前、創樹を招いた屋上に降り立ち、峰春は悔しさに唇をかみしめ、崩れ落ちた。
腕の中の雲が、ふいに消えた。力の回復のために己の中に戻ったのだと、峰春は感じる。
疲れていた。
力の使いすぎだ。
峰春は荒い息を必死に整えた。




