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神宿り  作者:
第2章
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33/103

16

「ったく、だりぃよなぁ…」

 遼介は伸びをする。

「けど、やぁっと今日で最後だ。なぁ、遼介」

「俺もやっと日曜出勤から解放される。なぁ、久保田」

 哲哉と石原に両側から肩をポンッと叩かれ、遼介は「あはは…」と、笑ってごまかす。


「あれ? あの子…」

 と、哲哉が前方から駆けてくる小さな女の子の姿に気づく。

「神代さんに、やたらなついてた…?」

 遼介も思い出し、つぶやいた。

「様子が変だぞ?」

 石原が眉根を寄せる。


「どうしたの? ゆりえちゃん、だっけ?」

 哲哉が腰を折り、女の子に声を掛けた。

 女の子が立ち止まった。

 目に涙を浮かべ、膝からは血が出ている。


「そーじゅお姉ちゃんに、知らせなきゃ。そーじゅお姉ちゃん、どこ?」

 肩で息をしながら、優梨江はぐいっと袖口で涙をぬぐう。三人は顔を見合わせ、首を傾げる。何を知らせると言うのだろう。


「早く、しないと、だめなの。教会に、早く…。そーじゅお姉ちゃんは? 早くしないと、みんなみんな…」

 ヒクッとしゃっくりをあげながら、優梨江は必死な様子で言う。その様子に、三人は顔を見合わせた。どうやって見つけるか…


「あ~…っと、そうだ! あの港南高校の女!」

 ぐしゃぐしゃっと髪をかき回した遼介が、ふいに思いつき、声をあげた。

「それだ!」

 哲哉が急いで携帯を取り出し、電話をかける。

 石原が声を上げて泣く優梨江の頭を撫で、不器用になだめる。


「もしもし? 突然で悪いが神代さんの家どこか知ってるか? ……ったく、お前らが居酒屋で何かいちゃもんつけてた、港南の神代さんだよ! …ああ、その。家は? ………じゃあ、出身中学でもいいから! ……ああ、そうか。ありがとう。じゃあな」

 いつになく乱暴な口調で哲哉は電話を終えた。優梨江が涙を袖口でぬぐいながら哲哉を見上げる。


「長石中出身って」

 哲哉はポンッと優しく優梨江の頭を撫でながら石原に言った。

「長石中校区は、あっちだな」

 石原が道を示す。

「ゆりえちゃん、神代さんは俺たちが教会に連れてくよ」

 哲哉が優梨江に告げ、三人は駆け出した。


 優梨江も追う。だが、すぐに距離が開く。優梨江は転んでもまた立ち上がり、三人を追う。

 その様子に、遼介が駆け戻った。

「おら」

 優梨江を抱え上げると、再び走りだす。


 優梨江は目を丸くして、遼介にしがみついた。石原と哲哉がふっと笑みを浮かべる。

「それにしても、何があったんだい?」

 駆けながら、石原は問う。

「みんなが…みんなが、とられちゃうの」

 優梨江は震えながら言った。


「? とられる? 誘拐?」

「いや…違うだろう。……とられたら、どうなるんだい?」

 遼介が首を傾げ、哲哉が問う。


「変になるの。大変なの。危ないの」

 優梨江が断片的に言った。

「それで、どうして『創樹お姉ちゃん』に知らせなきゃならないのかな?」

 石原がゆっくりと考えながら問う。

「そーじゅお姉ちゃんにしか、どうにもできないの」

「何で?」

 優梨江の言葉に、遼介が再び首を傾げる。

「ゆりえも知らないの。でも、そう思うの」

 優梨江はそれを信じきった瞳で言った。


「あ!」

 と、その優梨江の瞳が前方へ。

「うつつっ!」

 行く先に漆黒の猫が現れ、優梨江が声をあげた。

「そーじゅお姉ちゃん」

 それから現れた人影に、優梨江がさらに声をかける。


「神代さん?」

 哲哉が少々いぶかしげに言った。創樹は三人の前で立ち止まる。珍しく、息が荒く、表情が厳しい。


「お姉ちゃん、みんなとられちゃう!」

「どこ?」

 優梨江の言葉に、創樹はすぐに問う。

「教会!」

「ありがとう、優梨江ちゃん」

 創樹は優梨江に頷くと、息を整えながら携帯電話を取り出した。


『創樹です。例の教会へ向かって下さい。お願いします』

 英語でそれだけ言うと、創樹は電話を切った。

「そーじゅお姉ちゃん、パパもママも…」

「大丈夫。助ける」

 創樹が微かに笑みを口許に乗せ、優梨江の頭を撫でると、優梨江も頷く。


 それから創樹は、鋭い瞳で前方を見つめ、

「急ごう」

「「ミュッ」」

 二匹の猫と顔を見合わせ、駆け出した。


 優梨江以外の三人は顔を見合わせ、首を傾げる。

 だが、ひとまず教会に引き返すことにする。

 遼介が優梨江を地面に下ろしかけ、ひざの傷を見て、やはり抱いたまま歩き出す。

 すでに道路に、創樹の姿はない。


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