12
『……悪いね。それで、その気になる記憶というのは何なのか、教えてもらえるかな…?』
シグは再び創樹を見つめた。
創樹は虎と視線を交わし、それから幻と現を呼んだ。
「お願い。幻、現…」
創樹に頼まれ、二匹の猫が鳴いて、瞳を交わした。
二匹の猫から、光がほとばしった。
その場にいた皆の脳内に、共通の光景が流れ込んでくる。
創樹や虎たち、それから峰春と管狐には、見覚えのある、若い男…。まだ、少年と呼ぶべき年齢か…。
月が出ている。夜だ。
人気のない裏通りを歩く少年は、不意に寒気を覚えた。
辺りを見回しても、ただ、闇が広がっているだけ…。
ゾクリと背筋が凍り、鳥肌が立つ。
―――何か、居る…。
何かにじっと見つめられている気がする。
嫌な予感が、悪寒をともなって迫ってくる。
少年は駆け出した。
だが、その何かから、ちっとも逃れられる気がしない。
ビクリと、少年の足が止まった。
体内に、黒くドロドロとよどんだものを突っ込まれたようだ。
重い氷塊を背負っているかのような感覚と、嫌な、とてつもなく嫌な何かが、ジワジワと体内に浸透してゆく感覚。
何かに体を乗っ取られるっ!!
少年はそう錯覚した。
驚愕と本能的な恐怖がせりあがって来る。
必死に何かに抗う。
屈するものかと必死で抗い続け…ふと、力が抜けた。
荒い息。
冷や汗が、浮かんでいた。
もう、気配はない。
―――去った…。
少年は安堵の息をついた。
寒々としたコンクリートの床に、少年は座り込んでいた。
どうやら廃ビルのようなところらしい。
ヒビの入った窓ガラスを通して射し込む、太陽の光。
少年は紫煙を吐き出す。
と、少年がビクッと顔を上げ、タバコをもみ消し、立ち上がった。
周囲を見回し、不思議そうに重く錆びた鉄のドアを押し開ける。
数歩歩いたところで、少年はびくりと立ち止まる。
耳を澄まし、辺りを探る。
何かに引っ張られるように、少年はひとつのドアの前に立ち止まった。
そっと中を覗く。
そのまま少年は固まった。
ゆっくりと、ドアが開いた。
薄暗い室内。
誰かが居る。
少年は震えながら一歩、また一歩と室内へ…。
室内の人影のそばに虎が現れた。
虎は少年のそばを通り、倒れているサラリーマン風の男の元へ。
虎が倒れていた男から鬼の核を抜き取るのがわかった。
少年は人影の元へと戻ってきた虎に見据えられ、よろめき、しりもちをつく。
それから虎は身を翻し、消えた。
人影は少年に何かをそっと言う。
少年は静かに眠りについた。
少年は友人と別れ、夜の住宅街を歩いている。
しばらくふらふらとあてもなく少年は歩いていた。
角を曲がる。
ふと、その通りに居た少女に気付き、立ち止まる。
地面に居る黒猫と、少女の肩の上から白猫が少年を見つめていた。
少女が少年を見た。
それから不意に視線をそらすと、地面の黒猫に手を差し伸べる。
黒猫が少女の肩に登り、少女は少年に背を向け歩き出した。少女の姿が角を曲がる。
少年はハッとしたように少女の後を追い、角まで行く。
少女の姿はなかった。
夕闇の迫る時刻。
人通りのない道。
ふらふらと何かに導かれるように、街から外れた地域を歩く少年。
少年は足を止めた。
彼に横顔を見せていた少女が、ちらりと振り返る。
すぐに視線を戻すと、少女は飛び掛って来たものをひらりとかわし、それを示した。
少女の傍らにいた角のある馬が、それに向かって突進する。
よく見ると、それは人だった。もうだいぶ歳をとった、男性。
だが、老人はとても歳を感じさせぬ、しかも、とても人間とは思えぬ動きで馬から逃げる。
そして方向を変えると、少女に飛びかかる。
だが、いつの間にか少女の前に立ちふさがるように、角のある馬が立っていた。
老人は馬の瞳に囚われ、びくりと動きを止めた。
馬の角が光る。
角から伸びた光が、脈打つように老人の中に吸い込まれる。
老人の体が、淡い光を放つ。
馬が、消えた。
替わりに少女の肩に、二匹の猫。
白猫と、少年の目が合った…。
神父が険しい表情で何かを言っている。
ピタリと神父は話すのをやめ、とても人間とは思えない動きで祭壇の上に飛び乗った。
と、視線を移すと宙に少女と虎と、一角獣、それに猫たちが浮いている。
少年はふらりと立ち上がり、混乱するステージに魅せられるように歩んで行く。
少年を誰かが止めた。
羽交い絞めにされる。
それでも彼は、一歩、また一歩とステージへ向かう。
さらに、別の男に止められる。
それでも彼の体は、ステージへ…。
突如、目の前に少女が現れた。
彼を止める腕が緩む。
彼はステージへと向かう。
少女の腕が、少年の額へと伸びた。
足が、動かない。
少女の腕を伝い、白猫が彼の元へ。
彼は全身から力が抜けるのを感じた。




