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神宿り  作者:
第2章
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29/103

12

『……悪いね。それで、その気になる記憶というのは何なのか、教えてもらえるかな…?』

 シグは再び創樹を見つめた。


 創樹は虎と視線を交わし、それから幻と現を呼んだ。

「お願い。(ゆめ)(うつつ)…」

 創樹に頼まれ、二匹の猫が鳴いて、瞳を交わした。


 二匹の猫から、光がほとばしった。

 その場にいた皆の脳内に、共通の光景が流れ込んでくる。

 創樹や虎たち、それから峰春と管狐には、見覚えのある、若い男…。まだ、少年と呼ぶべき年齢か…。





 月が出ている。夜だ。

 人気のない裏通りを歩く少年は、不意に寒気を覚えた。

 辺りを見回しても、ただ、闇が広がっているだけ…。

 ゾクリと背筋が凍り、鳥肌が立つ。


 ―――何か、居る…。


 何かにじっと見つめられている気がする。

 嫌な予感が、悪寒をともなって迫ってくる。


 少年は駆け出した。

 だが、その何かから、ちっとも逃れられる気がしない。

 ビクリと、少年の足が止まった。

 体内に、黒くドロドロとよどんだものを突っ込まれたようだ。

 重い氷塊を背負っているかのような感覚と、嫌な、とてつもなく嫌な何かが、ジワジワと体内に浸透してゆく感覚。


 何かに体を乗っ取られるっ!!


 少年はそう錯覚した。

 驚愕と本能的な恐怖がせりあがって来る。

 必死に何か(・・)に抗う。


 屈するものかと必死で抗い続け…ふと、力が抜けた。

 荒い息。

 冷や汗が、浮かんでいた。

 もう、気配はない。


 ―――去った…。

 少年は安堵の息をついた。





 寒々としたコンクリートの床に、少年は座り込んでいた。

 どうやら廃ビルのようなところらしい。

 ヒビの入った窓ガラスを通して射し込む、太陽の光。

 少年は紫煙を吐き出す。


 と、少年がビクッと顔を上げ、タバコをもみ消し、立ち上がった。

 周囲を見回し、不思議そうに重く錆びた鉄のドアを押し開ける。

 数歩歩いたところで、少年はびくりと立ち止まる。

 耳を澄まし、辺りを探る。

 何かに引っ張られるように、少年はひとつのドアの前に立ち止まった。


 そっと中を覗く。

 そのまま少年は固まった。

 ゆっくりと、ドアが開いた。

 薄暗い室内。

 誰かが居る。

 少年は震えながら一歩、また一歩と室内へ…。

 室内の人影のそばに虎が現れた。

 虎は少年のそばを通り、倒れているサラリーマン風の男の元へ。

 虎が倒れていた男から鬼の核を抜き取るのがわかった。


 少年は人影の元へと戻ってきた虎に見据えられ、よろめき、しりもちをつく。

 それから虎は身を翻し、消えた。

 人影は少年に何かをそっと言う。

 少年は静かに眠りについた。





 少年は友人と別れ、夜の住宅街を歩いている。

 しばらくふらふらとあてもなく少年は歩いていた。

 角を曲がる。

 ふと、その通りに居た少女に気付き、立ち止まる。

 地面に居る黒猫と、少女の肩の上から白猫が少年を見つめていた。

 少女が少年を見た。

 それから不意に視線をそらすと、地面の黒猫に手を差し伸べる。

 黒猫が少女の肩に登り、少女は少年に背を向け歩き出した。少女の姿が角を曲がる。

 少年はハッとしたように少女の後を追い、角まで行く。

 少女の姿はなかった。




 夕闇の迫る時刻。

 人通りのない道。

 ふらふらと何かに導かれるように、街から外れた地域を歩く少年。

 少年は足を止めた。


 彼に横顔を見せていた少女が、ちらりと振り返る。

 すぐに視線を戻すと、少女は飛び掛って来たものをひらりとかわし、それを示した。

 少女の傍らにいた角のある馬が、それに向かって突進する。


 よく見ると、それは人だった。もうだいぶ歳をとった、男性。

 だが、老人はとても歳を感じさせぬ、しかも、とても人間とは思えぬ動きで馬から逃げる。

 そして方向を変えると、少女に飛びかかる。


 だが、いつの間にか少女の前に立ちふさがるように、角のある馬が立っていた。

 老人は馬の瞳に囚われ、びくりと動きを止めた。

 馬の角が光る。

 角から伸びた光が、脈打つように老人の中に吸い込まれる。

 老人の体が、淡い光を放つ。

 馬が、消えた。

 替わりに少女の肩に、二匹の猫。

 白猫と、少年の目が合った…。





 神父が険しい表情で何かを言っている。

 ピタリと神父は話すのをやめ、とても人間とは思えない動きで祭壇の上に飛び乗った。


 と、視線を移すと宙に少女と虎と、一角獣、それに猫たちが浮いている。

 少年はふらりと立ち上がり、混乱するステージに魅せられるように歩んで行く。


 少年を誰かが止めた。

 羽交い絞めにされる。

 それでも彼は、一歩、また一歩とステージへ向かう。

 さらに、別の男に止められる。

 それでも彼の体は、ステージへ…。

 突如、目の前に少女が現れた。

 彼を止める腕が緩む。

 彼はステージへと向かう。

 少女の腕が、少年の額へと伸びた。

 足が、動かない。

 少女の腕を伝い、白猫が彼の元へ。

 彼は全身から力が抜けるのを感じた。


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