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神宿り  作者:
第2章
28/103

11

 “()”とは、人の負の感情が増幅し、それ自体が意志を持ち始めた状態のことを言う。


 負の感情は、負の感情を呼ぶ。


 例えば、あまりに悲しみにとらわれている人がいれば、その感情があふれ出し、その人の体を離れる。

 元の人間は少し心が軽くなるが、体を離れた感情の方は、精神が弱っている人や、悲しみに囚われている人に入り込み、さらに悲しみを増幅させる。


 増幅された負の感情は、またその体を離れ、別の負の感情に囚われている人へ…。

 そうして徐々に膨らんだ悲しみや怒り、嘆きなどの負の感情が、やがて暴走する。

 この状態を「〝()〟に()かれた状態」と呼んでいた。


 また、自分の邪念に囚われ、自分の中で増幅させ、やがて暴走させる者もいる。

 通常〝鬼〟は、別の体へ移ると元の人間は正常に戻るが、ここ最近現れた妙な鬼は、完全に祓わない限り、別の体に移った後も元の体に残り、増幅してゆく…。





『…今月初めからこの地域…S市では妙な鬼が現れ始めました。先日私は、ある気配を追って一軒の家に行きました』

 創樹はシグから目を離さないまま、おとなしく待つ鳥と、一角獣の背を撫でる。


『その家に着いた時には、かすかに気配が残っていただけ。しかし翌日調べたところ、その鬼を何とか(はら)おうと、神父がやってきていたことが判明しました。それが、ちょうど一週間前。その翌日から昨日まで、神父は教会には不在だった…』

『その、初めに憑かれたのは?』

『小さな女の子です。その子もその家も、既に飛天が浄化してくれました』

 シグの問いに創樹は答え、鳥を優しく撫でる。


『そうか…。他に、何か知っていることは…? あったら教えて欲しいんだが…』

『…………気になることはあります』

『気になること?』

 眉根を寄せ、繰り返すシグ。創樹は虎と視線を交わす。


『…………泰善高校二年、久保田遼介…。彼女が今日、神父を追っておとずれた学校の生徒です』

 創樹は峰春を示して言った。

『その生徒が、何か…?』

 シグの質問に、再び創樹は虎と見つめ合う。やがてゆっくりとシグに視線を戻した。


『よく現れるんです。()のある場所へ…』

『……………それは…』

 シグが眉根を寄せる。

『いえ、彼が直接何かを知っているわけでは…。ですが、今日も神父がその本性を現した時、彼は魅せられるように…何かに操られるように…神父の方へ…』


 峰春がポンッと手を打つ。

『あの二人がかりで止められてた子ね』

 どうやら思い出したらしい。


『そう、彼です』

『………何故…』

 創樹は峰春に頷き、シグはいぶかしげにつぶやく。


「……(ゆめ)、彼の記憶…」

「みゅっ」

 創樹に声をかけられ、振り向いた白猫が鳴いた。黒猫も狼で遊ぶのをやめ、創樹を見つめる。

『……幻が、彼の記憶に気になるところがあると言ってますが…?』

『『『記憶…?』』』

 創樹の言葉に三人の言葉が重なった。


 シグが白と黒の猫を見やり、合点がいったようにひとつ頷く。

『…そうか。幻神と現神は潜在意識に隠された記憶を掘り起こす力を持っているんだったな…』


『へぇ~。お前、知ってたか?』

 呟いたシグに、ザットが感心したように峰春に小声で言う。

『し、知るわけないでしょ。私はシグザウエルじゃないのよ?』

『勉強不足だな』

『アンタも知らなかったんでしょっ!? その言い方は何よ!』

『ザット、梁』

 再び言い合いを始めそうな二人に、シグはため息をついた。

 二人はぴたりと口を閉ざす。

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